隣に引っ越してきた親子に悩まされる日々
あるとき、わが家の隣に、小学3年生の女の子・A子ちゃんがいる3人家族が引っ越してきました。
A子ちゃんは娘と同学年だったこともあり、顔を合わせる機会が次第に増加。しかし、私は少しずつその親子の言動が気になるようになりました。
母親は娘をかなり甘やかしているようで、A子ちゃんが何かを欲しがったり嫌がったりすると、たいてい言うことを聞いている様子。その影響もあったのか、A子ちゃんはうちの娘に自分のランドセルを持たせようとしたり、嫌がっていることを無理にさせようとしたりすることも……。
娘から話を聞くたびに注意して見守っていましたが、同級生同士ということもあり、できるだけ大きなトラブルにはしたくないとも思っていました。
そんなある夏休みの日のこと――。
娘が「宿題の風景画を描きたいから、公園に行きたい」と言ったので、私は娘と一緒に近所の公園へ。娘は木陰に座ると、画用紙を広げて夢中になって絵を描き始めました。
しばらくすると、A子ちゃん親子も公園にやってきました。娘が絵を描いているのを見たA子ちゃんは、「私も描く!」と興味を示しました。そこで、私が持っていた画用紙を1枚渡すと、娘の隣に座って一緒に描き始めたのです。
A子ちゃんママは少し離れたところで、他の保護者と立ち話をしていました。
ところがA子ちゃんは、最初こそ画用紙に向かっていたものの、すぐに飽きてしまった様子。「やっぱり面倒くさい」と言って、絵を描くのをやめて遊び始めました。
その直後、少し離れた場所にいた男の子が突然その場にしゃがみ込み、ぐったりした様子を見せたのです。
暑い日だったため、熱中症かもしれないと思い、すぐに男の子のところへ駆け寄った私。近くにいた他の大人にも声をかけ、日陰へ移動させて様子を見ながら、必要な対応を取りました。
娘も心配して私のそばに来ていました。幸い男の子は意識があり、すぐに保護者にも連絡がついたため、私たちは絵を描いていた場所へ戻りました。
すると、娘が突然立ち止まりました。
「え……? 私の絵がない……」
そこに置いてあったはずの娘の風景画だけが、なくなっていたのです。
周囲を探しましたが、どこにもありません。そして気がつけば、先ほどまで近くにいたA子ちゃん親子の姿もなくなっていました。
まさかの場所で消えた娘の絵と再会
一瞬、A子ちゃん親子が持っていったのではないかと疑ってしまった私。しかし、実際に持ち去るところを見たわけではありません。証拠もなかったため、決めつけて問い詰めることもできませんでした。
結局、その日は絵を見つけられないまま帰宅。娘はかなり落ち込んでいましたが、「もう1回描く」と言い、後日改めて別の風景画を完成させました。
そのまま夏休みが終わり、学校生活が始まってしばらく経ったころの授業参観にて――。
私が学校へ行くと、授業参観に合わせて、子どもたちが描いた作品がいくつも廊下に展示されていました。何気なく眺めながら歩いていた私は、ある1枚の絵を見た瞬間、足を止めました。
「えっ……なんで?」
そこにあったのは、夏休みに公園でなくなったはずの娘の風景画だったのです。構図も色使いも、私が隣で見ていたものと同じでした。
しかし、作品の横に書かれていた作者は娘ではなく、A子ちゃんの名前になっていました。しかも、その絵は校内で高く評価され、外部の絵画コンクールにも出品されていたようでした。
近くにはA子ちゃんママもいました。
「この絵、うちの娘が描いたんですよ。すごいでしょう? わが子ながら天才だと思うわ♡」
他の保護者にうれしそうに話している姿を見て、私は言葉を失いました。娘は何か言いたそうにしていましたが、私もさすがにその場でA子ちゃんを責め立てるようなことはできません。
授業参観の後に、先生はその作品がコンクールで金賞に選ばれたと話していました。さすがに黙っていられず、担任の先生に声をかけた私。
「先生、この絵について確認していただきたいことがあります。これは、もともと娘が描いていた絵だと思います」
私は夏休みに公園で絵がなくなった経緯と、実際に娘がその絵を描いているところを見ていたことを先生に説明しました。先生も困惑しているようでした。
すると、それまで黙っていた娘が「先生、たぶん私が描いたってわかる方法がある」と言ったのです。
娘が先生に伝えた絵の秘密
娘から詳しく話を聞いて、私も驚きました。
実は娘は絵を描いていたとき、普通の画材だけでなく、UVライトを当てると見えるペンも使っていたのです。昼間の公園を描いた絵でしたが、遊び心で星や小さな印をこっそり描き加えていたのだそう。
「ライトを当てれば出てくると思う」と娘は先生に説明しました。私は娘が絵を描いている姿こそ見ていましたが、そんな仕掛けまで施していたとは知りませんでした。
私と娘から話を聞いたあと、「わかりました。学校で確認します」と言ってくれた担任の先生。学校側は後日、私たち親子と相手の親子から個別に事情を聞くことになりました。
そして確認の日――。
校長先生と担任の先生が立ち会い、まずA子ちゃんに、絵についていくつか質問したそうです。
どこで描いたのか、何を表現したのか、どんな画材を使ったのか。しかし、女の子の説明には曖昧な部分が多かったとのことでした。
一方娘は、「昼間の公園を描いたけど、見えないペンで夜の星も描きました」と説明。そこで先生が絵にUVライトを当てて確認すると、娘が話していたとおり、通常の状態では見えなかった星や印が浮かび上がったのです。
さらに、学校が事実関係を調べるなかで、夏休みに公園で絵を描いていた娘と、そのそばで見守っていた私を目撃していた保護者がいたこともわかりました。こうした証言も得られたことから、学校側は例の絵を娘が制作したものだと判断しました。
A子ちゃんも最後には、娘の絵を持ち帰り、自分が描いたものとして提出したことを認めたそうです。
学校からコンクール主催者へ連絡することに
後日、校長先生から私たちに説明がありました。
学校として事実関係を確認したうえで、作品を出品したコンクールの主催者にも事情を説明するとのこと。すでに審査結果が発表されたあとだったため、受賞者名をどのように訂正するかについては、主催者側の判断も必要だということでした。
その後、学校と主催者との間で確認がおこなわれ、作品の作者情報が訂正されたのです。正式に娘の作品として扱ってもらえることになったと聞いたとき、私はようやく胸をなで下ろしました。
娘は金賞の受賞そのものよりも、「ちゃんと私が描いたってわかってもらえてよかった」と喜んでいました。時間をかけて一生懸命描いた作品だったからこそ、自分の名前で評価してもらえたことが何よりうれしかったのだと思います。
A子ちゃん親子の変化
学校での確認が終わったあと、A子ちゃんママからも謝罪がありました。
最初はかなり気まずそうな様子でしたが、「娘がそんなことをしていたなんて知りませんでした。申し訳ありませんでした」と頭を下げました。A子ちゃんも娘に、「ごめんなさい」と謝ったそうです。
学校側からも、今回の件について家庭でしっかり話し合うよう伝えられたとのことでした。
数日後には、A子ちゃんパパも一緒にわが家へ謝罪に来ました。A子ちゃんパパは、「娘の様子をきちんと見られていませんでした。本当に申し訳ありません」と話していました。
それからは、A子ちゃんが娘にランドセルを持たせたり、嫌がることを無理にさせたりすることもなくなりました。
私たちとしても、必要以上に相手を責め続けたいわけではありません。何より大切だったのは、娘の作品が娘自身のものだと認められることでした。
子どもの作品を他人に持ち去られ、別の子の名前で提出されるなんて、私には想像もしていなかった出来事でした。もし授業参観で偶然あの絵を見つけていなかったら、真相はわからないままだったかもしれません。
そして何より、娘自身が絵に施していた小さな工夫が、思いがけない形で自分の作品を守る証拠になりました。
感情的に相手を問い詰めるのではなく、まず学校に事情を説明し、事実を一つずつ確認してもらったことで、娘の努力を正当に評価してもらえたことに安心しました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。