2代目が打ち出した店の方針に愕然
2代目は店を継ぐなり、「これからは全国で勝負する! チェーン展開だ!」と豪語し始めました。そして、「効率が悪いから」という理由で、手打ちを廃止し、機械打ちへ切り替えると宣言したのです。
驚いた私は、「先代が守ってきた味はどうなるんですか?」と尋ねました。すると、2代目はニヤニヤしながら、こう言い放ちました。
「機械で打ったそばを食べてみたけど、普通の人には手打ちかどうかなんてわからないよ。それに、宣伝にはお前がそばを打っている写真を使って、『本格そば』ってうたうから問題ない」
私は耳を疑いました。「私が作っていないものの宣伝に、私の写真を使わないでください」ときっぱり断ると、2代目は鼻で笑い、「だったら、まかない用に手打ちそばでも作っていればいい」と嘲笑したのです。
先代の思いも、職人としての誇りも踏みにじるような態度に、私の中で何かが切れました。「店の方針には納得できません。辞めさせていただきます」そう告げて、私は10年以上勤めた店を後にしました。
退職した私を待っていた、予想外の展開
突然職を失った私でしたが、思いがけない展開が待っていました。以前から私の腕を評価してくれていたそば農家や取引先の方々、そして常連客の皆さんが、「お前のそばが食べたい」「独立するなら支援するぞ」と背中を押してくれたのです。
幸運にも条件の良い空き店舗を紹介してもらい、私は自分の小さなそば店を開くことになりました。
そして迎えたオープンの日。開店を知らせると、「待ってました!」「予約して食べに行くよ!」と常連客から問い合わせが殺到し、店は連日多くのお客さんでにぎわうようになりました。
一方、2代目が機械化を進めた元の店はというと……。「値段は上がったのに、そばの風味がなくなった」「コシも感じられない」と、長年通っていた客が次々と離れ、客足は激減。全国展開の足がかりとなるはずだった新店舗も、資金繰りの悪化によって、相次いで中止に追い込まれたそうです。
元の店から届いた、思いがけない連絡
そんなある日、私のスマホに2代目から連絡がありました。「お前がいないと、昔からの客がうるさくてさ。特別に店へ戻してやってもいいぞ」
相変わらずの上から目線に、私は呆れ果てました。そして、きっぱりと言い返したのです。「お断りします。私はもう、自分の店と味を守る職人ですから」
現在、私の小さな店は、ありがたいことに毎日多くのお客さんでにぎわっています。一方、経営が傾いた元の店では、昔から働いていた従業員たちも次々と退職。風のうわさによると、閉店が決まったそうです。
職人の技術や、長年かけて築いてきたお客さんとの信頼は、決して軽んじてよいものではないと、2代目も身をもって思い知ったことと思います。
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全国展開という夢を持つこと自体は、決して悪いことではありません。しかし2代目には、まず店を支えてきた従業員との信頼関係を築くことが必要だったのかもしれません。無理に改革を押し進めるのではなく、先代が守ってきた味や職人の技術を尊重しながら、周囲の意見にも耳を傾けてほしかったですね。
【取材時期:2026年7月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。