“うれしくない”サプライズ
出産予定日まで2週間を切ったころ、仕事から帰宅した夫が上機嫌で「サプライズがあるんだ」と切り出しました。
何か出産に向けて準備してくれたのかと思ったのですが、夫の口から出てきたのは予想もしない言葉だったのです。
「出産後、母さんが手伝いに来てくれることになったよ」
義母から「産後は経験のある人がそばにいたほうが安心だから、私に任せて」と申し出があったらしく、夫はすっかりその気になっていました。
しかし、私にとって義母は決して気軽に頼れる相手ではありませんでした。関係が悪かったわけではありませんが、やはり義母には気をつかいましたし、産後の疲れ切った状態で同じ家に長時間いられたら、心まで休まらないと思ったのです。
それ以上に心配だったのが、夫が義母にすべてを任せてしまうことでした。
「私に必要なのは、あなたのサポートだよ。お義母さんには来てもらわなくて大丈夫」と私ははっきり伝えました。
夫は「母さんも楽しみにしているのに」と不満そうでしたが、私が何度も説明すると、最後には「わかった」と答えました。夫が理解してくれたと思い、私はこの話は終わったと思っていたのですが……。
しっかり断ったはずなのに…
その後、私は無事に出産。慣れない授乳や赤ちゃんのお世話で寝不足になりながら入院生活を終え、ようやく自宅へ戻った日のことでした。
玄関のドアを開けると、家の中から煮物のような醤油の香りが漂ってきたのです。
不思議に思いながら部屋へ入ると、そこには義母がいました。
「おかえりなさい! 今日からしばらく同居して、お世話を手伝うからね♪」
「何も気にしなくていいのよ。部屋が散らかっていても、すっぴんでも私は気にしないから」
笑顔で迎える義母を前に、私は言葉を失いました。来てもらわなくていいと、夫にはあれほど伝えたはずなのに……。
さらに私を驚かせたのは、その後に帰宅した夫から告げられた言葉でした。
「俺、育休を取り下げたから。母さんがいてくれるなら、俺は働いたほうが家族のためになると思って」
私は耳を疑いました。産後は2人で育児をすると話し合って決めたのに、夫は私に相談することなく予定を変えていたのです。
結局、夫はこれまでどおり仕事へ行き、日中は私と義母で赤ちゃんを見る生活が始まりました。
心の休まらない産後の生活
すでに義母が来てしまった以上、いつまでも不満を抱えていても仕方がありません。せっかく手伝いに来てくれたのだから、家事などをお願いして、その間に少しでも休ませてもらおう。私はそう気持ちを切り替えようとしました。
ところが、義母とは育児に対する考え方がかなり違いました。
「昔はこうしていたのよ」と、今の育児指導とは異なる方法を勧められることもあり、そのたびに私は「病院でこう教わったので」と説明しなければなりませんでした。
赤ちゃんが泣いたときのあやし方や、授乳、寝かしつけについても自分のやり方を勧めてきたため、私はなかなか気が休まりませんでした。
善意で来てくれていることはわかっていました。それでも、産後の私にとっては、その善意に応え続けること自体が大きな負担になっていたのです。
夫にも何度か相談しました。
「やっぱり、お義母さんにはそろそろ帰ってもらいたい。私、全然休めてないよ」
しかし夫は、「母さんだって厚意で来てくれているんだから。それに子育ての経験もあるんだし、もう少し頼ればいいじゃん」と取り合ってくれませんでした。
自分は育休を取りやめたのに、育児については「母さんに任せればいい」と言う夫。私は次第に、義母だけの問題ではないと思うようになりました。
このままでは、私が我慢し続けるだけになってしまう――そう思った私は、以前とある人にかけてもらった言葉を思い出し、スマホを手に取りました。
私が助けを求めた人物とは
数日後の休日――。
夫は義母がいることにすっかり安心したのか、家事や育児を積極的にすることもなく、リビングでくつろいでいました。
そんなとき、インターホンが鳴りました。私はちょうど赤ちゃんのおむつ替えで手が離せなかったため、近くにいた義母に声をかけました。
「すみませんお義母さん、出てもらえますか? 今日、お客さんが来ることになっているんです」
私がそう声をかけると、義母は不思議そうな顔をしながら玄関へ向かいました。少しして、「えっ、お義母さん!? どうして……?」と驚く義母の声が聞こえてきました。
訪ねてきたのは、夫の祖母、私にとっての義祖母でした。以前から私のことを気にかけてくれていて、妊娠中にも「産後に困ったことがあったら、遠慮しないで連絡してね」と言ってくれていたのです。
私はその言葉に甘え、電話で今の状況を相談。夫の祖母は私の話を聞くと、「それなら一度みんなで話をしたほうがいい」と言って、時間を作って訪ねてきてくれたのでした。
自分の姑にあたる義祖母を前にして、少し気まずそうな表情を浮かべた義母。
しかし夫の祖母は義母を責めるのではなく、まず私の体調や赤ちゃんの様子を確認してくれました。そして私が十分に休めていないことを知ると、夫に向かって静かに言いました。
「手伝う人がいるからって、あなたが親じゃなくなるわけじゃないでしょう。父親の自覚を持ちなさい!」
夫は何も言い返せないようでした。
さらに義母にも、「手伝うっていうのは、自分のやり方で子育てすることじゃないのよ。まずはお嫁さんが何をしてほしいのか、聞いてあげないと」と伝えてくれました。
その言葉を聞いて、義母も思うところがあったようです。
「私、よかれと思ってやりすぎていたのかもしれないわね」と義母が言ってくれたとき、私は張り詰めていた気持ちが少しだけほどけました。
その日のうちに、義母は自宅へ戻ることに。今では必要なときには食事を届けてくれるなど、私が負担に感じない距離から手助けしてくれるようになり、以前よりずっと頼りやすい関係になりました。
一方の夫も、祖母から言われたことがよほど堪えたようです。
夫は育児休業を改めて取ることはありませんでしたが、勤務先と相談しながら休暇を取ったり、帰宅後や休日の育児を担当したりするように。今はおむつ替えや寝かしつけ、さらには夜泣きの対応まで積極的にしてくれるようになりました。
私が望んでいたのは、誰かに夫の代わりをしてもらうことではありませんでした。夫と一緒に、親として赤ちゃんを育てていきたかっただけだったのです。
産後は、体を休めることが何より大切です。どれだけ善意からの手助けだったとしても、産後の母親が気をつかい続けたり、望んでいないサポートを受け入れたりしていては、十分に休むことはできません。
この出来事を通して私は、産後に本当に必要なのは「誰が手伝うか」ではなく、母親本人が安心して休める環境を家族でつくることなのだと強く感じました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。