つきまとい被害から救ったことをきっかけに、圭太は既婚であることを隠したまま、ゆうきと関係を深めていました。圭太の裏切りを知った凪は、相手の女性・ゆうきのアパートから手をつないで出てきた2人の前に立ちはだかります。ゆうきの前では気丈にふるまった凪でしたが、帰宅後に謝罪を重ねる圭太を受け入れることはできず、凪は萌を連れて実家に身を寄せることになりました。
それから1カ月、圭太は何度も実家を訪れ、「帰って来てくれ」と頭を下げ続けます。最初からしなければよかったのに、という思いを抱えながらも、父親を恋しがる萌の姿に、凪の気持ちは揺れていました。
そんな娘に、母は「大事なのは、帰る場所を間違えないってことだと思うのよ」と語りかけ、「嫌になったらいつでも戻ってくればいい」と背中を押します。凪は再び玄関先で頭を下げる圭太の前に姿を見せ、萌の手を取りました。驚きながらも深く頭を下げた圭太と共に、3人は久々にそろって歩き始めたのです。母はその後ろ姿を見送りながら、娘の選んだ道が幸せなものであるよう願っていました。
家族3人で再び歩き始めた凪。長い年月をかけて、凪がたどり着いた答えとは……。
25年の時を経て、私が選んだ道
元の生活に戻ってからも、凪の頭から圭太とゆうきの姿が離れることはありませんでした。自分より若いゆうきを圭太が抱いたのかと想像するたびに、悔しさとやるせなさで眠れない夜を過ごしたのです。
家事や育児に協力的だった夫に感謝してこなかった自分にも原因があったと言い聞かせながらも、以前のように接することはできず、夫は罰を受け続けるべきだという思いを抱えていました。
それから25年――。
成長を見守り続けた娘の萌は、結婚式を前に「お父さんとお母さんの子どもで本当に良かった」と両親に感謝を伝えます。凪にとって、自分のこれまでの選択が間違っていなかったと感じられた瞬間でした。
娘夫婦を見送った夜、凪は圭太に離婚届を差し出し、「もう私たち自由になろう?」と切り出しました。圭太にとっては過去のことでも、自分にとってはそうではなかった。今でもゆうきという名前を聞くだけで震えが来るし、圭太といると嫌な自分になってしまうのが苦しかったと打ち明けます。やり直した時間は無駄ではなかったと認めたうえで、凪は「終わりにしましょう」と告げたのです。
思いがけない言葉に、圭太は目を見開いたまま、凪の名前を呼ぶことしかできませんでした。25年たっても消えることのなかった妻の苦しみを、このとき初めて突きつけられたのかもしれません。そんな圭太に、凪は「圭太も自分の人生楽しんで」と穏やかにほほ笑みかけました。
数週間後。新居に移った凪は、ようやく荷物を片付け終え、退職までもうひと踏ん張りと自分を励ましながら仕事へ向かいます。そこへ届いたのは、友人たちからの飲みの誘いでした。ふと、翌日は圭太と娘夫婦との4人で夕食をとる予定だったことを思い出し、凪は「明日以外ならOK」とほほ笑みながら返信します。
夫婦という形を手放しても、家族としてのつながりが途切れたわけではありませんでした。仕事があり、気の置けない友人がいて、娘たちと食卓を囲む日もある。見上げた空に「いい天気」とつぶやき、凪は軽やかな足取りで歩き出しました。
25年間抱え続けてきた思いから自分を解き放ち、凪はようやく、自分自身の人生を歩み始めたのかもしれません。
◇ ◇ ◇
信頼していたパートナーに裏切られたとき、その傷は時間がたっても簡単に癒えるものではありません。凪のように、家族として穏やかな日々を重ね、萌の成長を見届けるほどの年月がたっても、不倫相手の名前ひとつで当時の痛みがよみがえることもあるでしょう。「自分にも原因があった」と言い聞かせ、許そうと努めるほど、相手を責める気持ちを消せない自分を嫌いになってしまう。そんな苦しさを、凪は25年もの間、ひとりで抱えてきたのではないでしょうか。
圭太とやり直した時間が無駄だったわけではなく、萌からの感謝の言葉は、その年月があったからこそ受け取れたものだったのだと思います。それでも、裏切られた事実そのものが消えることはありませんでした。
凪の決断は、単に夫から離れるためだけのものではなく、過去にとらわれ、嫌な自分になってしまうことに苦しみ続けてきた自分自身を、ようやく解放してあげるための選択でもあったのかもしれません。
許すことや関係を続けることだけが、正解とは限りません。そして、相手を罰し続けることが、自分の心を救ってくれるとも限らないのでしょう。誰かのためや世間体のために、自分の気持ちを押し殺し続けていないか。ときどき立ち止まって自分の心に目を向け、心地よい距離を選ぶことをためらわない。それが、自分自身の人生を大切にすることにつながるのかもしれません。
おーちゃん