民家の前で立ち往生
ある日の夕方、息子を自転車に乗せて習い事に向かっていました。息子が眠くなってきてしまったので急いでいたのですが、風の強い日だったため、運悪く私の目にゴミが入ってしまったのです。
私はハードコンタクトをつけているため、ゴミが入った目は激痛。自転車を停めて、動けなくなってしまいました。そして眠くて機嫌の悪かった息子は、自転車が止まったことでさらに機嫌を損ね、グズり始めてしまいました。
こちらを見ている男性は
咄嗟に自転車を停めたのは、築年数もかなり経っていそうな和風の戸建て民家の目の前。お邪魔かな……と思いましたが、目からは涙が溢れ出るものの、ゴミはなかなか取れません。息子のグズりは悪化し続けていました。
困ったなぁと思っていると、ふと誰かの視線がこちらに向いているのを感じました。家の住人と思われる年配の男性が玄関から出てきて、こちらを見ているのです。怒られる! と思ったそのとき、驚くことが起きました。
まさかの言葉に涙が……
民家から出てきた男性は私に「大丈夫?」と言ったのです。てっきり怒られると思ったので、予想外の展開に慌てながら「あ、大丈夫です」と答えた私。すると男性はさらに、こう言って家に入っていきました。「何かつらいことがあったらいつでも言いなさい」と。
見ず知らずの私なのに、こんなふうに言ってくれたことに驚きました。と同時に、日々のいろいろなことに疲れていたこと、ちょうど父を病気で亡くしたばかりだったので父に言われたように感じたこともあり、私はうれしくて、さらに泣いてしまったのです。そんな私の反応にびっくりしたのか、息子はグズるのをやめて静かになったのでした。
知らない人に声をかけることをちゅうちょしてしまう世の中ですが、やさしい言葉をもらうことは、たとえ見ず知らずの人からであっても心が温まるうれしいことなのだなと感じた出来事でした。まだまだ先の話ですが、自分がいつか子育てが終わったころ、もし日々の育児に悩めるお母さんたちに出会ったら、ちゅうちょせず温かい言葉をかけてあげられるようになりたいと思っています。
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著者:坂井香子
おだやかな娘とわんぱくな息子の母。自身の体験をもとに、妊娠・出産・子育てに関する体験談を中心に執筆している。