彼の家のアルバムになぜ父が!?
その日、彼の両親は外出しており、家には私と彼の2人だけでした。
彼の子どものころの話になり、昔のアルバムを見せてもらうことに。ページをめくっていると、幼い彼が写った1枚の写真に目がとまりました。
彼の隣には男性がいて、笑顔で彼の肩を抱いています。ぱっと見ただけなら、まるで親子のような仲むつまじい写真です。
ところが、その男性の顔を見た瞬間、私は思わず写真に顔を近づけました。今よりずっと若いものの、見覚えのある顔だったのです。
「……この人、私のお父さんだと思う」
彼も驚いて写真をのぞき込みました。
「えっ!? じゃあ、父さんの友だちだったのかな?」
幼いころのことなので、彼自身は写真の男性について何も覚えていないようです。
私も彼も、どうして彼の家のアルバムに父が写っているのか、まったく見当がつかず……。その日は彼の両親が不在だったため、帰ってきたら父親に聞いてみると言ってくれました。
私の知らない父の過去
帰宅してからも、写真のことが気になって仕方がありません。
私の父は会社を経営していて、どちらかといえばお堅いタイプ。若いころの話を聞くこともほとんどなく、交友関係についても詳しく知りませんでした。
考えれば考えるほど、「もしかして、家族には言えない事情でもあるのでは……?」と、つい勘ぐってしまいます。
父に聞こうか迷いましたが、もし触れられたくない過去だったらと思うと、なかなか聞けませんでした。
彼の父から「会いたい」
数日後、彼から電話がかかってきました。
「やっぱり、写真の人は君のお父さんだって」
さらに、「父さんが君に会いたいって」と言うのです。理由を聞いても、「詳しくは父さんから話したいみたい」とのこと。
後日、ドキドキしながら彼の実家を訪ねると、彼のお父さんは私をじっと見つめ、どこか泣きそうな表情を浮かべました。
「こんなに大きくなったんだね」
予想外の言葉に、私は固まりました。
「私のこと、知ってるんですか……?」
すると彼のお父さんは、別のアルバムを持ってきました。そこには、幼稚園くらいの私と彼が一緒に遊んでいる写真が。
もちろん、私も彼もまったく覚えていません。大人になって初めて出会ったと思っていた私たちは、実はずっと昔にも会っていたのです。
父たちが絶縁していたワケ
そこで初めて、彼のお父さんから父との過去を聞きました。
2人は大学時代の同級生で、卒業後には一緒に会社を立ち上げたそうです。結婚後も家族ぐるみの付き合いを続けていたものの、私たちが幼稚園くらいのころ、会社の経営が厳しくなったのだとか。
そんな中、取引先から彼のお父さんに転職の話が持ちかけられました。彼のお父さんがそちらへ移れば、父の会社との取引も増やしてもらえるとのこと。それが会社を存続させる一番の方法だと考え、悩んだ末に会社を辞める決断をしたといいます。
ところが、その理由を父には伝えませんでした。
「言ったら、あいつは絶対に止めただろうから」
何も知らない父からすれば、一番苦しいときに、一緒に会社を立ち上げた友人がほかの会社へ移ったようにしか見えません。2人は大喧嘩になり、そのまま絶縁。家族同士の交流も途絶えました。
彼のお父さんも何度も本当のことを話そうと思ったものの、年月がたつほどきっかけを失ってしまったそうです。
「まさか、こんな形でまたつながるとは思わなかったよ」
彼のお父さんは少し寂しそうに笑いました。
長い時を経て再会した父たち
帰宅後、私は父にすべてを話しました。彼のお父さんの名前を出すと、父の表情が一変。転職の本当の理由を伝えると、しばらく黙り込んでしまいました。
「……あいつ、そんなことひと言も言わなかったぞ」
ずっと裏切られたと思っていただけに、父もすぐには気持ちの整理がつかないようでした。それでも、「一度ちゃんと話してみたら?」と伝えると、会うことを決めました。
それからしばらくして、私と彼も立ち会い、父たちは久しぶりに再会。
最初は気まずそうでしたが、先に父が口を開きました。
「お前は昔から、肝心なことを言わないんだよ」
彼のお父さんは、「……あのとき、ちゃんと話せばよかったな」と答えました。その後、2人は当時のことを話し合い、長年の誤解もようやく解けたようです。最後には、2人で昔の思い出話をしながら笑っていました。
今では、途切れていた交流も少しずつ戻っています。
彼の家で偶然見つけた1枚の写真が、父たちを再びつなぐきっかけになるとは思ってもみませんでした。大人になってから出会ったと思っていた彼とも、実は幼いころから縁があったと知り、人の縁とは不思議なものだと感じた出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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