結婚式での宣告
「出身大学はどちらですか?」義姉に聞かれ、私が地元の短大を出て中小企業で事務をしていると答えると、「まあ、堅実でいらっしゃるのねぇ」とにっこり。ところが私が席を外したとき、義姉が母親に「どこぞの大学かと思ったら……」と小声で笑うのが聞こえました。義姉自身は有名大学を卒業し、大手企業で働いていることを誇りにしている様子。その後は私への興味もすっかり薄れたようでした。
さらにモヤモヤする出来事が起きたのは、半年後の結婚式。親族控室で義姉と2人きりになった、ほんの数分のことです。「私たち、住む世界が違うと思うんです。無理して話題を合わせるのも大変でしょうし、今後のお付き合いは必要最低限にしましょうね」義姉は笑顔のまま、あっけらかんとそう言い放ったのです。私はただ、ポカンとするばかり。
両親にこのことを離すわけにもいかず、結局私だけがモヤモヤを抱え込むことに。それ以来、お盆や正月であっても義姉が実家に顔を出すことはなく、兄だけがふらりと帰ってくる日々。両親は少し寂しそうでしたが、波風を立てたくない私は黙ってやり過ごすしかありませんでした。
新築祝いのキッチンで……
結婚から数年が経ち、兄夫婦が念願のマイホームを完成させました。新築祝いに誘われ、私も顔を出すことに。
ところが当日の朝、兄から「仕事のトラブルで少し遅れるから、先に始めてて」と連絡が入りました。気まずさを抱えながら新居のチャイムを鳴らすと、リビングには義姉の両親や友人たちが集まり、すでににぎやかにパーティーが始まっていました。
「いらっしゃい。ちょうどよかったわ」出迎えた義姉は、私をキッチンへと促し、当然のようにエプロンを差し出しました。「ごめんなさいね、キッチン要員が足りてなくて。少しお願いしていいかしら? 事務職の方なら、こういう裏方作業、得意でしょう?」
正直、戸惑いましたが、せっかくのお祝いの席で兄の顔に泥を塗るわけにはいきません。私はぐっと言葉を飲み込み、言われるがまま洗い物や配膳に追われることになったのです。
「聞いてた話と違う」
「お待たせ、遅くなってごめん!」1時間ほど経ったころ、兄が到着しました。キッチンでお皿を洗っている私を見るなり、不思議そうな顔をしました。「なんでお前が洗い物してるの?」すると義姉が慌ててやって来て、「妹さんが手伝ってくれてるの。大人数だと気をつかうみたいだから」と、さも私が自ら申し出たかのように説明しました。波風を立てたくない私は曖昧にうなずきましたが、兄はどこか納得できない様子。
「今日は俺がお前を呼んだんだぞ。無理して手伝わなくていいだろ? まあ、お前や父さんたちがあまり深く付き合いたくないって聞いてたから、無理に誘うのも悪いと思ってたけど……」「え? 私たちが?」思わず聞き返しました。そんなことを言った覚えはありません。むしろ結婚式の日、義姉から「住む世界が違うから、今後のお付き合いは必要最低限にしましょう」と言われたのは私のほうです。
そのことを伝えると、兄も驚いた様子。「待って。俺は逆に、お前や父さんたちのほうが『生活レベルが違うから距離を置きたい』って言ってると妻から聞いてたぞ」どうやら兄も私も、義姉からまったく逆の話を聞かされていたようです。
義姉は「違うのよ。お互い気を遣ってる感じだったから、私が間に入ってうまく調整してただけで……」と慌てて取り繕います。そこへ騒ぎに気付いてやって来た義姉のお母さんまで首をかしげました。「私たちも、向こうのご家族があまり関わりたくないって聞いてたわよ?」そこでようやく、義姉が私たちと兄、それぞれに違う話をしていたことがわかったのです。
ようやく解けた誤解
義姉も事実と違う説明をしていたことを認めました。そこで私も、兄がこれまで無理に顔を合わせる機会を作ろうとしなかった理由をようやく理解しました。私たち家族のほうが距離を置きたがっていると、本当に思っていたのです。
その後、兄が私の席を用意してくれ、私もみんなと一緒に食事をすることに。少し気まずさは残りましたが、新築祝いはそのままお開きになりました。
数日後、義姉から改めて謝りたいと連絡があり、兄と一緒に実家へやってきました。「自分の価値観だけで皆さんとの距離を決めて、夫や両親にも事実と違うことを伝えていました。新築祝いでも失礼な接し方をしてしまって、本当に申し訳ありませんでした」義姉が頭を下げると、両親も驚きながら謝罪を受け止めていました。私も、自分の非を認める義姉を見て、結婚式以来ずっと抱えていたモヤモヤが少し軽くなりました。
義姉は「すぐには無理だと思うけど、これから関係をやり直せたら」と続けました。すぐに何もなかったことにはできませんが、私もその気持ちを受け止めました。
その後、かつて「付き合いは必要最低限に」と私たちを遠ざけた義姉も、少しずつ家族の集まりに顔を出すように。以前のように、肩書きで私たちを見ることもなくなりました。遠回りはしましたが、ようやく家族として向き合えるようになったのでした。
◇ ◇ ◇
家族だからといって、考え方や価値観が同じとは限りません。それでも、一方的に相手を決めつけるのではなく、きちんと向き合っていくことが大切なのではないでしょうか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。