「マニュアルがあれば用済みだ」
かつて自身も営業として実績を残していたY課長は、非常にプライドが高い人物でした。そのため、自分の過去最高記録をあっさりと塗り替えた僕を、執念深く敵視していたのです。
ちょうどその頃、社内では営業部の体制見直しが検討されていました。そんななか、僕の名前が次の課長候補の一人として挙がっているという話が、Y課長の耳にも入ったようです。
それ以来、Y課長の態度はますます厳しくなりました。僕に自分の立場を脅かされるのではないかと、警戒していたのかもしれません。
そんなある日、Y課長はニヤニヤしながら僕に命じました。
「お前が持っている営業ノウハウを、すべてまとめたマニュアルを作成しろ」
チームの底上げになるならと、僕はこれまでに培った営業準備の手順や顧客ごとのアプローチの基礎を丁寧にまとめたマニュアルを完成させました。
すると、マニュアルを受け取ったY課長は、待ってましたと言わんばかりに手をたたき、鼻で笑いました。
「これで誰でも営業成績1位になれる。マニュアルがあれば、お前はもう用済みだw」
さらにY課長は、「このチームの商品が優れているから売れているだけだ」と決めつけ、僕を別の商品を扱う営業チームへ異動させようと画策しました。
「将来の管理職候補として、別分野も経験させたい」
Y課長は営業部長にそう説明し、あたかも僕の成長を考えて提案したかのように装って、異動の承認を取り付けたのです。
本音では、僕の成績をなんとしても下げようと躍起になっていることは明らかでした。しかし、このままY課長のもとで働き続けても仕方がないと悟った僕は、「分かりました」と静かに指示に従いました。
そして、異動先の営業チームで新たな商品を一から売り込んでいくことにしたのです。
身勝手な指示で営業売上が9割減に
僕が異動した翌月、Y課長のチームは、僕が残したマニュアルを使って営業活動を始めました。
ところがY課長は、現場の状況を無視し、部下たちに無茶な指示を連発しました。
「マニュアルどおりにやれば、誰でも簡単に契約が取れるんだ。もっと強気に攻めろ!」
「値引き交渉には一切応じるな!」
僕が作ったマニュアルは、あくまで顧客との丁寧な信頼関係づくりを前提とした、基本的な手引きです。
そこにY課長の身勝手で時代錯誤な指示が加わったことで、現場は大混乱に陥りました。
長年取引を続けてきた大口顧客からも、「そんな強引なやり方をする会社とは、もう付き合えない」と見放され、次々と契約を解除されてしまったのです。
商品が優れているからという理由だけで売れていたのではなく、顧客に合わせた僕の提案と、長年築いてきた信頼関係があってこその結果だった――その事実が、皮肉にも証明される形となりました。
そして、わずか1か月でY課長のチームの営業売上は9割も減少。信じられないような惨状に陥ってしまったのです。

青ざめるY課長と営業部長の判断
ある日、青ざめた様子のY課長から僕のスマホに電話がかかってきました。
「お願いだ、戻ってきてくれ! 売上が落ちて、大変なことになっているんだ!」
電話口から聞こえてくる声は、以前の尊大な態度が嘘だったかのように焦りきっていました。
しかし、僕の異動は正式な人事手続きを経て決まったものです。Y課長の都合だけで、簡単に元へ戻すことはできません。
「申し訳ありませんが、僕は今、新しいチームで任された仕事に集中しています。それに、僕をチームから追い出したのはY課長ですよね」
僕が冷静に断ると、Y課長は何も言い返せないまま電話を切りました。
その後、異常な売上の暴落を重く見た営業部長が、自ら現場の調査に乗り出しました。
調査の結果、Y課長が個人的な嫉妬と保身から、実績のある僕をチームから外すよう働きかけていたことが判明。さらに、現場の状況を無視した無理な指示を出し、多くの顧客を失わせた経緯も、すべて明らかになったのです。
「部下やチームの将来を思っての進言だと信じていました。しかし、あなたが守ろうとしたのは、チームではなく自分の立場だったのではありませんか?」
営業部長は調査結果をもとに正式な社内手続きを進めました。そして後日、Y課長を管理職から外す降職処分が決定したのです。
人を蹴落として自分の立場を守ろうとしたY課長は、結局、自らの身勝手な判断によって、大切な立場も周囲からの信頼も失うことになったのでした。
一方、僕は新しいチームで頼もしい仲間たちとともに、再び営業成績トップを目指し、充実した日々を送っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。