新人の言葉に驚愕
営業部に入社した新人のA子は、有名大学を卒業し、父親は大企業の社長とのこと。入社前から将来のエース候補として期待されていた人物です。ところが、最初の打ち合わせで彼女から飛び出したのは、耳を疑うような発言でした。
「私は効率よく成果を出せる仕事に集中したいので、雑務は古株の方にお願いしたいです。あと、飛び込み営業や既存顧客のフォローも無駄だと思います!」
A子の教育担当を任された私は、クライアントとの信頼関係を築くことが大切だと伝えました。しかし、A子は「古い考えですねぇ」と鼻で笑うのです。さらにA子は「最新のマーケティング理論はご存じですか? 私は戦略的に営業しますから!」と自信満々。実務未経験にもかかわらず営業を語るA子に、私は一抹の不安を覚えました。
課長に相談したものの…
実務が始まると、A子は顧客を訪問せず、メールだけで案件を進めようとしました。私がアドバイスをしても、A子は「そんなやり方じゃ時代に取り残されますよ」と聞く耳を持ちません。
業を煮やして課長に相談すると、「従来のやり方にとらわれない、これが新しい営業だ! 君も少しは見習ったらどうだ?」と、A子をかばうのです。
その後もA子は顧客と直接話さないまま、自己判断で案件を進めていきました。そして、ついに最重要クライアントから「こちらが伝えた納期が完全に無視されている!」と怒りの電話が入ったのです。
A子に確認すると、「海外では多少の遅れなんて普通です。日本の企業も寛容になるべきですよ」と開き直っています。さらに課長まで、「納期に厳しい取引先は放っておけばいい。これも働き方改革だ!」とA子を擁護。このままでは取り返しのつかないことになると考えた私は、社長に直談判することにしました。
社長のひと言で退職へ
ところが、社長まで「うちには新しい営業スタイルが必要だ。君のような古い考えの人間が足を引っ張っているのかもしれないなぁ」と、A子の味方をするのです。
このとき、私は10年間積み重ねてきた努力を否定されたように感じました。私を必要としない会社に残る理由はありません。社長の言葉をきっかけに、私は退職を決意しました。
後日、課長とA子に「今後の顧客対応はお二人にお任せします」と告げ、必要な引き継ぎを済ませて退職しました。
退職後、まさかのSOSが
退職して数日後の夜、知らない番号から何度も着信がありました。仕方なく出ると、社長の情けない声が聞こえてきました。
「頼む、助けてくれ! 長年の取引先から次々に苦情が入ってさ。契約の見直しや取引の縮小を告げられているんだよ!」
私が「もう辞めたので関係ないですよね? 古いやり方しかできない私ではなく、課長とA子さんに任せればいいのでは?」と告げると、社長は「あの二人では手に負えないんだ。むしろ、二人の対応について、取引先から苦情が相次いでいて……」と答えます。
まさか、あれほど私を否定した社長から助けを求められるとは思いませんでした。しかし、私はすでに退職しています。会社を立て直す義理はありません。
泣きついてきた社長に「やっぱり、人と人との信頼があってこそのビジネスでしたね。私は独立の準備で忙しいので、もう連絡しないでください」ときっぱり宣言し、電話を切りました。
新たな道へ
その後、前職では顧客離れが進み、業績も大きく落ち込んだと元同僚から聞きました。A子の掲げた「最新のマーケティング理論」も成果には結び付かず、課長とともに厳しく責任を問われたそうです。
一方の私は、自分の会社を立ち上げました。人との信頼を何より大切にする広告代理店です。独立を公表すると、以前から私の仕事ぶりを知るクライアントたちが自ら連絡をくれました。これまで築いてきた信頼が報われたようで、うれしかったです。
これからは、自分の信じる営業スタイルで、胸を張って仕事にまい進し、お客様に喜んでもらいたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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