今日はうどんにしようよ!と妻に言うと…
私たち夫婦は、7歳の長男と4歳の長女を含めた4人家族で暮らしています。休みの日はどうしても料理に手を抜きたくなり、夫婦の間で「夜ごはん、何にしようか?」と話し合いになるときが。そんなとき、簡単に作れてなおかつ子どもが好きな「うどん」を、私はよく提案します。
私自身もうどんは好きですし、妻も大好きなのでいいんじゃない? といった軽い気持ちからなのですが、私の提案が通ったことはほとんどありません。つまり、わが家の食卓に「うどん」が出てくることはほとんどないのです。うどん県の血を引いた妻が好きな麺はうどんなはず。本人自身もそう言っているのを何度も聞いてきました。
でも、妻は夜ごはんでもお昼ごはんでも、まったくうどんを食べようとしないのです。
妻がうどんの代わりに提案するものが…
しかし、例外としてショッピングモールなどに入っているうどんチェーン店などではうどんを食べる妻。ひょっとしたら、うどん県独特の文化で「うどんは外で食べるもの」という鉄の掟みたいなのがあるのかもしれない。だから家ではうどんを食べないんだな。
そう思った私は妻に聞いてみることにしました。すると、帰ってきた答えは意外なものでした。
「うどんは好きだけど、一番好きなのはへぎそばなんだよね」
ごはんを決める際、「うどんはどうか?」という私の提案をいつも却下する妻ですが、実は、逆に提案してくるのは決まって「そば」だったのです。
でも、どうして妻はうどんを食べないんだ?
幼いころからうどんに馴染みがあって、「うどんが好き」と言う妻。それなのに、家ではうどんよりそばを食べたがるのはなぜだろう……と気になってしまった私は、友人との会話のなかでふと話題に出してみました。すると、友人から「お義父さんのうどんを超えるものはないと思っているのでは?」という答えが返ってきました。
その答えに、「そうか! お義父さんが作るうどんの思い出が強すぎてそれ以外のうどんに満足できないのか、香川県にゆかりのあるうどんチェーン店だから食べていたのか」と納得してしまった私。
もう亡くなってしまったお義父さんとの思い出を心のなかに大切にしまっているんだな、お父さんのうどんが一番だけど、もう食べられないから「へぎそば」が今は一番好きなんだ、と思うと、なんだか妻を愛おしく感じました。
妻との会話でたどり着いた真相
そして、せっかくならお義父さんとの昔の思い出を聞こうと思った私は、ある日、「やっぱりお義父さんのうどんが一番おいしかったの?」と妻に聞いてみました。すると、
「お父さんが作るうどんって、固くてあまり好きじゃなかったんだよね」
と、驚きの答えが返ってきたのです! えー!? どういうこと!? と、わけがわからなくなった私が、「うどんが一番好きって言ってなかったっけ?」と聞くと、「うん、麺類ではうどんが一番好きだけど、そばはそばというジャンルだからね。いつも食べたいと思うのは、そばだよ」と、妻から謎の自論が返ってきました。
妻はお義父さんとの思い出を大切にしているから、お義父さんのうどんしか食べられないのだと思っていました。しかし、実際はそうではなく、単純に妻はそば(へぎそば)が好きだからうどんを食べないだけだったんです。すべては僕の勘違いでした。
夫婦といえども、食べ物ひとつにこんなにも思い違いがあるものです。パートナーの好きなものや嫌だと感じることなど、何年一緒に暮らしていても、実際に話してみないとわからないことだらけ。でも、わからないことだらけのほうが、意外と夫婦生活は楽しくなるのかなと思っています。今回の私のように、知らなかった一面を知って、さらにパートナーの愛すべきところが見つかることもあるからです。
著者/坂本 繁
イラスト/かたくりこ
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