「君の席はないから帰って」
義両親に指定された高級料亭の個室に入ると、そこには見知らぬ男性がすました顔で座っていました。
僕が困惑していると、妻が嬉しそうに「あ、紹介するね! 私の幼なじみのAくん。今は大病院のお医者さんなんだよ!」と言ったのです。
すると義父が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて僕にこう告げました。
「いやあ、急にAくんが来られることになってね。ぜひ一緒にって来てもらったんだけど、残念ながら席の追加はできないみたいなんだ。というわけで、悪いけど君の席はないから、帰ってくれ」
妻も義母も、エリート医師だというAさんを囲んで「あの大病院に勤めてるなんて立派だわ」「今からでも娘をもらってほしいくらい」と大盛り上がり。
僕の存在を完全に無視し、早く帰れと言わんばかりの冷たい視線を送ってきます。あまりの理不尽さに、僕は怒りを通り越して情けない気持ちになってしまいました。
娘が気付いた「おじさん」の正体
僕がトボトボと荷物をまとめ、部屋を出ようとしたその時です。それまで静かに様子を見ていた娘が、突然Aさんの顔をじっと見つめ、人差し指をツンと立てて大声をあげました。
「あれ? 昨日クビの、ハンバーグのおじさんだ!」
部屋が一瞬で静まり返りました。
義父は「こら、お医者様に向かってなんて失礼なことを言うんだ!」と娘を激しく叱りつけましたが、娘は首を振って無邪気にこう続けました。
「違うもん! 昨日、パパと2人でハンバーグ食べに行ったとき、お店の人が『サボってばかりなら、もう明日から来なくていい!クビだ!』って怒られてたおじさんだもん! 絶対そうだもん!」
実はそのお店は、僕と娘がよく行くお気に入りのファミリーレストランでした。昨日、たまたま食事をしていた際、厨房近くで店長さんが「シフトをすっぽかしてばかりのアルバイト」に対して激怒しており、娘はその様子とAさんの顔をしっかりと記憶していたのです。
「あぁ……ほんとだ。昨日のレストランの店員さん……」
スーツを着ていたので気付きませんでしたが、よく見れば確かに彼でした。

嘘が暴かれた自称エリートの末路
娘と僕の言葉を聞いた瞬間、それまでドヤ顔をしていたAさんの顔から血の気が引き、ガタガタと震え始めました。
そうなのです。彼はエリート医師などではなく、定職にも就かずにアルバイトを転々としているフリーターでした。
妻や義家族にマウントを取るために、「エリート医師」という真っ赤な嘘の肩書をでっち上げていたのです。
事実を知った義両親と妻はパニックに。「えっ、Aくん、お医者様じゃないの!?」「ファミレスの店員ってどういうこと!?」と詰め寄りますが、Aさんは何も言い返せず、カバンを持って逃げ出そうとしていました。
「それじゃ、僕はこれで失礼しますね」と僕がすかさず帰ろうとすると、焦ったのは義両親です。
これまでの会食でも平気で人にタダ飯を求めてきた義家族ですから、おそらく最初は自称“エリート医師”の彼にご馳走してもらうつもりだったのでしょう。しかし当てが外れて逃げられそうになり、今度は僕にお鉢が回ってきたというわけです。
「待ちなさい! お会計はどうするんだ! 彼のことはもういいから、一緒に食べよう!」と義父が引き留めてきましたが、僕は冷ややかに返しました。
「僕の席はないとおっしゃいましたよね? お義父さんのお望み通り、僕は帰りますので、支払いはお義父さん、もしくはエリートな幼馴染の彼がどうぞ」
「えっ……!?」と青ざめる義両親と彼。この料亭は完全予約制で、当日のキャンセルは一切効きません。1人あたり数万円もする最高級コースの料金を、お財布代わりに僕を利用しようとしていた義家族は、幼なじみの彼の分も含めて全額自腹で支払う羽目になったのでした。
幼い娘の観察力と純粋なひとことが、見栄と嘘にまみれた義家族の鼻を明かしてくれた、最高にスカッとする出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。