帝王切開後のつらさを軽視する義父
3年前、帝王切開で娘を出産した私は、退院後も傷口が激しく痛み、前かがみでしか歩けない日々を過ごしていました。やがて生後1カ月のころ、お宮参りの時期を迎えました。私は傷の痛みが落ち着いてからのほうがありがたいと夫に伝えていましたが、義父が「大安のこの日じゃないとダメだ!」と無理矢理日程を決定。私は体を休める間もなく、引き裂かれるようなおなかの痛みに耐えながら、必死の思いで参加するしかありませんでした。
当日、少し先を歩く夫と義母から離れ、傷口を気にしながら歩く私に、義父は冷ややかな目を向け、「帝王切開なんて、麻酔で寝てるうちに終わるんだからラクなもんだろ。自然分娩の痛みに比べたら鼻歌交じりのはずだ。いつまで病人面してトロトロ歩いてるんだ?」と言い放ったのです。あまりの言われように、私は痛みをこらえながら「お義父さん、帝王切開って、おなかや子宮を切開する手術なんです。まだ傷口がすごく痛くて……」と必死で訴えました。すると義父は鼻で笑い、「まったく、大げさだなあ! 甘ったれるな。昔の母親は畑で産んですぐ働いたんだぞ? 腹をちょっと切ったくらいでいつまでも病人面しちゃいかんよ」と信じられない言葉を重ねてきたのです。悔しい気持ちで泣きそうになりましたが、言い返す言葉が見つからず、私は「はははっ」と笑ってその時間を乗り切るしかありません。
帰宅後すぐに夫へ相談しましたが、夫は「父さんも悪気があって言ったわけじゃないから。悪意はないんだし、ハッパをかけただけだよ。大目に見てあげてよ」と取り合ってくれず、私は深い孤独と悔しさを抱え込むことになりました。
それから1年後。義父が盲腸で開腹手術を受けることになり、私と夫、義母の3人でお見舞いに行きました。病室に入ると、普段の威勢の良さはどこへやら、ベッドの上で弱々しく顔を歪める義父の姿がありました。看護師さんから「術後の回復のためにも、無理のない範囲で今日から少しずつ歩いてリハビリしましょうね」と促されると、義父は「痛くて無理だ」と顔をしかめて不機嫌そうに渋っています。
私はかつて自分が経験した術後の壮絶な痛みを思い出し、純粋に義父の回復を願って、「お義父さん、看護師さんもそう仰っていますし、少しだけ病棟の廊下を歩いてみませんか? 痛むなら私が肩を貸しますから」とやさしく提案しました。すると義父は突然カッと目を見開き、「そんなことできるわけないだろ! こっちの気も知らないで気安く言うな! 腹を切ったこともないくせに、痛くて動けない人間の気持ちがわからないのか!」と怒鳴りつけてきたのです。
病室が一瞬で静まり返りました。私は「お義父さん、お言葉ですが……。お義父さんのお気持ち、痛いほどよくわかりますよ。私も帝王切開でおなかを切りましたから。術後、一歩を踏み出すのがどれほど怖いか、どれほど痛いか、身をもって知っています」とだけ、静かに伝えました。
すると隣にいた夫が、空気を読まずにヘラヘラと笑いながら「ほんと親父、大げさだな〜! そういえば娘のお宮参りのとき、親父『寝てただけでラクしたくせに病人面するな』とか『腹ちょっと切ったくらいで甘ったれるな』って、こいつにハッパかけてたじゃん! あのあとこいつにも相談されたけど、俺も『悪気はないんだから大目に見てやって』って言ったんだよな〜。親父、あのときの勢いはどうしたんだよ〜」と言ったのです。
その瞬間、義母の顔色がサッと青ざめ「……ちょっと待って。あんたたち、今なんて言ったの?」と低い声で言い、夫の愛想笑いがピタリと止まりました。夫が「え? いや、だから親父がこいつにハッパを……」と言いかけましたが、義母は「あのお宮参りの日、あなた(義父)そんなこと言ってたの!? それで、あんた(夫)はそれを知って庇いもしなかったってこと!?」と激怒。
「〇〇さん(私)は命がけでおなかを切って、うちの初孫を産んでくれたのよ! なのに、そんなひどい言葉を投げつけてたなんて! 自分が手術をしてこんなにつらい思いをしているのに、〇〇さんのときはどうしてそんなことが言えたの!?」と義母は怒りが止まりません。
夫も義父も、義母のあまりの剣幕に完全に青ざめ、声も出せずに縮み上がっていました。「帝王切開をバカにするのも大概にしなさいよ! 二人とも〇〇さん(私)に今すぐ謝りなさい!!」と義母に言われ、さっきまで「俺の痛みがわかるか!」とわめいていた義父は顔を真っ赤にして完全にフリーズしていました。そして、ぐうの音も出ないまま、小さく「……すまなかった」とつぶやくのがやっとでした。ヘラヘラしていた夫も、まさか自分まで怒られると思っていなかったのかさすがにしょんぼり。「……本当にごめん」と謝罪し、うなだれていました。
自分が経験したことのない痛みを想像するのは、難しいことかもしれません。しかし、だからこそ、他人の痛みの程度を安易に決めつけず、お互いの苦しみに寄り添い尊重することが大切だと私は思います。また、今回の一件で、私自身も波風を立てまいと理不尽を我慢しすぎていたのだと気づかされました。今後は、自分の尊厳や痛みが軽んじられたときは一人で飲み込まず、自分自身を守るために「傷つく」「つらい」ときちんと伝えていこうと心に決めています。
著者:松原櫻子/40代・ライター。3歳の娘を育てる母。イヤイヤの地雷を踏まないように、日々忍者のごとくそろりそろりと歩いている。
作画:Pappayappa
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年4月)