「離婚してほしい。好きな人ができた」
夫と結婚して1年が経ったころのことです。
私としては、夫婦仲に大きな問題はないと思っていたのですが、ある日、夫から突然「好きな人ができた。離婚してほしい」と告げられました。あまりにも突然のことで、最初は何を言われているのかわかりませんでした。
困惑しながらも話を聞くと、夫の言う「好きな人」とは、私と結婚していることを知りながら関係を深めていたよう。
「誰なの?」
そう尋ねると、夫の口から出てきたのは、私の友人であるA子の名前でした。
私とA子は学生時代からの付き合いです。結婚後も何度か会っていましたし、夫とも、私を通じて顔を合わせたことがありました。まさか、その2人が私の知らないところで親しくなっていたなんて……。
夫は悪びれる様子もなく、「A子とは一緒にいると自然体でいられるんだ。運命の相手だと思ってる」とひと言。私といた時間は自然体ではいられなかったということ――? 悲しいという気持ち以上に、私は目の前にいる夫に、強く幻滅してしまいました。
とはいえ、すぐに答えを出すことはできず、私は頭の中で整理する時間、考える時間をもらったのです。
幸せそうでずるい。嫉妬していた?
翌日、A子から連絡がきました。
「本当にごめんね。でも、彼とは本気なの」
夫がA子に「離婚を切り出した」ことを伝えたのでしょう。A子のメッセージからは、謝ってはいるものの、私との関係よりも夫との関係を選ぶつもりであることが十分伝わってきました。
「ずっと友だちだったのに、こんなことになるとは思わなかった」。そう私が返すと、A子からは思いがけない告白が。以前から、結婚して幸せそうにしている私を見ると、複雑な気持ちになることがあったというのです。私ばかり幸せそうでずるい、と。そんな気持ちの中、私と夫に会ううちに、夫のことを好きになってしまったとのことでした。
A子がどんな気持ちを抱えていたとしても、だからといって私の夫と隠れて関係を持っていい理由にはならないはずです。けれど、すでに夫もA子も2人で一緒になるつもりのよう。これ以上何を言っても、私が傷つくだけだと思い、A子には「夫婦で話し合うから、もう連絡してこないで」と伝えました。
夫とは改めて話し合いの場を設けました。夫の気持ちがA子に向いていることは明らかでしたし、私自身も、一度失った信頼を取り戻して夫婦生活を続けていくことは難しいと感じて……夫からの離婚の提案を受け入れることにしたのです。
母「離婚してよかったじゃない」
その後、離婚することを母に伝えました。浮気されたこと、その相手がA子だったことも。
当然、母も驚くと思っていたのですが、母から言われたのは……
「離婚することにしたの? よかったじゃない」
という言葉でした。
予想外の反応に、「どうしてそんなこと言うの?」と思わず聞き返してしまいました。すると母は、以前、街中で、夫がA子とは違う、知らない女性と親しげに歩いているところを見かけたことがあると話してくれたのです。ただ、手をつないでいたわけでもなく、母自身も「仕事関係の人かもしれない」と思い、そのときは私に伝えなかったとのこと。
「その女性が誰だったのかはわからないし、何かあったとも言い切れない。でも、今回の話を聞いて、あなたがこれ以上傷つく前に離れることを決められたなら、それでよかったんじゃないかと思ったの」
母が言いたかったのは、離婚そのものが「よかった」ということではなく、私が夫に振り回され続ける道を選ばなかったことだったのだとわかりました。
うまくいっていない2人
離婚してしばらく経ったころ、久しぶりにA子から連絡がきました。できればもう関わりたくありませんでしたが、何事かと思って内容を確認すると、
「彼って、前から女関係こんな感じだったの?」
と書かれていました。
どうやらA子と元夫は、私との離婚後に交際を続けていたものの、うまくいっていないようでした。A子によると、元夫がほかの女性とも頻繁に連絡を取っていることがわかり、それをきっかけに何度も揉めているとのこと。
詳しい事情は私にはわかりませんし、元夫が実際に別の女性とも交際していたのかどうかまでは知りません。ただ、A子から「こんな人だって知ってたなら教えてほしかった」と言われたときには、さすがに言葉を失いました。
私だって、結婚していたころは夫を信じていたのです。「私も知らなかったよ。それに、もう私には関係のないことだから、2人で話し合って」そう返し、それ以降、A子からの連絡には応じていません。
夫とA子のことを知った当初は、身近な2人に裏切られたことが本当につらかったです。それでも今は、あのとき母から言われた「よかったじゃない」という言葉の意味が、少しわかる気がします。
離婚すること自体がよかったのではなく、信頼できなくなった相手との関係を無理に続けず、自分の生活を立て直すことを選べた。そのことについては、あのとき決断してよかったと思っています。
イラスト:わかまつまい子
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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