なぜ自家製鶏ハムの低温調理は危ないといわれるの?

「沸騰したお湯に鶏肉を入れて火を止め、あとは放置するだけ」
一見、手軽で失敗しにくそうに見える調理法ですが、実はこの方法では鶏肉の中心まで十分に加熱できないことがあります。
不十分な加熱では食中毒菌が生き残ってしまうことも
鶏肉にはカンピロバクターやサルモネラ属菌などの食中毒菌が付着していることがあり、加熱が不十分だと菌が生き残り、食中毒を引き起こす可能性があります。
食中毒菌を十分に減らすためには、食品の中心温度が63℃に達してからさらに30分(または70℃で3分、75℃で1分)以上になるよう加熱が必要です。
しかし、火を止めるとお湯の温度は少しずつ下がります。
さらに、お湯の量や鶏肉の大きさ、室温などによって加熱状態は変わるため、レシピどおりに放置しても中心温度が十分に上がるとは限りません。
こうした理由から「お湯ドボン」だけでは加熱不足になることがあるのです。
食品安全委員会でも、低温調理では中心温度を適切に管理するよう注意を呼びかけています。
カンピロバクターってどんな菌?
カンピロバクターは、鶏肉による食中毒で最も多い原因菌のひとつです。
厚生労働省でも「新鮮な鶏肉だから安全というわけではない」と注意を呼びかけています。
カンピロバクター食中毒では、腹痛や下痢といった消化器症状を起こす恐れがあります。
さらに、感染後に手足・顔面神経の麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症する場合もあるため、注意が必要です。
見た目や肉汁で判断するのはNG
「中心が白っぽくなっているから大丈夫そう」「肉汁が透明だから火は通っているはず」
そんなふうに見た目で判断していませんか?
実は、鶏肉は中心まで火が通っているように見えても、内部の温度が十分に上がっていないことがあります。
下記は、食品安全委員会のWEBサイトに掲載されている解説写真です。
加熱が不十分でも、見た目だけでは判断できないことがわかります。
鶏肉「お湯ドボン」の低温調理は危ない?検証してみた
「お湯ドボン」は、本当に加熱が不十分になるのでしょうか?
実際に検証してみました。
沸騰したお湯にドボン→放置で検証
鶏ハムのレシピには、さまざまな作り方があります。
鶏肉を鍋に入れてすぐに火を止めて放置するレシピもあれば、弱火〜中火で数分加熱してから放置するレシピもあります。
今回は「沸騰したお湯に鶏肉を入れてすぐに火を止め、○分放置する」という方法を試してみることにしました。
鶏むね肉1枚(約300g)に塩小さじ1/2をすり込み、30分ほど常温に置きます。
その後、沸騰したお湯に鶏肉を入れてすぐに火を止め、ふたをして放置しました。

時間の経過に合わせて、鶏肉の中心温度を測定した結果がこちらです。
※複数個所測り、温度が一番低いところで測り続けました

30分後と45分後には鶏肉の中心温度が63℃に達していました。
しかし、その後は温度が下がり、60分後には59.8℃まで低下しています。
食中毒対策では、鶏肉の内部の最も温度が低い部分が63℃に達してから30分以上保つことが目安です。
今回はこの条件を満たしておらず、十分な加熱とはいえない結果となりました。
60分後に鶏肉を切ってみた断面がこちらです。

一見すると火が通っているように見えます。
しかし、今回の検証からも、見た目だけで加熱が十分かどうかを判断するのは難しいことがわかりました。
なお、撮影したのは7月中旬で、外気温は約33℃。
冷房はつけていましたが、室温は26〜27℃という条件でした。
冬場など気温が低い時季はお湯の温度がさらに下がりやすくなるため、より温度管理が難しくなる可能性があると考えられます。
鶏ハムの食中毒対策3つ【低温調理は危ない?】
「見た目では判断できないなら、どうすればよいの?」と思った方も多いのではないでしょうか。
自家製鶏ハムをおいしく安全に楽しむために、食中毒対策として押さえておきたいポイントを3つ紹介します。
①低温調理器を使用する
最も手軽に温度管理しやすいのは、温度を一定に保てる低温調理器を使用する方法です。
設定した温度を一定に保ちながら調理できるため、適切な温度管理を行いやすくなります。
必ず説明書に記載された温度や加熱時間を守り、自己判断で短縮したり変更したりしないようにしましょう。
最近では、低温調理機能が付いた炊飯器もあります。
お持ちの炊飯器に対応機能があるか確認してみるのもおすすめです。
②中心温度計で確認する
低温調理器がない場合は、中心温度計を使う方法があります。
中心温度計は1,000〜2,000円程度で購入でき、家庭でも手軽に使えます。
こちらは筆者がAmazonで購入したものです。

お湯の温度だけでなく、鶏肉の中心温度も確認しながら、中心温度63℃で30分間(または70℃で3分間、75℃で1分間)になるよう調理しましょう。
③ちょっとパサついてもしっかり加熱する
低温調理器や中心温度計を使うのが望ましいとはいえ、お持ちでないご家庭がほとんどかと思います。
そのようなときは、少し鶏肉がパサついても中心までしっかり加熱しましょう。
蒸し器を使ったり酒をもみ込んだりするなどの工夫をすれば、しっかり加熱してもパサつきにくくなりますよ。
実際、管理栄養士である筆者も中心温度計を使って確認していますが、「少しパサつくくらいならOK」という気持ちで、中心までしっかり加熱しています。
温度管理をしながら鶏ハムを作ってみた!
「実際にはどのくらい加熱すれば、安全においしく作れるの?」と思う方も多いのではないでしょうか。
そんな疑問を確かめるために、実際に温度管理をしながら鶏ハムを作ってみました。
参考にしたのは、食品安全委員会のWEBサイト内に掲載されている「鶏肉の低温調理『安全に美味しく食べ物を調理しよう』」という動画です。
動画では、鶏むね肉約300g・厚さ約3cmの場合、63℃のお湯では中心温度63℃になるまで約70分、さらに30分加熱する方法が紹介されています。
今回は、287g・厚さ約3cmの鶏むね肉を用意し、できるだけ同じ条件で検証しました。

塩を重量の約1%もみ込み、30分ほど常温に置いたあとにお湯に入れ、お湯の温度が63℃前後になるよう調整しながら加熱します。

動画内では鶏肉を密封式保存袋に入れていましたが、試したところ鶏肉が浮いてしまい、温度管理が難しくなりました。
そのため、今回は鶏肉をそのままお湯に入れています。
約50分後には、鶏肉の中心温度は65℃まで上昇。

その後、お湯の温度が下がらないよう注意しながら30分加熱して完成です。
仕上がりは全体的にしっとりとしていて、おいしくできました。

ただし、お湯の温度を一定に保つのは想像以上に大変です。
火を止めたりつけたりを繰り返しながら温度を調整する必要があり、鍋のそばを長時間離れられませんでした。
安全に作るためとはいえ、手間も時間もかかるため、今回実際に試してみて「低温調理器があると便利だな」と感じました。
管理栄養士の筆者、鶏ハムを作るときはどうしてる?

先ほどもお伝えしたとおり、筆者が鶏ハム(サラダチキン)を作る際は、食中毒対策を優先し、中心温度計を使って温度を確認しながら、中心までしっかり加熱するようにしています。
ゆっくり火が通るよう、グラグラと沸騰させないことを心掛けながら加熱すると、しっかり火を通しても比較的しっとり仕上がりますよ。
もちろん、低温調理のようなしっとり感には及びませんが、今のところ家族から「かたい」「パサパサ」といった声はなく、おいしく食べられています。
食中毒対策を優先すると、食感とのバランスが難しい面もありますが、筆者はこれからもこの方法で作り続けようと思っています。
鶏肉「お湯ドボン」の信じすぎは危ない?低温調理する際は注意して!

手軽に作れる「お湯ドボン」の鶏ハムですが、加熱不足になるリスクがあります。
食中毒対策では、何よりも鶏肉の中心までしっかり火を通すことが大切です。
また、作ったあとは常温で長時間置かず、粗熱が取れたら早めに冷蔵・冷凍保存しましょう。
生肉を扱った包丁やまな板、手指をよく洗うことも忘れないでください。
「お湯に入れるだけで大丈夫」と思い込まず、適切な調理方法を心掛けて、おいしい鶏ハムを楽しんでくださいね。