テレビ局で元カノと再会
ある日、父の代から付き合いのある番組制作会社から注文を受け、収録用の弁当をテレビ局へ届けに行きました。
指定された場所へ弁当を運んでいると、見覚えのある女性とばったり。以前付き合っていた元カノのA子でした。
A子とは、僕が店を継ぐ前に別れていました。別れのきっかけは彼女の浮気です。
まさかこんなところで会うとは思わず、僕も驚きましたが、A子も一瞬、目を丸くしていました。
付き合っていたころから、僕の実家が弁当屋だということは知っていたものの、店名までは覚えていなかったようです。
「あー、この地味なお弁当、あんたの店のだったのね」
そう言って、A子は鼻で笑いました。
話しているうちに、A子が少し前にこの制作会社へ転職し、最近は収録用の弁当の手配にも関わっていることがわかりました。
僕の店では、派手さよりも昔ながらの味や、飽きのこないおかずを大切にしています。しかしA子は、「もっと写真映えするお弁当にしないとダメでしょ」「こんな貧乏くさいお弁当、私なら食べたくない」と言いたい放題。
さらに、「これからは別のお店に頼むから。そっちも少しは時代に合わせたら?」と告げてきました。
その後、実際にその制作会社からの注文はぱったりとなくなりました。
父の代から長く付き合ってきた会社だっただけに残念でしたが、ほかにも取引先はあります。僕は気持ちを切り替え、店を続けていました。
「80個も頼むんだから、うれしいでしょ?」
それから数カ月後。ある日の午前中、A子から突然電話がかかってきました。
「今日、お弁当80個お願いしたいんだけど。16時までに届けて」
当日に80個、それも16時までとなれば、簡単に引き受けられる注文ではありません。
ところがA子は、「80個も頼むんだから、そっちもうれしいでしょ?」と上から目線。僕が「さすがに当日の注文で80個は厳しいよ」と伝えると、A子は急に歯切れが悪くなりました。
そして、しぶしぶ事情を話し始めました。
本来は別の弁当店へ注文していたものの、A子が配達日を間違えて伝えていたそうです。当日の朝、納品時間を確認しようと店へ連絡したところ、そこで初めて日付の間違いが発覚。
ほかの店にも問い合わせたものの、当日80個という注文は断られてしまったとのことでした。
16時までに80個を用意できるのか
とはいえ、その場ですぐに引き受けることはできません。僕はA子に「対応できるか確認する」と伝え、いったん電話を切りました。
すぐに付き合いのある仕入れ先へ連絡し、食材をそろえられないか相談。店のスタッフにも事情を話し、手伝える人がいないか確認しました。
すると、仕入れ先が急ぎで食材を用意してくれることになり、スタッフも数人が協力してくれました。メニューを一部調整すれば、何とか16時までに80個をそろえられる目途が立ちました。
そこでA子に「なんとか間に合わせるから」と連絡。A子のためというより、父の代から付き合いのある制作会社を困らせたくないという気持ちがありました。収録を控えたスタッフたちにはA子のミスなど関係ありません。
店のみんなで急いで準備を進め、何とか約束の時間までに80個の弁当を届けることができました。
後日、上司から連絡が
数日後、制作会社の上司から店に連絡がありました。急な注文に対応したことへのお礼とともに、当日になって80個もの弁当を無理にお願いしたことについて謝罪されました。
さらに、今回の件を確認する中で、A子が父の代から続いていた取引を、十分な説明もなく一方的に打ち切っていたこともわかったそうです。
A子には、配達日を間違えたことだけでなく、長年付き合いのある取引先に失礼な対応をし、当日になって大量の弁当を急きょ依頼したことについても、厳しく注意したとのことでした。
その後、上司から改めて「今後もお願いしたい」と言っていただき、制作会社との取引も再開することに。今では担当者も変わり、以前のように良い関係で仕事ができています。
今回の出来事を通して、長く続いてきた取引は、日々の信頼の積み重ねで成り立っているのだと改めて感じました。これからも父から受け継いだ味を守りながら、一つひとつの仕事に誠実に向き合っていきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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