「院長の娘と結婚したい」夫から突然告げられた離婚
ある日の夜、帰宅した夫が珍しく真剣な表情で私の前に座りました。そして、しばらくの沈黙のあと、こう切り出したのです。
「離婚してほしい。院長の娘と結婚したいと思っている。前々から、お前じゃ釣り合わないと思っていたんだよ」
あまりにも突然の言葉に、私はすぐには意味を理解できませんでした。
「どういうこと?」と聞き返すのが精いっぱいだった私に、夫はさらに信じられない話を続けたのです。
「向こうも俺との結婚を考えてくれている。将来的には病院を任せてもらえる話も出ているんだ」
以前から院長という立場に強い憧れを持っていた夫。しかし、まさかそのために妻と幼い娘との生活まで手放そうとしているとは思ってもいませんでした。
「私と娘はどうなるの?」と尋ねると、「養育費はきちんと払うし、生活に困らないようにする」と答えた夫。その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが冷めていきました。
これまで築いてきた家庭を、夫が自分の将来のために簡単に手放そうとしている――その事実が何よりも苦しかったのです。
私の決断
私はその場で離婚を受け入れることはできませんでした。
翌日以降、何度も夫と話し合いました。いつから院長の娘と結婚を考えていたのか、なぜ私に何も話さなかったのか、娘との今後をどう考えているのか――。
しかし、夫の意思は変わりませんでした。私も次第に、「この人と以前のような夫婦関係に戻ることは難しい」と考えるように。
とはいえ、幼い娘を抱えた状態で、すぐに生活を変えることには不安もありました。そこで私は、まず娘を連れて別居することにしたのです。
しばらくは身近な人の助けを借りながら生活を立て直し、看護師として働ける職場を探すことに。同時に夫とは離婚条件について話し合いを続けました。娘の養育費や面会頻度についても確認し、お互いが合意できる内容を整理していきました。
そして数カ月後、正式に離婚が成立。結婚生活がこんな形で終わるとは思っていませんでしたが、娘との暮らしを守るためには前へ進むしかないと思いました。
娘との生活を守るために
離婚後、別の病院で看護師として働き始めた私。
慣れない職場と育児を両立する毎日は慌ただしく、最初のころは1日を乗り切るだけで精いっぱいでした。それでも少しずつ新しい生活のリズムができ、娘との2人暮らしにも慣れていきました。
そんなある日、元夫と共通の知人がSNSに投稿した写真が目に入りました。そこには、結婚式場らしき場所で並んでいる元夫と女性の姿が……。そして、コメント欄には「ご結婚おめでとう」という言葉が並んでいました。
離婚からしばらく経っていたとはいえ、実際にその光景を目にすると、胸の奥がざわつきました。
さらに数日後、以前の職場で一緒だった元同僚からも、元夫が再婚したことを聞きました。
夫が私に離婚を切り出した時点で、すでに相手との将来をかなり具体的に考えていたのだと改めて実感し、複雑な気持ちになりました。
「もう元夫の人生に振り回されるのはやめよう」と決め、娘との生活に目を向けることにしました。
離婚から3年後、知った元夫の現在
離婚から3年ほど経ったころのこと――。
お出かけからの帰り道、偶然、元夫が勤務していた病院の近くを通りがかった私と娘。以前は私自身も働いていた場所だったため、懐かしさから何となく建物に目を向けました。
すると、近くを歩いていた人たちの会話が耳に入ったのです。
「あの病院、今は行かないほうがいいわよ」
「え、どうして?」
「院長が変わってから、あまり評判がよくないみたい」
その言葉を聞き、私は思わず足を止めそうになりました。
気になって帰宅後に調べてみると、元夫が院長になっていたことを知りました。あれほど望んでいた肩書きを、実際に手に入れていたのです。
一方で、病院に対する口コミには、以前とは違う内容も見られるように。診察時の説明や患者への接し方について厳しい意見が寄せられており、「以前と雰囲気が変わった」と感じている人もいるようでした。
もちろん、インターネット上の口コミだけですべてを判断することはできません。それでも、あれほど望んでいた院長という立場に就いたあとも、すべてが元夫の思い通りになったわけではないのだろうと感じました。
元夫がどんな人生を送っているのかは、もう私には関係ありません。
離婚したばかりのころは、裏切られた悔しさや将来への不安でいっぱいでした。しかし3年が経ち、今の私には仕事があり、娘との穏やかな暮らしがあります。
あのとき夫に裏切られたことを嘆き続けるより、娘と一緒に築いてきた今の生活を大切にしたい――そう思えるようになった自分にようやく気づくことができました。
◇ ◇ ◇
出世や肩書きを手に入れることが、そのまま幸せにつながるとは限りません。自分の望みを優先するあまり、身近な人との信頼関係をないがしろにすれば、かけがえのないものを失うことにもつながるでしょう。
また、離婚などによって生活が大きく変わることになったときは、ひとりですべてを抱え込む必要はありません。必要に応じて周囲の助けも借りながら、自分や子どもが安心して暮らせる環境を少しずつ整えていくことが大切ですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています