教育を家庭だけの責任にしない
――区長は海外での子育ても経験されていますが、日本の教育環境についてどのように感じていますか?
杉並区長・岸本聡子氏(以下、岸本区長):国によって教育制度は大きく違うため、単純に比較することはできないと思っています。
ただ、私が海外で子育てをした経験から感じることのひとつは、子どもの教育にかかる負担を、できるだけ家庭だけに背負わせないという考え方が必要だということです。子どもの家庭環境によって、学びや体験の機会が大きく左右されてしまうことは、できる限りなくしていかなければなりません。
教育は、子ども一人ひとりの可能性を広げるものであると同時に、社会全体で次の世代を育てる営みでもあります。だからこそ、家庭の努力だけに頼るのではなく、社会全体で支えていくことが必要だと思っているのです。

杉並区ができること
――教育も含め、子どもに関わる政策について、杉並区ではどんなことを大切にしていますか?
岸本区長:大前提として、子どもが安心して育つことのできる地域社会をつくることです。安心して通える学校があり、自分の居場所があり、困ったときに相談できる大人がいる。そして、子どもだけでなく、子育てをする保護者も必要なサポートを受けられる。そうした環境を整えていくことが大切だと考えています。
また、家庭の経済状況によって、子どもの学びや体験の機会に差が生まれないよう、経済的な負担を減らしていくことも自治体の重要な仕事です。
杉並区では給食費の無償化などを進めてきましたが、学校生活には教材費や制服、行事など、さまざまな費用がかかります。そうした負担についても考えていかなければなりません。
家庭の状況にかかわらず、子どもが安心して学び、自分の可能性を広げられる環境をつくることを目指しています。
一人ひとり違う不登校の状況。その声から考える
――「対話の区政」を掲げていますが、子どもや保護者の声はどのように政策につながっていますか?
岸本区長:たとえば、不登校への支援が挙げられます。不登校とひとことで言っても、子どもたちの状況は本当にさまざまです。学校には行けても教室には入りづらい、毎日の登校は難しい、朝は難しくても午後なら行ける、学校とは別の場所のほうが安心できるなど、一人ひとり置かれている状況は異なります。
ですから「学校に行くか、行かないか」という二択で考えるのではなく、一人ひとりに合った多様な居場所や学びの選択肢を増やしていく必要があるのです。
杉並区でも、学びの多様化学校(※)の設置に向けた取り組みなどを進めています。同時に、支援の選択肢を増やすだけでなく、「なぜ学校に行きづらいと感じる子どもがいるのか」という問いを、学校や教育行政も持ち続けなければならないと思っています。
※「学びの多様化学校」は、不登校の児童・生徒の実態に合わせて特別に編成された教育課程(カリキュラム)を実施できる、文部科学大臣に指定された学校です。通常の学校と同様に卒業資格が取得できます。

「子どもの幸せ」を教育の中心に
――学校そのものについては、どのように考えていますか?
岸本区長:学校現場では、先生方が本当に多くの課題を抱えながら、一人ひとりの子どもに向き合っています。だからこそ、先生や学校だけに責任を負わせてはいけないと思っています。
私が大切にしたいのは、教育を考えるときに「子ども自身はどう感じているのか」という視点を中心に置くことです。子どもが安心できること。自分の意見を言えること。一人の人間として尊重されていると感じられること。そして、学ぶことに喜びや好奇心を持てること。
そうした学校をどうつくっていくのか、教育委員会や学校、保護者、地域、そして何より子どもたち自身と一緒に模索していきたいと思っています。
学校に行きづらい子どもが増えているとき、それを子どもや家庭だけの問題にするのではなく、学校や社会の側にも変えられることがないかを考える。それが、教育に責任を持つ自治体の役割だと思います。
子育てや教育の悩みを、家庭だけで抱え込まない
――子どもの教育について悩んでいる保護者に伝えたいことはありますか?
岸本区長:子どものことを思うからこそ、保護者は悩みます。学校に行けない、勉強についていけない、進路が心配だというときに「親である自分が何とかしなければ」と思ってしまうこともあるでしょう。
でも、教育や子育ての問題を、家庭だけで抱え込む必要はありません。学校の環境、教員の働き方、相談支援、居場所、経済的な支援など、行政や社会の側でできることもたくさんあるのです。
子ども一人ひとりが安心して、自分らしく育ち、学べる環境をどうつくるのか。それを家庭、学校、行政、地域社会が一緒に考えていくことが大切だと思っています。

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子どものことを思えば思うほど、「学校に行かせなければ」「勉強についていけるようにしなければ」と、親自身が責任を感じてしまうことがあります。
けれど、子どもが学校に行きづらい理由も、必要とする学び方や居場所も一人ひとり違います。家庭だけで何とかしようとするのではなく、子ども自身の声に耳を傾けながら、学校や行政、地域も一緒に環境を整えていく。今回の岸本区長のお話からは、そんな視点が見えてきました。
子どもが安心できる場所があり、自分の意見を言え、一人の人間として尊重されながら学べること。子どもの学びをめぐって悩んだとき、親だけが答えを出そうとしなくてもいい。家庭の外にもできることがあるという視点を持つことが、子どもと保護者の双方を支えることにつながるのではないでしょうか。
ベビーカレンダーでも、子どもたちの学びや育ちに関わる大切なテーマとして、教育をめぐる課題や社会の動きをこれからも見つめていきたいと思います。