結婚前は優しかった夫・慎一は、娘・舞が生まれてから、実際の育児を妻の美雪に任せきりなのに、周囲には“いいパパ”を演じるようになりました。義母もそんな息子を手放しで褒め、合鍵で突然訪ねては美雪を“ダメな妻”のように扱います。美雪は、戸惑いを飲み込む日々を重ねていました。
そんなある日、美雪が熱を出し、夫に1日、舞を任せることになります。ところが慎一は、ミルクの作り方も置き場所もわからず、休んでいる美雪を何度も起こすばかり。結局ほとんどを美雪が対応したにもかかわらず、慎一はSNSに「今日はパパがワンオペ! がんばる!」と投稿し、「いいパパすぎる」と称賛を集めていました。
「ほぼ何もしてないじゃない!」
やりきれなさを抱えた美雪は、友人の気づかいに少し救われながらも、本当のことは言えず「大丈夫」と返し、「私が我慢すれば丸く収まる」と、また気持ちを飲み込むのでした。結婚前は、あんなに優しかったはずの慎一。彼は一体、どこで、なぜ変わってしまったのでしょうか——。
優しかった夫が変わっていったワケ













熱から回復した翌朝も、慎一は「昨日は大変だったんだぜ? ワンオペでさ!」と、前日の留守番を得意げに語ります。朝食にまで注文をつける姿を見ながら、美雪は「昔はもっと思いやりのある人だったのに」と、ふと過去を思い返したようです。つわりで苦しむ自分に「無理しないで、俺がやるから」と寄り添ってくれた、あのころの優しかった慎一を——。
では、慎一はどうして変わってしまったのか。きっかけは、舞が生まれて間もないころにさかのぼります。何気なく母親へ送ったメッセージに、「男の子なのにミルクをあげるなんて偉いわ。最高のパパね」と返ってきたこと。さらにSNSに投稿すると、知らない人からも「いいパパ」「イクメンですね」と称賛が集まりました。
「男が育児したら、こんなに褒めてもらえるのか——」
思いがけない称賛に、慎一は次第に酔いしれていったようです。
「俺っていい夫でいいパパすぎるよな」と。
そして現在。舞はもう生後9カ月になりました。それでも慎一が舞に向けるのは、“ばぁばに送る写真”のためのカメラばかり。撮り終われば、離乳食のスプーンはそのまま美雪に返されます。かわいがってはいるはずなのに、どこか違う——。
「なんで変わっちゃったのかな……」
優しかった頃の面影を思い浮かべながら、美雪は小さくつぶやくのでした。
◇ ◇ ◇
母親や知らない人から褒められたことで、慎一さんは誰かに承認される喜びを覚えたようです。実際にしたこと以上に大きく褒められて、うれしくなったのでしょう。けれど、その称賛を得ることが目的になってしまうと、本来は目の前の相手のためだったはずの行動が、「よく見られるため」のものへとすり替わっていってしまいます。小さな「すごいね」の積み重ねが、慎一さんの向く方向を少しずつずらしてしまったのかもしれません。私たちも時々、自分のしていることは目の前の相手のためなのか、それとも周りの評価のためなのか——立ち止まって確かめたいものですね。
きりぷち