「ちょっと! なんで私に秘密にしてたのよ!」
海外留学から帰国したばかりの彼女から数年ぶりに連絡があったかと思えば、きつい口調で私を責め立てました。なんのことかわからずにいると、「彼氏ができたこと!」と、さらに語気を強めます。
彼女は帰国後に地元で私の母に偶然会い、近況を尋ねたところ、私が彼氏と旅行中だと聞いて驚いた、と言って……?
久しぶりのマウンティング
「彼氏ができたなら、一番に私に報告するのが普通でしょ? あんた、男の人を見る目ないんだから、私に相談しなきゃ絶対うまくいかないよ?」
その口調に、私の中でなにかが冷めていくのを感じました。
「なんで教えなきゃいけないの? ここ数年ろくに連絡すら取ってなかったよね?」
私がそう言うと、彼女は「ひどーい!」「私たち、高校からの親友なのに……」と大げさに嘆きました。
「……親友だったら、普通は留学のことだって話してくれるんじゃない?」
彼女が海外に行くことをSNSで知ったこと、お別れ会にも私だけ呼ばれなかったこと――私は、溜め込んでいた思いを静かに口にしました。
「だって、仕事で忙しいと思ったんだもん。私なりに気を遣ってあげたんだよ~?」
あっけらかんとした声に、私はため息しか出ません。学生時代から、彼女はいつもそうでした。すべてが自分中心。私が傷ついていることに、気づきもしないのです。
「そもそも、あんた、そんなにメンタル弱くないじゃん。私にブスって言われても笑ってたくらいだし?」
あのときはそうするしかなかったのです。それが一番、自分が傷つかない方法だと思っていたから……でも、社会に出てみて、すぐにその方法が間違いだと気づいたのです。
「……今は、もう無理して合わせるのやめたの。あのころと同じだと思わないで」
そう言うと、彼女は甲高い声で笑い、あからさまに私をバカにし始めました。
「うっわ~! 生意気~!」「彼氏ができたからって調子に乗ってるんだ?」
そして、彼女の侮辱は、私だけでなく、私の彼氏にも及びました。
「無職の男とかだったら笑っちゃう」「パパの会社の人たちとか見慣れてるから、私、男を見る目だけはあるんだよね。詳しく教えてよ♡」
「私がいいと思った人なら、どんな人だっていいでしょ? 他の人の評価なんていらないし。そもそも、あなたには関係ない」と返した私。まさに売り言葉に買い言葉の状態でした。
「そもそも、学生時代のあんたも貧乏くさかったじゃない! お弁当も毎日同じようなおかずばっかりで、見てるこっちが恥ずかしかったよ」「そんなあんたがまともな男と付き合えるわけないんだって」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かがプツリと切れました。彼氏のこともそうですが、母を侮辱されたことがなによりも許せなかったのです。
母は、毎日早起きして私にお弁当を作ってくれていました。「コンビニや売店で軽く済ませるからいいよ」「お母さんはもう少し寝てて」と言っても、母は「これくらいしかしてやれないから」と言って、毎日お弁当を作り続けてくれたのです。
「……やっぱり私のこと、ずっと見下してたよね?」
そう言うと、一瞬彼女はたじろいだようですが、「あんたみたいな貧乏人、どうせその彼氏とも長続きしないよ!」と捨て台詞を残し、一方的に電話を切りました。
気持ちのこもっていない謝罪
それから数年――。
私はあのときの彼氏と結婚することが決まりました。彼女には明かしていませんでしたが、実は私の彼氏は高校の同級生だった人。学生時代はいわゆる「オタク」でしたが、とても誠実でやさしい人です。
結婚に向けて着々と準備を進めていたある日、忘れていた番号から着信がありました。
「ちょっと、あんた結婚するんだって? SNSで見かけたけど、相手ってあのオタク? マジうけるんだけど」
彼女でした。相変わらずの口調にうんざりして電話を切ろうとすると、彼女はあわてたように「あ、待って!」と声を上げました。
「……ごめん。今のはなし。その……本当は、お祝いを言いたくて……。まだ、怒ってるよね……?」
予想外の言葉に戸惑っていると、彼女は急にしおらしい声で「前は本当にごめん」と謝罪し始めたのです。
「私、あんたにいろいろ言われてから反省したの。恵まれてたせいで、無神経なことばっかり言ってたと思う……」
あまりの変わりように戸惑っていると、彼女は涙声で続けました。
「私にとっての親友って、あんただけだったの。みんな、上辺だけの付き合いだった。ちゃんとぶつかってきてくれたのは、あんただけだったの」
そして、「図々しいお願いだけど……私を結婚式に呼んでくれない?」と。私の結婚式を直接お祝いしたいし、ご祝儀もちゃんと用意して行くから、末席でいいからと必死に訴える彼女。
正直、信じられませんでした。ですが、もし本当に反省しているのなら、ここで無下に断るのも……という迷いが生まれました。「親友」だった過去の情が、ほんの少しだけ残っていたのかもしれません。
「……もう招待状の手配は終わってるし、席も決まってる。高校時代の人たちも呼ぶけど、その人たちと席が離れてもいいなら……」
結局、私はそう言って、式場に相談して席を追加することを約束してしまったのです。
結婚式当日の裏切り
そして、結婚式当日――。
式の開始まで、あとわずかというときでした。スマホに彼女からメッセージが届きました。
嫌な予感がしながらも開いてみると、「やっほー! 今日ついに結婚式だね!」と書かれていました。
「……ねぇ、今どこにいるの? スタッフさんに聞いたら、まだ受付に来てないって言われたんだけど……」と返信すると、「あはは、バレた~? 実は予定が入っちゃったんだよね! これからママとエステ行くことになったんだぁ~」と反省の色など微塵もない言葉が返ってきたのです。さらに彼女は続けました。
「ご祝儀期待させちゃってごめんね」
「貧乏人の結婚式はキャンセルで」
私は彼女に「本当に欠席で大丈夫?」と確認しました。
しかし、私をバカにしたように、彼女から返ってきたのは「は?」というひと言でした。
私は「私の結婚式よりエステを優先したわけね。……後悔しても知らないからね?」と伝えました。しかし彼女は「後悔なんてするわけないじゃん! あのオタクとの結婚式でしょ? 絶対つまんないじゃん、私行きたくないもん!」と最後まで私を侮辱してきたのです。
あのときの謝罪が嘘だったこと、そしてこうやってドタキャンするために結婚式に招いてほしいと言ったこと……私は再び彼女を信じてしまったことをひどく後悔しました。
顔色を悪くした私を見て、そばにいた夫が「どうしたの?」と心配そうに尋ねてきました。式の開始までは、もう本当に時間がありません。
「なんでもない。ちょっと、昔の知り合いから、いたずらっていうか……」
私はそう言って笑顔を作りましたが、夫は私のこわばった表情を見逃しませんでした。
「……わかった。詳しい話は、式が終わってから全部聞かせて」
そして披露宴が終わり、2人きりになった時、私は彼に今までのこと、そして式直前のメッセージの内容をすべて話したのでした。
彼女の大誤算
1週間後――。
彼女から電話がかかってきました。
「ねえ……パパから聞いたんだけど、あのオタク、社長なの!? しかも、うちの会社と取引があるって本当……?」
私はため息をつき、「そうだよ」とだけ答えました。高校時代には「オタク」とバカにされていた夫ですが、今は父親の跡を継ぎ、地元で一番大きな会社の社長となっているのです。
「うちとは比べものにならないくらい大企業じゃない……意味わかんない! なんで教えてくれなかったのよ!」「パパが、あんたんとこの会社から新しい契約を見送るって言われて困ってるの! 私が結婚式に行かなかったくらいで怒らないでよ!」と逆ギレする彼女。
「今回の取引の件は、あなたとは関係ないの。あなたのお父さんの会社では以前から納期の遅れや製造ミスが続いていて、夫も頭を悩ませていたみたい。契約を見送ったのは、あくまで仕事上の判断よ」
「でも、結婚式をエステのためにドタキャンしたことは別の話。取引先の社長夫妻にそんな失礼なことをしたと知ったら、お父さんが怒るのも当然じゃない?」
彼女の父親と夫との間で交わされるはずだった契約は、信頼回復のための最後のチャンスでした。しかし夫の会社では、以前から納期の遅れや製造ミスが問題視されており、次の契約を結ぶかどうか、慎重に検討していたそうです。改善状況を社内で確認した結果、「これ以上、安心して仕事を任せることはできない」と判断し、契約を見送ることになったのです。
「謝るから! ご祝儀だって今からでも払うし! 言い値でお金を入れてあげるから!」
彼女の懇願も、私には響きません。お金で何とかなると思っている姿勢は、昔から何も変わっていないのです。私自身も、夫とは別の企業で役職についています。
「あなたが親のお金で遊び惚けていた間に、私は努力してきたの。だからお金には困ってないし、あなたからのご祝儀なんて受け取らない。どんなに謝られても、今回は許す気はないから」
その数日後、夫が苦笑いしながらスマホの画面を見せてきました。
そこに映っていたのは、彼女からのメッセージ。私に許してもらえないことを感じ取ったのか、SNSを通じて夫に直接連絡してきたのです。
「実は高校のころ、ちょっといいなって思ってたんだよね」「今度、ご飯くらいなら付き合ってあげてもいいよ。パパの会社のことも話したいし」
そんな見当違いのメッセージが多数送られてきていました。びっくりして夫の顔を見ると、夫は「寒気がしたよ」と肩をすくめました。
その言葉どおり、夫は「妻以外に興味がありません。仕事の話は会社を通してください」とだけ返して、そのほかは一切返信していませんでした。
夫もなびかないことがわかったのか、再び私に連絡を取ってきた彼女。
「パパに『大事な取引先の社長夫妻に、なんて失礼なことをしたんだ!』って怒られて、『きちんと謝るまで帰ってくるな』って家を追い出されたの!」「私、本当はあなたがうらやましかったの! 私はお見合いもうまくいかないのに、先に結婚するんだもん!」
どこまでも他人のせいにする彼女に、私は最後の言葉を告げました。
「自分の年齢わかってる? いい加減、物事の良し悪しの判断くらいはつくでしょ。自分の性格の悪さに気づかないなんて、終わってるよ」「私は、あなたの都合の良い親友から卒業させてもらいます」
その後――。
結局、彼女の謝罪は言い訳ばかりで反省が感じられず、両親にも見放されてしまったそうです。知人たちに片っ端から連絡し、助けを求めているようですが、ほとんど相手にされていないとのこと。当然の結果です。人を見下し、平気で傷つけるような人を、誰が進んで助けるでしょうか。
それからしばらくして、彼女の父親の会社は経営が厳しくなっていると聞きました。今はボーナスカットなどで何とか持ちこたえているそうですが……もともと、うちの夫の会社との取引にかなり依存していたようで、今回の契約見送りをきっかけに今後の取引も縮小される見通しなのだとか。この先どうなるかはわかりません。
夫のおかげもあって、私は過去の呪縛から完全に解放されました。これからは、私を心から大切にしてくれる人たちとだけ、過ごしていきたいと思っています。
◇ ◇ ◇
長年の関係であっても、相手の言動に傷つけられ続けているなら、そこから距離を置くことは必要な選択なのだと感じさせられます。一度は謝罪を信じてしまったのも、過去の情があったからこそで、人間関係の難しさがにじんでいますね。それでも、自分や大切な人を軽んじる言葉に「無理して合わせない」と線を引いたことが、結果的に心の平穏につながったのではないでしょうか。誰とどんな距離で付き合っていくかを自分で選ぶことの大切さを、改めて考えさせられます。
【取材時期:2025年8月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。