子育て支援を「自治体間競争」にしないために
――今、いろいろな子育てに関する支援や政策も増えてきましたが、岸本さんから見て、どのような課題があると感じますか?
杉並区長・岸本聡子氏(以下、岸本区長):自治体がそれぞれ工夫して、地域のニーズに応じた子育て政策を充実させていくことは、とても大切だと思っています。杉並区でも、給食費の無償化をはじめ、子どもや子育て家庭へのさまざまな支援を進めてきました。
一方で、自治体の財政力によって、子どもが受けられる支援に大きな差が生まれてしまうことには、課題があると感じています。
教育や医療、子育ての基礎的な支援については、どこに住んでいても一定の水準が保障され、そのうえで自治体が地域の実情に応じて独自の取り組みをおこなう——そのような国と自治体の役割分担が大切だと思います。
自治体同士が「どちらの支援が手厚いか」を競うのではなく、子どもや子育て家庭にとって何が必要なのかを考えることが出発点であるべきです。

子育てを家庭だけに背負わせない
――自治体で取り組むには限界があるということでしょうか?
岸本区長:自治体だからこそできることはたくさんあります。住民に一番近いところで、子どもや保護者の声を聞き、その地域に必要な支援をつくることができるでしょう。
一方で、子育てをめぐる問題には、働き方や社会保障、男女の家事・育児の分担など、一つの自治体だけでは変えられないこともあります。特に大切だと思うのは、子育てを家庭だけに、そして母親だけに背負わせないことです。
仕事をしながら家事や子育てを担い、さらに「母親だからこうしなければ」という社会的な期待まで重なると、負担は非常に大きくなります。これは個人の努力だけで解決する問題ではありません。
安心して子どもを産み育てることのできる社会とはどのような社会なのか。そのことを、国、自治体、企業、そして地域社会全体で考えていく必要があると思います。

海外での子育て経験から感じたこと
――区長ご自身は長く海外で子育てをされていますよね。その経験から感じることはありますか?
岸本区長:私はオランダとベルギーで子育てをしました。もちろん大変なことはたくさんありました。家族が近くにいなかったので、子どもが病気になったときなどは特に大変で……。
それでも仕事と子育てを続けることができた背景には、働き方の選択肢が比較的多かったことがあると思います。
長時間働くことを当然とせず、家庭の状況に応じて働く時間を調整できる。男性も女性も仕事と家庭の両方に関わる。そうした環境は、子育てをするうえで大きな支えになりました。
ただ、海外の制度をそのまま日本に持ってくればよいということではありません。社会の仕組みや文化はそれぞれ違います。
私自身の経験も一つの視点として持ちながら、何より杉並区で暮らす子どもや保護者の声を聞き、子育てを家庭だけ、女性だけに背負わせない地域をつくっていきたいと思っています。

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子育てをしていると、「もう少し働きやすかったら」「こんな支援があったら」と感じる場面は少なくありません。それでも、毎日の生活に追われていると、つい「自分でなんとかするしかない」と抱え込んでしまうこともあるのではないでしょうか。
けれど、子育てのしづらさは、家庭の工夫や親自身の頑張りだけで解決できるものばかりではありません。普段何気なく感じている困りごとに目を向けてみることが、子育てしやすい社会について考える一歩になるのかもしれません。
私たちメディアも、日々の困りごとを「個人の悩み」として終わらせるのではなく、社会の課題として見える化し、読者が自分ごととして考えられるきっかけを届けていきたいと思います。