ピアノの先生は物腰がやわらかく、上品な雰囲気の若い女性でした。とてもやさしく指導してくれる良い先生だったのですが、娘はあっという間にピアノへの興味を失ってしまいます。
家で練習するために買った電子ピアノには一切触れません。
そんな娘の姿を見ても、夫は「自分が『やる』と言ったことを簡単にやめさせたら忍耐力がつかない。将来わがままになる」と言い張り、退会を認めません。
泣いて嫌がる娘を無理やり教室へ連れて行く夫の姿に、私は「そこまでして嫌なことをさせる必要があるのだろうか」と疑問を抱くようになりました。
夫は「女の子が生まれたらピアノを習わせたいと思っていた」と口にしますが、私は子どもの得意・不得意を尊重し、好きなことや興味のある部分を伸ばしてあげたいと考えていたのです。
ピアノ教室を絶対に休ませたくない夫
夫は、家でも嫌がる娘を強引にピアノの前に座らせて練習させるのですが、その様子があまりにも厳しく、見ていると嫌な気分になります。私の不在時には「弾けるようになるまでやめるな」と怒鳴りつけ、3時間も練習をさせたと娘から聞きました。
これでは娘が嫌になるのも当然です。私が娘をかばったり教え方に意見したりすると、夫は「俺がやっていることに口出しするな!」と怒ります。どうにかして娘を夫とピアノから解放してあげたいのに、何を言っても夫は聞く耳を持ってくれませんでした。
あるレッスンの日のこと。娘は体調を崩し、熱を出してしまいました。
娘を連れて病院へ行ったものの、大変混雑していてなかなか診察が進みません。体調や時間を考えてもこの日のレッスンは難しいと思い、キャンセルの連絡をしようとしていた矢先、夫からメッセージが入りました。
「レッスンに間に合わなくなるからすぐに帰ってこい」と夫……。「どうせただの風邪だ。すぐ治る、大したことない」という言葉に、私は呆然としました。
「ピアノ教室には行かせる」「熱くらいで甘えさせるな」
父親としてあり得ない身勝手な発言に、私もついに怒りが限界に達しました。
「教室に行きたいのは、あんたでしょ?」
実は、夫がなぜそこまでピアノ教室に固執するのか、私はすべてを知っていたのです。
夫は一瞬うろたえたものの、「休めば周りに遅れをとる」と必死に“娘のため”を装って言い訳を続けました。けれど、それは娘のためではありません。
夫がピアノ教室に執着する理由
実はこの日、レッスンのあとにピアノの先生を交えて3人で話し合いをする予定でした。夫には伏せていましたが、事前に先生から「ご主人に迷惑している」と深刻な相談を受けていたのです。
先生によると、夫から毎日のようにメッセージが届き、執拗に食事へ誘われて困っていたとのことでした。
娘の発熱で対面での話し合いは叶わなくなりましたが、夫にこの件を追及し、「自分の欲のために娘を利用しないで」と伝えると、夫は「保護者として必要な連絡を取り合っていただけだ」と苦しい言い訳を始めました。
しかし、すでに私の心は決まっています。夫に離婚を突きつけました。
診察が終わると、私は娘を連れてそのまま実家へ直行しました。その後も夫はしつこく連絡をよこし、離婚を拒んでなんとかつなぎ止めようと必死です。
あろうことか「自分が誘ったのではなく、先生からしつこく誘ってきた」「お前は先生に騙されている」とまで言い出す始末でした。
ですが、夫が先生に送った不快なメッセージや何十件もの留守電、さらには誘いを断られて「悪い口コミを書いてもいいのか?」と脅迫していたスクショまで、私は事前に先生から共有され、すべて確認済みです。
それに、私が何より許せないのは、夫の浅ましい下心以上に、その欲を満たすために娘を利用したことでした。重なる嘘と言い訳に呆れ果て、夫への情は完全に冷めきっていたのです。
パパ気持ち悪い! 会いたくない!
すでに義父母にも事情をすべて報告済みだと伝えると、夫は一転して謝罪モードに変わりました。けれど時すでに遅く、私の横で電話を聞いていた娘からも「パパ気持ち悪い! 会いたくない!」と拒絶する言葉が飛び出します。
子どもであっても、夫が先生に向ける視線に勘づいていたのです。娘がピアノ教室に行きたがらなかったのも、それが理由でした。夫がしていた行為は、ある意味で不倫以上に不気味で身勝手なものでした。
娘からの容赦ないひと言にようやく諦めがついたのか、夫は無駄な抵抗をやめ、離婚の手続きを進めることに承諾しました。
こうして無事に離婚が成立。私は娘を連れて一時的に実家へ戻り、新生活に向けた資金を貯めているところです。父親に心を傷つけられた娘のケアを第一に考えながら、準備が整い次第実家を出て、ふたりで笑顔あふれる人生を歩んでいこうと思います。
◇ ◇ ◇
子どもは親の言葉だけでなく、視線や空気感、わずかな変化を大人が思う以上に敏感に察知しているもの。「子どもにはわからないだろう」という身勝手な思い込みや甘えが、大切な子どもの心を傷つけ、取り返しのつかない事態を招くこともあるでしょう。
わが子を守り、親として信頼される存在であり続けるために、子どもの前では常に誠実でいたいですね。
【取材時期:2026年6月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。