母を迎えに来た姉妹
「ママを迎えに来たの!」
姉妹の母親は、営業部で働くA子でした。A子は2人の娘を育てているシングルマザーです。
祖母によると、A子から遅くなるとは聞いていたものの、なかなか帰ってこず、姉妹も心配していたため、祖母が2人を連れて様子を見に来たそうです。
営業部をのぞくと、A子はひとりでパソコンに向かっていました。
「A子さん、ご家族が来ていますよ」
「えっ!?」
A子を見るなり、姉妹は駆け寄りました。
「ママ、まだお仕事してたの?」
「頑張りすぎだよ!」
A子は申し訳なさそうに娘たちを抱きしめました。
残業していた理由は…
帰り支度をするA子に事情を聞くと、彼女は営業先で人に説明することがあまり得意ではないそうです。
営業部のB山部長からも、「苦手なことこそ努力して克服しないと成長できない」と言われており、少しでも自信をつけようと、終業時刻を過ぎても取引先の情報や資料を確認していたのでした。
「娘たちを育てるためにも、もっと頑張らないとって思ってしまって……」
僕は「もう遅いですし、今日は帰ったほうがいいですよ」とA子に声をかけ、念のためB山部長にも連絡しました。
「A子さんがまだ残っているの、ご存じでしたか?」
するとB山部長は驚き、「そこまで遅くまで残れとは言っていない」と答えます。
翌日の昼休み、休憩スペースで偶然A子と顔を合わせました。
「昨日は大丈夫でしたか?」
声をかけると、A子は「ありがとうございました」と苦笑いしました。そして話しているうちに、ぽつりと本音を漏らしたのです。
「最近、ああやって遅くなることが増えていて……。正直、この働き方をずっと続けられるのかなって思うこともあるんです」
A子が踏み出した一歩
僕は以前から、仕事でやりとりする中で、A子が作る資料のわかりやすさや、人の話を丁寧に聞く姿勢に感心していました。
そこで、「もし今の働き方に悩んでいるなら、人事に相談してみる方法もありますよ」と伝えると、A子は少し迷ったあと、「異動について相談することもできるんでしょうか」と聞いてきました。
「もし企画部にも興味があるなら、僕から上司に相談してみることはできますよ」と答えたところ、A子自身が希望したため、後日、上司や人事との面談など正式な手続きを経て、A子は企画部への異動が決まりました。
その後、営業部で培った経験や聞きじょうずな一面を生かし、A子は少しずつ企画部になじんでいきました。以前のように遅くまで残ることも減り、娘たちと過ごせる時間が増えていったそうです。
「頑張らなきゃって思いすぎて、自分がどうしたいのか考える余裕もなくなっていたのかもしれません」
そう話すA子の表情は、以前よりずっと明るく見えました。
あの夜をきっかけに…
一方、営業部ではB山部長の指導について、ほかの社員からも相談が寄せられていたそうです。会社が状況を確認したところ、複数の社員が「言い方が厳しい」と感じていたことがわかりました。
その後、B山部長は上司から「部下への接し方や指導方法を見直すように」と注意を受けたとのこと。それ以降、以前のような一方的な言い方は減ったそうです。
しばらくして、A子と娘たちから休日に遊びに行こうと誘われました。
「ママ、最近すごく楽しそうなんだよ!」
うれしそうに笑う姉妹を見て、僕まで温かい気持ちになりました。
それから4人で出かける機会が少しずつ増え、やがて僕とA子は交際することに。あの夜の出来事が、僕たちの関係を大きく変えるきっかけになったのです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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