社長の息子とそりが合わず…
A男は将来会社を継ぐ予定なのか、社内のさまざまな仕事を経験することになっていたようです。そこでまず配属されたのが、私の所属する営業企画部でした。
しかし、私はA男とどうしてもそりが合いませんでした。
A男は自分の考えに強い自信を持っており、現場の事情を十分に確認しないまま方針を決めようとすることもしばしばありました。
あるとき、A男は営業部の業務フローを大きく変更する案を出してきました。しかし、そのまま進めれば現場の負担が増えることは明らかです。そこで私は、普段から営業担当者に聞いていた意見も踏まえ、正式に現場へ確認してから進めたほうがいいと伝えました。
するとA男は明らかに不機嫌に。それを境に、会議で私の意見にだけ厳しく反論したり、細かなことで嫌みを言ったりするようになったのです。
そしてある日、ついにこんなことを言われました。
「お前なんか、俺が親父に言えばどこにだって異動させられるんだからな」
社長の息子とはいえ、そんな理由で人事が決まるはずはないと思っていたのですが……。
本当に異動の辞令が!
A男の発言から数日後、上司から異動を告げられました。異動先は「業務推進室」。部署の存在は知っていましたが、社内事情にそこまで詳しくなかった私は、どのような仕事をしているのかまでは知りませんでした。
人数も少なく、社内でもあまり目立つ部署ではありません。A男に脅された直後だったこともあり、私は「やっぱり本当に飛ばされたんだ」と落ち込みました。
その日の帰り、以前からよく話していた清掃スタッフたちに異動のことを話したのですが……。
「業務推進室!? そりゃ良かったじゃないか!」
「おめでとう!」
思いがけない反応に、私は驚きました。清掃スタッフたちは長くこの会社で働いており、私より社内事情にも詳しかったのです。
話を聞くと、業務推進室は各部署の課題を洗い出し、業務の効率化や新しい仕組みづくりを進める部署とのこと。少人数ながら会社全体に関わる仕事が多く、「社長もかなり力を入れている部署らしいよ。最近役員になった女性も、少し前まで業務推進室にいたんだ」と教えてくれました。
左遷どころか、まさかの抜擢
異動後、業務推進室の上司から詳しい話を聞き、さらに驚きました。
実は今回の異動は、A男とはまったく関係なかったのです。
私の直属の上司が、前職での経験とこれまでの仕事ぶりを高く評価し、以前から社長へ推薦してくれていたとのこと。特に、現場の意見を踏まえて改善策を提案してきたことや、部署間を調整しながら仕事を進めてきた点を買われ、「全社的な業務改善に向いている」と判断されたそうです。
左遷どころか、私の適性を見込んでの抜擢人事でした。
一方、A男はというと……どうやら私の異動前、実際に社長へ私への不満を伝えていたようです。そのため、異動が決まると「やっぱり親父も俺と同じ考えだったんだ」「仕事のできないヤツは左遷されて当然だろ」などと周囲に話していたとのこと。
しかし、私の異動はA男の訴えとはまったく無関係でした。その発言を知った社長はA男を呼び出し、「会社の人事を自分の好き嫌いで動かせると思うな」と厳しく注意したそうです。
さらに、これまでの仕事ぶりについても確認され、現場の事情を十分に理解しないまま自分の意見を押し通そうとしていた点を指摘されたとのこと。しばらくは現場の部署に入り、実務を一から学び直すことになりました。
私は現在、業務推進室でさまざまな部署と関わりながら、業務改善の仕事に携わっています。自分に合った仕事だと感じ、やりがいを持って取り組んでいます。
あのときは左遷されたと思い込みましたが、実際は正反対。日々の仕事をきちんと見て、評価してくれている人もいるのだと実感した出来事でした。
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