「T大じゃないの?」と見下されて…
内定をいただいたのは、以前から興味のあった業界のA社でした。選考を通じて会社にもよい印象を持っていたので、入社を楽しみにしていたのを覚えています。
内定式が無事に終わると、社内の会場で懇親会が始まりました。多くの内定者が集まり、飲み物や軽食を片手に交流する中、僕も近くにいた人たちと話していました。
すると、少し離れたところから、3人組の会話が聞こえてきました。どうやら3人とも、T大学の出身だったようです。
「やっぱり同じT大出身だと話が合うよね」「そうそう、話のレベルが違うからさ」
その会話が気になり、思わず視線を向けると、僕に気づいたのか、そのうちの1人が声をかけてきたのです。
「もしかして、君もT大?」
僕が「いや、T大ではないよ」と答えると、3人は顔を見合わせて苦笑い。それまでの親しげな態度が変わり、なんとなく気まずい空気になりました。
そのとき、近くにいた営業部の部長が僕たちの会話に加わってきました。部長もT大出身のようで、「僕もT大なんだよ。君たちは後輩だね」と、3人にうれしそうに話しかけていました。
ところが、僕がT大出身ではないと知ると、態度が一変。
「なんだ、君はT大じゃないのか。うちはT大出身の優秀な社員が多いからね。君にはちょっと厳しい環境かもしれないな」
あからさまに見下すような言い方に、僕は驚きました。
「大学名だけで判断されるんですね……」
思わずそう返すと、部長は不機嫌そうな顔になり、「なんだ、その言い方は。そんなに不満なら帰ってもいいんだぞ」と言い放ちました。周囲の3人も、こちらを見て笑っています。
入社前からこんなことを言われるとは思わず、すっかり気持ちが冷めてしまった僕。
「そうですか。それなら、お言葉に甘えて失礼します」
そう告げて、会場をあとにしました。
内定を辞退し、新たな会社へ
帰宅後、改めて今後のことを考えました。もちろん、あの部長だけがA社のすべてではありません。それでも、内定者を学歴だけで判断し、平気で見下すような人がいる会社で働くことには抵抗がありました。
悩んだ末、後日、採用担当者に連絡して正式に内定を辞退することに。
そこから再び就職活動を始めると、幸いにも以前から興味のあった外資系企業がまだ採用をおこなっていました。選考を受け、無事に内定をいただくことができたのです。
翌春からはその会社で働き始め、先輩や同僚にも恵まれて充実した日々を過ごしていました。大変な仕事もありましたが、努力をきちんと評価してもらえる環境に、やりがいを感じていたのです。
そんな日々が続き、入社して約2年がたったころ、思いがけない再会がありました。
偶然、あの内定者と再会して…
ある日、僕は仕事の一環で、同僚と一緒に異業種交流会に参加しました。
会場でほかの参加者と話していると、突然、1人の男性から声をかけられたのです。
「あれ? もしかして、A社の内定式にいた人?」
よく見ると、A社の懇親会で僕を笑っていたT大出身の3人組のうちの1人でした。
男性は僕に、今はどこで働いているのかと聞いてきました。僕が現在の勤務先を伝えると、男性は「へぇ、そうなんだ」とひと言。そして、思い出したように続けたのです。
「そういえば、あのとき途中で帰っちゃったよね。やっぱり学歴コンプレックスがあったから? T大卒ばかりで居づらかったんでしょ?」
2年以上も前のことを、まだそんなふうに思っていたのかとあきれてしまいました。
僕が何と返そうか考えていると、それまで隣で話を聞いていた同僚が、不思議そうに口を開きました。
「学歴コンプレックス? 彼が? 彼は世界でも有名な、あの名門大学の出身ですよ?」
その瞬間、男性の表情が変わりました。
実は、僕は中学生のころから海外の大学への進学を目指し、英語を中心に勉強を重ねてきました。そして、念願だった大学に進学できたのです。
当時の懇親会でも、T大ではないと答えただけで、具体的な大学名を聞かれることはありませんでした。
「えっ……あの大学? 本当に?」
驚いた男性は、何度も僕の顔を見つめていました。先ほどまでの余裕はすっかりなくなり、「そ、そうだったんだ……」と気まずそうにつぶやきます。
そして、「じゃあ、僕はこれで……」と気まずそうに告げ、その場を離れていきました。
その後、同僚に当時の出来事を話すと、「そんなことがあったんだ。でも、そのおかげで今、一緒に働けてるんだね」と笑ってくれました。
その言葉を聞いて、僕も思わず笑顔になりました。あの日、A社の内定を辞退したことに後悔はありません。大学名ではなく、今の自分の仕事ぶりを見てくれる人たちと働けていることを、改めてうれしく感じた出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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