今、茜さんにできることは、3時間おきに搾乳を届けることのみ。茜さんは、保育器で眠っている娘を祈るように見つめ「がんばって」と心の中で告げ、NICUをあとにします。
そして病室に戻る途中、泣いている赤ちゃんを抱いてオロオロとしているお母さんに出会いました。
「泣き声大きくてごめんなさいね」
そう言われて「いえ、大丈夫ですよ」と返事をしながら「かわいいな」と思う茜さんでしたが、当たり前のように赤ちゃんを抱っこできているそのママさんを、羨ましく思うのでした。
パパ、初めての面会







「土曜に病院行くね」
ついに大和さんが面会にきてくれることなり、思わず笑みがこぼれた茜さん。娘に会いにきてくれることもうれしいですが、ひとりぼっちの寂しさから抜け出せたように感じ、安心したのです。
「なかなか会いにこれなくてごめん。どうしても仕事が抜けられなくて」
面会日当日、申し訳なさそうな顔でやってきた大和さん。仕事の忙しさや東京からの距離を考えれば、仕方のないことです。本当は寂しい……。そんな自分の気持ちにはフタをした茜さん。
「……初めまして……パパ……です。遅くなってごめんね。また必ずくるから……」
大和さんは無口なタイプで、あまり感情を出しません。しかし、保育器の中で眠る娘の姿を見て、「次は抱っこできるといいな」とやさしく笑っていました。それが茜さんには印象的で、うれしいことだったのでした。
◇ ◇ ◇
わが子が手術を受け、NICUで懸命に生きている間、茜さんはずっとひとりで不安と戦い続けていました。本当は寂しい、そばにいてほしい——
そんな気持ちにフタをしてしまうのは、相手を気遣うからこそかもしれませんが、そうした感情を抑え込み続けることは、心身ともに大きな負担になることがあります。
パートナーがそばにいられない状況は、さまざまな事情から生じることがあります。だからこそ、離れていても「寂しい」「不安だ」という気持ちを正直に伝え合うことが、夫婦の絆を保つうえでとても大切なのではないでしょうか。
大和さんが保育器の中の娘を見て「次は抱っこできるといいな」とやさしく笑った姿が茜さんの心に響いたように、たとえ短い時間でも気持ちを分かち合える瞬間が、孤独な時間を乗り越える力になることがありますよね。
著者:いもやまようみん
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いもやまようみん