新卒社員と夫の距離に違和感
当時の私は妊娠初期で、まだ社内にはそのことを公表していませんでした。妊娠を知っていたのは、副社長を務める夫だけです。私は体調を見ながら、いずれ会議や外出を減らし、日常業務の一部を一時的に夫やほかの役員へ任せることを考えていました。そのことは、夫にも相談していました。
そんなとき、私の会社に新卒社員としてA子さんが入社しました。A子さんは明るく物おじしないタイプで、入社後の研修にも積極的に参加していました。
夫は副社長として、新入社員向けの研修や面談に参加することもありました。A子さんとも、そうした機会を通じて話すようになったようです。
最初は仕事上のことだと思っていましたが、あるころから夫がA子さんの話を頻繁にするようになりました。A子さんのほうも、社内で夫を見つけるとよく話しかけていました。
少し気にはなりましたが、仕事で関わる機会が多いのだろうと考え、私は深く追及しませんでした。 ところが、その後、夫の帰宅が遅くなる日が増えました。休日にも「仕事の連絡」と言ってスマホを気にすることが多くなり、私は少しずつ違和感を覚えるようになりました。
そんなある日、A子さんから「個人的に話したいことがあります」と声をかけられたのです。
新卒社員から突然の宣言
仕事が終わった後、A子さんと話をすることになりました。何の話だろうと思っていると、A子さんは少しためらいながら尋ねてきました。
「社長、会社を辞めるって聞いているんですけど、いつごろなんですか?」
思いがけない質問に、私は戸惑いました。会社を辞める予定などありません。私が「誰からそんな話を聞いたの?」と尋ねると、A子さんは夫の名前を挙げました。さらに、夫からは「妻とは離婚することになっている」「妻は別の会社を立ち上げるため、今の会社を離れる」と聞かされているというのです。
私が言葉を失っていると、A子さんは、私もすでにすべて承知していると思っていたのか、こう続けました。
「だって私、次の社長夫人になるんです♡」
そこでようやく、夫がA子さんにどんな話をしていたのかが見えてきました。夫は、私が会社を離れた後、自分が社長になると説明していたようです。もちろん、そんな話はすべてウソでした。私は別会社を立ち上げる予定も、社長を退く予定もありません。
私は感情的にならないよう努めながら、事実だけを伝えました。
「いいえ。社長はずっと私だけど? 私、会社を辞める予定なんてないわ」
A子さんの表情が一変しました。
「え……? でも、次は自分が社長になるって……」
私が「そんな話は一度もしていない」と伝えると、A子さんは黙り込みました。しばらくして、「聞いていた話と違います」とつぶやいたのです。
見えてきた夫のウソ
その日のうちに、私は夫にも確認しました。すると夫は、A子さんと交際していたことを認めました。そして、自分をよく見せるために、「いずれ自分が社長になる」とA子さんに話していたことも認めたのです。
夫は、副社長という立場や、今後私から一部の業務を任される予定だったことを都合よく膨らませ、「次は自分が社長になる」と話していたようでした。妊娠をきっかけに相談していた業務分担まで、A子さんへの見栄の材料にされていたことに、私は強い不信感を覚えました。
夫の話を聞くうちに、A子さんもまた、夫から事実とは異なる説明を受け、それを信じていたことがわかってきました。後日、A子さんからも「次期社長になると聞いていたから、将来のことまで信じてしまった」と聞き、複雑な気持ちになりました。
もちろん、夫との関係を知ったときのショックや腹立たしさがなくなったわけではありません。それでも、私個人の感情と、A子さんの社員としての評価は分けて考えることにしました。また、副社長と新卒社員という立場の差もあるため、A子さんが仕事上の圧力や不利益を受けていなかったかについても確認しました。
その後、A子さんは夫との関係を終わらせました。しばらくして本人から退職の申し出があり、会社を離れることになりました。
私は夫との関係を続けることは難しいと考え、弁護士に相談しながら離婚について話し合うことにしました。当時は出産を控えていたため、離婚後の生活だけでなく、生まれてくる子どもの養育や費用の負担についても整理する必要がありました。
夫婦としての信頼は失われていましたが、子どものことまで感情だけで決めるわけにはいきません。話し合いを重ねた末、最終的に離婚することになりました。
一方、夫の会社での立場についても、夫婦の問題とは切り分けて対応しました。本人やほかの役員と協議し、必要な手続きを経た結果、夫は副社長の役職を退くことになりました。
夫のウソを知った私が下した決断
最初はA子さんの言葉に戸惑いましたが、事情を確認すると、夫が自分を大きく見せるためにいくつものウソを重ねていたことがわかりました。特に、妊娠をきっかけに今後の業務分担について相談していたことまで、「自分が次の社長になる」という話の材料にされていたことには、強い不信感が残りました。
今回の出来事を通して、夫婦としての問題と会社での立場は切り分けて考える必要がある一方、会社で得た肩書きや立場を私的な関係に利用することの危うさも感じました。離婚という大きな決断にはなりましたが、感情だけで結論を出さず、一つずつ事実を確認して整理できたことは、自分にとって大きな区切りになったと思っています。
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身近な人にだけ伝えた大切な話を、自分を大きく見せるための材料に使われていたと知れば、夫婦の信頼が揺らぐのも無理はありません。一方で、夫への感情と会社での判断を切り分けようとした主人公の対応も印象に残ります。肩書きや立場そのものより、それをどう扱うかに、その人の誠実さが表れるのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています
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