夫・慎一は、娘・舞の育児を妻の美雪に任せきりでありながら、周囲には“いいパパ”を演じてきました。きっかけは、何気ない育児を義母やSNSで「いいパパ」「イクメン」と褒められたこと。投稿にたくさんの「いいね」がつくほど、慎一はその称賛に酔いしれ、“褒められるための育児”にのめり込んでいきます。義母もそんな息子を手放しで褒め、合鍵で突然訪ねては美雪を“ダメな妻”のように扱い、美雪は戸惑いを飲み込む日々を重ねてきました。
ある日、義母はこの日も合鍵で現れ、舞のお昼寝を「ずらせばいい」と意に介さず、「ちゃんと母親やれてる?」とダメ出しを重ねます。たまりかねた美雪は、「せめて連絡してから来るように言ってほしい」と慎一に相談しますが、返ってきたのは「母さんだって家族なのに」「むしろ感謝しなよ」という言葉でした。合鍵を渡したのも、美雪が喜ぶと勝手に決めたのも慎一自身。困っていると訴えても、「美雪はラクできていいよな」と笑うばかりで、まるで届きません。言葉が通じないもどかしさに、美雪は深く沈んでいきました。
家の中だけだった慎一の言動は、今回、親戚が集まる食事の席で周囲を巻き込んでいきます。みんなの前で笑いものにされた美雪が、帰りの車内で初めて口にした思いとは——。
親戚の前で私を笑い者にする夫の真意














親戚が集まる賑やかな食事の席。お酒を注いで回る慎一は場の中心で、慎一の父親である義父も「嫁さんや孫も増えて賑やかになった」とうれしそうです。和やかな空気の中、慎一がふと「嫁といえばさ〜」と、美雪が舞を寝かしつけながら寝落ちした話を持ち出します。
さらに慎一は「こいつが寝落ちしたせいで、残った洗い物は結局俺が全部やるハメに」と、やってもいない家事をさも自分の手柄のように語り、「働きながらの家事育児ってマジでハードっすよ」と笑いを取ります。すると叔父は「慎一くんは偉いなぁ」と感心します。美雪は心の中で「洗い物なんてそのまま放置じゃない」と反論しますが、声には出せません。
話は美雪の見た目にまで及びます。
「最近化粧もしなくなって」
「結婚前はもっと気合い入ってたのに」
慎一の言葉に叔父は「女は気を抜いてるとあっという間に老けるからなぁ!」と大笑いし、周囲も沸きました。美雪はただ苦笑いしてその場に座っているしかありませんでした。
帰りの車内。美雪は勇気を出して「私のこと、みんなの前であんな風に言わないでほしいの」と、やっていない洗い物を手柄にされたことも含めて初めて気持ちを伝えます。けれど慎一は「あの場を盛り上げてただけじゃん」「なにマジで怒ってんの?」と取り合いません。
「美雪ってほんとノリ悪いよな〜! そういうとこだぞ?」
笑い飛ばす夫の横で、美雪は思わず口をぎゅっとつぐんだのでした。
◇ ◇ ◇
その場を盛り上げるための冗談と、人前で笑いものにされたつらさは、同じ出来事でも立つ位置によってまったく違って見えるのではないでしょうか。和ませているつもりの側は、たった一人がその代償を払っていることに気づきにくいものなのかもしれません。けれど、誰か一人を下げることで生まれる笑いは、少なからずその人の心を傷つけているもの。集まりの席では、誰もが場を盛り上げたいと思うもの。だからこそ、その楽しさが誰かを傷つけることのないよう、少し工夫したいものですね。
きりぷち