義母の誕生日を盛大に祝おうと張り切る義姉は、義母本人の希望より、見栄えや周囲の評価ばかりを優先しました。ついには夫の元交際相手まで会場に招き、私を追い出したのです。ところが誕生日会の当日、義姉の思惑は大きく外れることになったのです――。
義母の希望を聞かない義姉
私と義母が親しくなるにつれ、義姉は「母のことを一番わかっているのは私」と、ことあるごとに私に張り合うようになっていました。なかでも、義母の誕生日会には強いこだわりがあるようでした。
義母の誕生日を1カ月後に控えたころ、義姉から電話がかかってきました。
「今年は去年より盛大にやるから。ホテルのラウンジを予約して、生演奏も頼むの。料理もケーキも一流のものをそろえるわ」
昔から派手好きな義姉のせいで、義母の誕生日会は年々豪華になっていました。ただ、前年の会のあと義母が疲れから体調を崩したので、今年は家族だけで落ち着いて祝えないかと私から提案しました。すると義姉の声が急に低くなります。
「お母さんは喜んでいたわよ。せっかく祝ってもらえるのに、疲れたなんて言うはずないでしょう」
「でも、お義母さんご本人が――」
「私の母親のことは、私のほうがわかってるの」
取り付く島もありません。義姉に考えを変える気がないとわかり、私は義母の希望を少しでもかなえたいと、好物の栗のケーキを作らせてほしいと申し出ましたが、義姉はそれすら鼻で笑いました。
「素人の手作りケーキなんて、ホテルの会場に合わないわ。写真に残ったら、そこだけ安っぽく見えるでしょう」
義母を喜ばせたいのではなく、豪華な会を開いた自分が褒められたいだけなのではないか。私はそう感じました。
「企画は私に任せて。あなたは当日、言われたとおりに動けばいいの」
そう一方的に告げて、電話は切れました。
前日にも義姉から連絡があり、「念のため言っておくけど、ケーキは持ってこないでね。持ってきても会場には出さないから」と釘を刺されます。義母に渡すだけでも駄目かと尋ねても答えは同じで、私は悔しさをのみ込み、手ぶらで会場へ向かうことにしたのです。
会場にいた夫の元交際相手
誕生日会の当日、夫は仕事で少し遅れて来ることになり、私は先にホテルへ向かいました。花や風船で華やかに飾られた会場の入口には、義姉と、きれいに着飾った女性が並んで立っています。
「紹介するわ。弟の元カノ」
私の反応を楽しむように笑う義姉によれば、女性は学生時代からの友人で、以前、夫と短期間付き合っていたそうです。義母とも面識があるから招いたと言いますが、私と彼女を比べて、私をおとしめるつもりなのではないかと思いました。
「この子、お父さまがお医者さまで、昔から品があるのよ。こういう席には、華やかな人がいたほうがいいでしょう?」
元交際相手が戸惑いを見せても、義姉はお構いなしに私と彼女を見比べます。
「あなたも頑張って着飾ったみたいだけど、やっぱり地味ね」
親族が集まり始めるなか、義姉は到着した人の案内や荷物の整理を私に押し付け、元交際相手を義母の隣に座らせるからと、私を端の席へ移らせようとします。さすがに断ると、義姉は周囲に聞こえないよう、私のスマホへメッセージを送ってきます。
「元カノの方が美人で華があるの。地味嫁はあっちに行ってて。母さんの誕生日会が台無し」
画面を見た瞬間、怒りより先に気持ちが冷めていきました。何を言っても逆らわず最後は我慢する、そういう相手だと私を見くびっているのでしょう。私は短く返信しました。
「……じゃ、帰りますね」
驚くどころか「そうして」と言いたげに笑う義姉を残し、私は会場を出ました。到着直前だった夫には、義姉から届いたメッセージの画面を添え、「帰るように言われたので、先に帰ります」と送りました。
30分後、義姉の声が震えていた
ホテルを出て30分ほどたったころ、義姉から何度も着信が入りました。しつこさに負けて電話に出ると、先ほどまでとは別人のような声が返ってきます。
「お願い、今すぐ戻ってきて!」
「はい?」
話を聞くと、会場に着いた夫は、義母から私がいない理由を尋ねられたそうです。そこで夫は、私から送られてきた義姉のメッセージを見せ、義姉が元交際相手を招いたうえ、私を追い返したことを説明しました。
義母はしばらく黙っていたものの、やがて席を立ち、「あの子を追い返してまで開く会なら、私は祝ってもらわなくて結構」と、用意されたケーキにも手を付けず帰り支度を始めたといいます。
「お母さんが帰るなんて言い出したら、招待客に何て説明すればいいのよ。主役が帰ったら、私の格好がつかないでしょう。お願いだから、あなたから謝って戻ってきて。ケーキだって、今から持ってきてもいいから!」
先ほどまでの強気な態度は消え、義姉の声ははっきりと震えていました。私は努めて明るい声で答えました。
「でも、地味な私が戻ったら、せっかくの華やかな誕生日会が台無しになりますよね」
「そんなこと、今はどうでもいいの!」
「私にはどうでもよくありません。お義姉さんが望んだとおり、私は戻りません」
「じゃあ、この場をどうすればいいのよ」と助けを求める義姉に、私は静かに告げました。
「お義母さんが帰ると言っているなら、まずはご自分のしたことを謝ったらどうですか。お義姉さんが勝手に決めて準備した会なのですから、私に頼らず、最後までご自分で責任を持ってください」
そう言って、私は電話を切りました。
あとから夫に聞いて初めて知ったのですが、義母は事前に義姉へ、大人数の会は負担だから今年は控えめにしたいこと、私の手作りケーキを楽しみにしていること、家族中心の会にしたいので友人まで呼ばなくてよいことを、はっきり伝えていたのです。それでも義姉は、義母の希望を知りながら、自分の見栄と満足を優先していました。
あとになって、義姉が会場費や飲食代を「家族で分担すればいい」と考え、事前の相談もないまま高額なプランを予約していたことも判明しました。義母本人の希望を無視して勝手に企画した会であるうえ、主役にまで費用を負担させようとしていたため、夫は支払いを拒みました。
義姉は「家族の祝いなのだから、みんなで払って当然でしょう」と言い張りましたが、義母から「自分で決めたことは自分で責任を持ちなさい」と突き放されたそうです。
夫が事情を説明したことで、義姉が私へ送ったメッセージの内容は、その場にいた人たちにも伝わりました。元交際相手も、自分が私への当てつけとして招かれたと知り、義姉に抗議して会場をあとにしたそうです。
結局、誕生日会は食事だけで早々にお開きとなり、義姉は会場費や飲食代、生演奏などにかかった費用を自分で負担することになったのです。
義母が喜んだ、小さな誕生日会
翌日、義姉から「お母さんに私を許すよう言って」と連絡がありました。前日とは打って変わって低姿勢でしたが、自分の行動を悔いるというより、義母との関係だけを取り繕いたい様子です。
「お義母さんの気持ちは、お義母さんが決めることです。私から説得はしません」
そう断ると、義姉は「家族なのに冷たい」と食い下がってきます。
「家族だから、何をしても許されるわけではないと思います」
私がそう返すと、義姉は何か言いかけたまま黙り込み、勢いを失った声で「もういい」とつぶやいて電話を切りました。
義母はこの件をきっかけに、これからの誕生日会については夫と私へ直接希望を伝え、家族行事を義姉に任せるのもしばらくやめると決めたそうです。
数日後、私たちは義母を自宅へ招きました。私が焼いた小さなモンブランを囲み、義母と夫、私の3人で食事をしただけのささやかな会です。それでも義母は「こういう誕生日が一番落ち着くわ」と笑い、ケーキを味わってくれました。
このごろは義母と、次はどのお菓子を作ろうかと相談するのが楽しみです。以前のように義姉の顔色をうかがうことも、少しずつ減ってきました。今は夫も交えて、秋になったら栗拾いのできる農園へ出かけようと、義母と候補を調べているところです。
今回のことで、家族だからといって、傷つく言葉や身勝手な振る舞いまで我慢して受け入れる必要はないのだと気づきました。相手の機嫌を損ねないように自分ばかりが譲っていても、穏やかな関係が築けるとは限りません。これからは、嫌なことには嫌だと伝え、必要なときには距離を置きながら、自分を大切にしてくれる人との時間を守っていきたいと思っています。
【取材時期:2025年7月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。