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「そんなに頑張らなくてもいいのよ」が心の支えに。母親ひとりで子育ては本来の姿ではない【孤育て支援の現場から】

母親の負担がまだまだ大きい現代の子育て。コロナ禍では親子だけで家の中で過ごすことが増え、より孤立感が高まると危惧されています。孤立する子育て「孤育て」の背景を支援団体や専門家に尋ねました。

「そんなに頑張らなくてもいいのよ」が心の支えに。母親ひとりで子育ては本来の姿ではない【孤育て支援の現場から/後編】

妊婦や子育て中の親を無償で訪問し、話をしながら一緒に家事や育児をするサービスサービス「ホームスタート」。NPO法人ホームスタート・ジャパンが中心となり、提携する全国の子育て支援団体などが地域でボランティア(ホームビジター)を派遣している。

 


NPO法人ホームスタート・ジャパン

対象は妊婦、乳幼児(未就学児)がいる家庭


 

「すごいわよ!そんなに頑張らなくてもいいのよ」

 

ビジターのこの言葉に救われたのは、第一子を産んだあとにこのサービスを利用した30代の女性だ。コロナ禍の冬は、乳児を連れて外出する気にもなれず引きこもっていた。抱っこしていないと泣く状況が続き、初めての子育ては緊張感と隣り合わせの状況だった。

「『赤ちゃんは泣くもんだし、大丈夫よ』と言い続けてもらえて。それが心の拠り所になりました。子どもを抱っこしてもらっている間、作りたい料理を作ることもできて、自分の気持ちに余裕ができるのを感じました。一緒におしゃべりすることも楽しみで、『一生懸命がんばってるね』と労ってくれると励みになりました」と、この女性は振り返る。

 

こうした利用者の声から、事務局長の山田幸恵さんはコロナ禍でも「そこにいること」の大切さを実感している。

 

「そこにいるから一緒に手を動かせる。上の子と手作りおもちゃで遊ぶこともできるし、離乳食を一緒に作ったり、味見したり、交代で抱っこしたり、買い物に行ったりできる。お母さんと一緒にいる支援の意味を改めて感じています」と話す。
 

共感だけでなく、一緒に手伝ってもらえるとより孤立感が解消

「孤立感の解消には精神的なサポートと物理的なサポートがセットであることが重要」と語るのは家庭支援にくわしい明治大学文学部心理社会学科教授、加藤尚子先生だ。

 

「子育ての悩みを相談して『そうですよね、確かに大変ですよね』と共感的に話を聞いてもらうことも大事なのですが、それと同時にセットで子育てを手伝ってくれる物理的サポートがあることが、一番の子育て支援になるんです。そうすることで、より親の負担感も減りますし、孤立感の解消につながるのでメンタルヘルス的にも効果があります」
 

サービスを利用する気になれない人の支援が課題

政府が目指す児童福祉法改正案では、支援対象者の家庭を訪問し、家事や育児を支援する訪問型支援サービスの新設が盛り込まれており、加藤先生はこれを「大きな前進」と評価する。

 

「これはまさにセットでの支援なので効果的です。児童福祉法改正案は前進といえるでしょう。しかも自分から申し込むサービスではないこともポイントです。世の中にはたくさんの子育てサービスがあります。都内の場合だと、母子健康手帳をもらうときにドサッとたくさんの資料やクーポン券をもらいます。それだけ子育て支援サービスはたくさんあるんです。

 

共感だけでなく、一緒に手伝ってもらえるとより孤立感が解消

 

でも実際には自分から調べない人、利用する気にならない人が山ほどいる。そういう人ほど困っていることが多いんです。利用者からアクセスして探す方式ではなく、いかにサービス提供者からアクセスするアウトリーチ方式にしていくかというところが今後の課題です」

 

母親ひとりの子育て、人類の歴史上ではイレギュラー

そもそも孤立感が問題になる現代の子育ては、長い人類の歴史から見ると「非常にイレギュラーな状態だ」と加藤先生は指摘する。

 

「家庭のなかでお母さんがひとりで子育てするという考え方は、決して普遍的なヒトの子育ての姿ではないんです。本来ヒトの子育ては複数の子どもを複数の手と目で育てるものです」

 

母親ひとりの子育て、人類の歴史上ではイレギュラー

 

大きく変化したのは高度経済成長期だった。ホモサピエンスの10万年の歴史で考えるとつい最近のことだ。それまでの進化の歴史において、人びとは地縁や血縁など何らかのつながりがある集団のなかで、たくさんの手で複数の子どもを育てる形態が主流だった。そのほうがヒトにとって好都合だったからだ。ところが高度経済成長で急激に経済事情が変わり、核家族の母親がひとりで育てる形態が主流になり、子育ての孤立化が社会問題になっていった。

 

「心理学的に見ると、2〜3人の大人が3〜4人の子どもを育てるより、1人の大人が1人の子どもを育てるほうが不安や負担感は大きい。さらに働いている母親と専業主婦を比較調査した研究では、専業主婦のほうが圧倒的に母親としての自己効力感(※)が低いということが分かっています。いずれも『自分一人で子どものことを見なくてはいけない』というイレギュラーな状態だからこそ、しんどさが大きい。子育てを自分一人の問題にしないこと。まずはいろんな人に話を聞いてもらうことが大事です」

と加藤先生はアドバイスする。

(※)自己効力感:自分は目標を達成するために適切な行動をとり、遂行できる能力がある、と認知している状態。「自分ならできる」といった、自分の能力や可能性を信じる気持ちを指す。

 

 

子育てはみんなで担うもの。つい2〜3世代前までは、住み慣れた地域や大家族のもとで子育てをしてきた。誰かの手を借りることは当たり前。これを知っているだけで、サービスを利用しやすくなるかもしれない。
ベビーカレンダーではいつでも無料で助産師などの専門家に個別相談ができる「専門家相談」を開設。ママ同士で相談し合える場もある。ちょっと手を伸ばせば届く支援をじょうずに活用してみては。

 

 

 

<取材協力>

・NPO法人ホームスタート・ジャパン

・明治大学文学部心理社会学科教授/臨床心理士/公認心理師
 加藤尚子(かとうしょうこ)先生

加藤尚子(かとうしょうこ)先生

大学院修士課程まで教育学を学んだ後、臨床心理学を専攻。臨床心理士として教育相談所、知的障害児施設のセラピストなどを経たあと、大学に職を移し現職。臨床心理学、コミュニティ心理学を専門とし、教育学、社会福祉学の学位を持つ。専門は、児童虐待を受けた子どもやさまざまな被害体験によるトラウマを受けた人の治療、子どもに関わる保育士、教師、施設職員などへの助言(コンサルテーション)など、アタッチメント・トラウマや養育に関わる臨床心理学。

 

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    著者プロファイル

    ライター大楽眞衣子

    社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーランスに。専業主婦歴7年、PTA経験豊富。子育てや食育、女性の生き方に関する記事を雑誌やWEBで執筆中。大学で児童学を学ぶ。静岡県在住、昆虫好き、3兄弟の母。

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