兄が残した300万の借金
ある日、兄は「知人と事業を始める」と言い、300万の借金を作りました。そのうえ、返済のために父へ泣きつき、連帯保証人になってもらっていました。
ところが、事業はあっけなく頓挫。兄は借金を返済するどころか、家族に何の説明もないまま行方をくらませました。当然、返済をもとめられたのは連帯保証人になった父です。実家には、連日のように督促状が届くようになり、両親は途方に暮れていました。
母は返済を少しでも助けようとパートのシフトを増やしましたが、無理がたたって体調不良に。両親は精神的に追い詰められていたのです。そんな両親を見ていられなかった僕は、数年間かけて貯めてきた貯金を使い、残りの借金を一括で返済することを決意。
両親は何度も止めましたが、母は泣きながら「あんな息子に育てた私たちにも責任があるのに」と謝り、父も「これは本来、親が背負うべきものだ」と申し訳なさそうに頭を下げました。
それ以来、2人は無理のない範囲で、毎月少しずつ僕に返済してくれていたのです。
数年ぶりに帰ってきた兄と特大の勘違い
それからしばらく経ったある日、僕が実家を訪ねたときのことです。母からその月の返済分を受け取っていると、突然玄関のドアが開きました。そこに立っていたのは、長い間音信不通だった兄。どうやら仕事を辞めていた兄は、再就職が決まったものの、初任給が出るまでの生活費がなくなったそうで……。両親を頼って帰ってきたとのことでした。
相変わらず自分の都合ばかりを優先している兄に、僕はあきれていました。ところが兄は、僕が母から封筒を受け取る瞬間だけを見て、何かを勘違いしたよう。僕に向かって
「お前…いい歳して親に金をせびるなんて、恥ずかしくないのか?」
と自分のことを棚に上げて話してきました。そこへ、僕の彼女が実家に遊びにきました。兄は彼女を見ると、ここぞとばかりに僕を指さしました。「こいつ、親に借金を背負わせてるんだぞ! こんなクズとは別れたほうがいい!」と突然の主張に僕は言葉を失いました。
しかし、僕から事情を聞いていた彼女は、動じずに「それ…全部、ご自身の話ですよね?」と静かに言い放ちました。僕は、思わず吹き出してしまいました。
すべてを知った兄と立場逆転!
彼女の言葉に「どういう意味だよ!」と兄が声を荒げると、僕はようやく口を開きました。兄が行方をくらませた後に起きたことをすべて話したのです。父が借金を背負い、母が体を壊し、僕が一括で肩代わりしたこと。「今、受け取ったお金は、兄さんが作った借金を僕が肩代わりした分だよ」そう伝えると、兄はみるみる顔を真っ青にしました。
彼女も、「ご両親が今までどれだけ苦しんだのか、ちゃんと考えたほうがいいと思います」と厳しい口調で続けました。兄は何も言い返せず、気まずそうに逃げるように玄関へ向かいました。僕は、そんな兄を呼び止め、「兄さんが作った300万円は、僕が代わりに払った。だから、これからは兄さんが僕に返してくれ」と伝えると……。兄は、「そんなの払えるワケないだろ!」と叫んでいました。
僕も折れずに「一括で払えとは言ってない。毎月、無理のない金額でいい。ただし、もう二度と逃げるのはやめてくれ。もしまた逃げるなら、今度は自分だけで抱え込まず、弁護士にも相談する」とひと言。すると兄は、「わかった…」と返事をし、毎月5万円ずつ僕に返済することで話がまとまりました。
僕たちと兄夫婦の現在
この騒動の間、彼女はずっと僕と両親の味方でいてくれました。兄の身勝手な行動に対しても、本気で怒ってくれて……。特に、兄が僕を罵ったとき、僕より先に言い返してくれたことは一生忘れないと思います。
そんな彼女のやさしさと正義感に改めて惹かれ、僕たちはその1年後に結婚。一方で、兄は現在も実家で暮らしているよう。ただし、両親も以前のように兄を甘やかすことはありません。給与が入れば必要な生活費を除いて返済に回すように管理され、兄は逃げることなく、毎月5万円ずつ僕への返済を続けています。
かつては家族に借金を押し付けて逃げた兄ですが、今では自分の責任と向き合っているそうです。僕も、あのとき両親を助けるためにつかった300万円が、兄から返ってくるのを静かに見守っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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