「兄より先に結婚するなんて」母からの言葉
私は会社員として働く次男です。父を早くに亡くし、母がシングルマザーとして私と兄を育ててくれました。
子どものころから、母は何かにつけて兄を優先してきました。兄が欲しいと言った物を譲るよう求められたり、同じように頑張っても兄ばかり褒められたり。私はいつしか、母に認めてもらうことを諦めるようになっていました。
そんな私にも、結婚を考える相手ができました。婚約者のA子です。結婚することを母に伝えましたが、なかなか返事はありません。1週間ほどしてようやく連絡があり、「確認するのを忘れていた」と言われました。
さらに、両家の顔合わせへの出席をお願いすると、「お兄ちゃんがまだ結婚していないのに、弟が先に結婚するの?」と言われたのです。
母は昔から、兄のことを「将来有望」「経営者として頑張っている」と高く評価していました。一方、会社員の私は兄より劣っているという扱いです。
私はあきれながらも、「A子は俺にとって大切な人だから、A子にもご両親にも一度会ってあいさつをしてほしい」と伝えました。
その後、A子にも了承を得た上で、母に頼まれてA子の写真も送り、ようやく顔合わせの日程が決まりました。
ところが、その前日。母から思いも寄らない連絡が届いたのです。
顔合わせ前日の理不尽な要求
母は突然、「あなたの婚約者のA子さん、お兄ちゃんに譲ってくれない?」と言い出しました。
私は何を言われているのかわからず、聞き返しました。母によれば、私が送ったA子の写真を兄にも見せたところ、兄が「すてきな人だ」と話したというのです。それを聞いた母は、私と結婚するより兄と結婚したほうがA子も幸せになれる、と勝手に考えたようでした。
「お兄ちゃんのほうが収入も多いし、経営者なんだから将来性もあるでしょう?」
そんなことまで言われ、私は言葉を失いました。そもそも、私たちはすでに結婚する意思を確認し合っているのです。
それでも母は、「昔から、お兄ちゃんが欲しがっている物は譲ってきたでしょう」と、まるで子どものころと同じように話しました。
何を言っても、母の中では兄が一番なのでしょう。それでも、さすがに今回ばかりは受け入れられませんでした。
「A子は物じゃない。そんな話、受け入れられるわけないだろ」
私はそう言って、母の要求をきっぱり断りました。母は不満そうでしたが、それ以上話しても平行線だと思い、電話を切りました。
そして翌日、予定通り両家の顔合わせへ向かったのですが――。
両家の顔合わせには驚きの人物が
翌日、私は予定通りA子と両家の顔合わせへ向かいました。ところが店に着くと、母の隣にはなぜか兄の姿がありました。しかも、兄の席まで用意されていました。
前日に「A子さんをお兄ちゃんに譲って」と言われたばかりです。まさか本当に兄を連れてくるとは思わず、私は一瞬言葉を失いました。
「どうして兄さんがいるんだよ……」
すると母は悪びれる様子もなく、「せっかくだから、お兄ちゃんにもA子さんを紹介しようと思って」と答えました。私に何の相談もなく、兄を同席させたのです。
A子の両親も戸惑っていましたが、すでに全員がそろっている場で言い争うわけにもいかず、そのまま食事を始めることになりました。
食事中、母は会社を経営する兄の仕事ぶりを得意げに話し、何度も私と比較しました。A子の両親が困ったような表情を浮かべる一方、A子は兄の仕事や暮らしについて興味深そうに質問していました。私は少し引っかかりましたが、初対面の相手との会話を盛り上げているだけだと思っていました。
ところが顔合わせの後、A子はたびたび兄の話をするようになりました。「若いのに会社を経営していてすごいね」「収入もあなたとはかなり違うのかな」と聞かれ、私は次第に違和感を覚えました。
そしてある日、A子から、「お兄さんのことを、もう少し知ってみたい」と言われたのです。
結婚を約束していた相手からそんな言葉を聞くとは思わず、私は大きなショックを受けました。「それは、結婚相手として兄のほうが気になっているということ?」と尋ねると、A子はすぐには答えませんでした。しばらくして、「結婚生活を考えると、経済的な安定も大切だと思っている」と話したのです。
私には、これまで築いてきた関係よりも、収入や仕事といった条件で兄と比べられているように感じられました。このまま結婚へ進んでいいのかわからなくなり、A子と少し距離を置いて考えることにしました。
その後も何度か話し合いましたが、結婚相手に何を求めるのかという考え方の違いは埋まりませんでした。最終的に、互いに納得した上で婚約を解消することになったのです。
後から知ったのですが、兄は母から「弟の顔合わせだから一緒に来てほしい」と頼まれていただけで、母が私に「A子を兄に譲れ」と迫っていたことは知らなかったそうです。顔合わせでA子に好印象を持ったものの、私の婚約者だったため、その時点ではそれ以上関わるつもりはなかったとのことでした。
しかし、私たちが婚約を解消したことを知ると、母は兄に「顔合わせのとき、A子さんもあなたに興味を持っていたように見えたわよ」と伝えたそうです。後になって兄から聞いた話では、兄も最初は迷ったものの、すでに私たちの婚約が解消されていたことから、母を通じてA子と連絡を取るようになったとのことでした。
その後2人は交際を始め、しばらくして結婚したと母から聞きました。母は「やっぱりA子さんにはお兄ちゃんのほうが合っていた」と喜んでいました。複雑な気持ちはありましたが、私とA子の婚約はすでに解消されています。これ以上、母や兄、A子の選択に振り回されるのはやめようと思いました。
1年後、母からの連絡
兄とA子が結婚してから約1年後、母から久しぶりに連絡がありました。以前とは違い、ひどく弱気な様子でした。話を聞くと、兄は仕事が忙しくなり、A子との生活もうまくいっていないようでした。
母は「お兄ちゃん夫婦が最近よくもめているの。あなたからも話を聞いてあげて」と頼んできました。
私は、「兄さん夫婦のことは、2人で向き合う問題だと思う。俺が間に入るつもりはないよ」と断りました。
すると母は、「家族なのに冷たい」と言いました。しかし私は、「俺だってずっと家族だったよ。でも母さんは、いつも兄さんのことばかりだったよね」と伝えました。母は黙り込んでしまいました。
もともと兄とは頻繁に連絡を取り合うような関係ではありませんでしたが、A子との結婚後はさらに顔を合わせる機会が減りました。必要なときに連絡を取ることはあるものの、お互いの生活には深く立ち入らない関係が続いています。
そのため、兄夫婦がその後どのような生活を送っているのか、詳しくは知りません。母から連絡が来ることもありますが、以前のように言われるまま動くことはなくなりました。
振り返ると私は、母に認めてもらうことに長い間こだわっていたのだと思います。しかし今回の出来事を経て、母や兄からどう評価されるかではなく、自分が納得できる選択を大切にしたいと思うようになりました。
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家族の中で誰かと比べられ続けると、認めてもらいたい気持ちから、知らず知らず相手の評価に振り回されてしまうこともあるのかもしれません。今回の出来事を経て、主人公は母や兄を変えようとするのではなく、自分がどんな人生を選びたいのかに目を向けるようになりました。家族との関係であっても、自分の気持ちを守るために距離の取り方を見直すことが、一つの転機になるのだと感じさせられます。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています
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