「夏みかん、食べる?」
現在の職場では、忙しくないときには趣味や健康、家族のことなどで話が弾み、同僚と程よい距離感で働けています。
ある日、同じ時間にシフトに入っていたTさんから「夏みかん、食べる?」と唐突に聞かれました。「なぜ夏みかんなのだろう」と不思議に思いながら、私は「えぇ、食べますけど……」と答えました。
質問の意図がつかめずにいると、Tさんは「静岡の実家で夏みかんを作っていてね。今年は豊作だから、周りに食べる人いないかなって姉が言ってきたの」と話し始めました。
「ああ、お裾分けの話か……」と、私はすぐに理解しました。夏みかんが余って困っているので、知り合いにお裾分けしたい、ということなのだと。しかし、それは私の早合点でした。
お裾分けの話じゃなかった!
Tさんによると、みかん農家だった父親が亡くなってから、実家近くに住む姉と神奈川で暮らすTさんが農園を相続したそうです。2人とも農業を本業にしているわけではないようですが、果樹は毎年実をつけ、収穫期になると周囲に欲しい人を探しているとのこと。
Tさんは「だから、夏みかん、食べないかなと思って」と繰り返した後、「とはいっても、買ってもらうんだけどね」と小声で付け加えたのでした。
「ん?」
その瞬間、私は身構えました。まさかと思いましたが、夏みかんをお裾分けしてくれる話ではなく、購入してくれる人を探しているのだとわかりました。
私自身は夏みかんやはっさくなどの柑橘類が好きですが、夫や子どもたちは酸っぱい果物が苦手なので、わが家では買ってきてまで食べることはありません。近所の方から庭で穫れた夏みかんやはっさくをよくお裾分けしてもらいますが、食べるのは私だけ。突然「買ってもらう」という言葉が出たため、私は警戒してしまったのです。
気まずい心理戦の行方
Tさんは気まずさを打ち消すように「姉がね、Tちゃんは友だちが多いし営業がうまいからって、すぐに私を使うのよ」と笑って話を続けました。私は「そうなんですね」と笑いながら、心の中では、「それはお付き合い上、断りにくいからでは? そもそも、職場で販売を持ちかけてもよいのだろうか……」と思いました。
Tさんは、この時期になると、職場やご近所、習い事の仲間などに声をかけ、購入してくれる人を募っていると話していました。付き合いで「私も欲しい」と申し出たほうが良いのか、一瞬迷いました。しかし、値段もわからず、個数単位で買えるのか、袋や箱単位で購入することになるのかもわかりません。
どう答えようか迷っていたそのとき、職場に電話がかかってきました。私が応対することになり、話はいったん中断しました。
電話を終えた後は急に忙しくなり、夏みかんの話はそのまま立ち消えになりました。
まとめ
後でほかの同僚に聞くと「私は買ってないよ」とのことでした。私も無理に買う必要はなかったようです。その後、Tさんから再び購入を勧められることもありませんでした。でも、円滑な人間関係が求められる職場で、年上の先輩から商品を勧められたとき、あっさり断るのは難しいと思います。
今回は最初に「夏みかん、食べる?」と聞かれたため、お裾分けの話だと思い込み、買う気はないと伝えるタイミングを逃してしまったのでした。Tさんに強く売り込む意図はなかったのかもしれません。それでも、親しい相手との金銭が絡むやりとりでは、ちょっとした言葉の受け取り方の違いが、思いがけない気まずさにつながるのだと感じた出来事でした。
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※AI生成画像を使用しています
著者:あらた繭子/50代女性/1999年生まれの息子と2005年生まれの娘をもつフリーライター。長年にわたる無茶な仕事ぶりがたたり、満身創痍の身体にムチを打つ毎日。目下の癒しは休日のガーデニングと深夜のKPOP動画視聴。
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年7月)
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