目に見える症状が出ない「隠れ下肢静脈瘤」に注意
――下肢静脈瘤はどのような病気なのでしょうか?
佟先生 その名の通り、足の静脈の病気です。命に関わる病気ではありませんが自然に治ることはないので、治療をしないと時間とともに症状が進行します。自覚しやすい症状としては、ふくらはぎや太ももの血管がコブのように膨らんだり、足の細かい血管が増えたりすることが挙げられます。
――なぜ、そのような症状が起きるのでしょうか?
佟先生 まずは血液の流れを理解するとわかりやすいと思いますので、ご説明しましょう。
血管には動脈と静脈の2種類があり、動脈には心臓から送り出された酸素たっぷりの血液を体のすみずみまで流す働きがあります。一方、静脈は体内で使われた血液を心臓に戻す役割を担っています。
心臓は足よりも上にある臓器ですから、私たちが立ったり座ったりしている間、足の静脈の血液は重力に逆らって心臓に戻らなければなりません。ところが、足の静脈の血液の流れが重力に負け、逆流してしまうことがあります。その結果、足の静脈に血液がたまってしまいます。これが下肢静脈瘤です。
――なぜ、血液の逆流が起こるのでしょうか?
佟先生 足の静脈には、血液が逆流しないように、「ハ」の字の形に似た逆流防止弁がたくさん存在しています。この逆流防止弁の働きによって、血液は重力に負けることなく心臓に戻ることができます。ところが、なんらかの原因で逆流防止弁がうまく作用しなくなると血液が逆流し、下肢静脈瘤を引き起こしてしまうんです。
睡眠中や朝方足をつると99%が「隠れ下肢静脈瘤」の可能性
――下肢静脈瘤になると、どんな症状が現れるのでしょうか。
佟先生 症状として一番わかりやすいのは、足の血管がボコボコと浮き出て見える状態です。ただし、下肢静脈瘤の症状には目に見えないもののほうが多いんです。見た目には現われていない状態を「隠れ下肢静脈瘤」といいます。
――「隠れ下肢静脈瘤」というのは、あまり耳なじみのない言葉です。
佟先生 これまでは下肢静脈瘤イコール足の血管が浮き出て見た目が悪くなる病気、という認識でした。しかし、血管がボコボコと浮き出ている症状が出るのはステージ3程度まで進んだ状態です。目に見える症状が出るまでの間にも、下肢静脈瘤は少しずつ進行しているんです。
近年のデータによれば、下肢静脈瘤の患者さんのうち、血管がボコボコと浮き出るなど目に見える症状が出るのは約2割と報告されています。つまり、8割の方は隠れ下肢静脈瘤だということです。
――隠れ下肢静脈瘤には、どのような症状があるのでしょうか?
佟先生 私のこれまでの診療経験からいうと、一番はむくみ、二番目は足の疲れ、三番目は睡眠中のこむら返りです。中でもこむら返りは隠れ下肢静脈瘤のシグナルともいえる症状で、睡眠中に足がつって起きたり、朝方起きると足がつるような場合は99%、隠れ下肢静脈瘤だといえます。隠れ下肢静脈瘤が進行すると、血管が浮き出る、皮膚の色が茶色く変わる、足にかゆみが出るといった症状が生じてきます。
下肢静脈瘤のセルフチェック
――自分が下肢静脈瘤かどうかをセルフチェックできる方法を教えてください。
佟先生 私のクリニックで使っているチェック内容をご紹介します。下記のうち当てはまるものをチェックしてみてください。
□長時間の立ち仕事か、デスクワークをしている
□夕方になると足がむくんだり、痛くなったりする
□足の血管がボコボコ浮き出ている
□足にくもの巣のような細かい血管がある
□寝ているときによく足がつる
□くるぶし周辺に湿疹やかゆみ、ビリビリ感がある
□ふくらはぎに重だるさ、熱感、痛みなどがある
□足に黒っぽく(茶色っぽく)色がついている
□近親者に下肢静脈瘤になった人がいる
□出産経験がある
□足の傷の治りが遅い
□足の皮膚が硬くなってきた
□運動習慣がなく、体形も筋肉質ではない
□靴下の跡が残る
上記の項目にチェックの数が多いほど発症の可能性、もしくはすでに症状が出ている可能性があります。
下肢静脈瘤の原因は遺伝、立ち仕事、出産、加齢
――下肢静脈瘤はどのような原因で引き起こされるのでしょうか。
佟先生 一番大きな原因は遺伝です。片方の親御さんが下肢静脈瘤の場合は50%、両親ともに下肢静脈瘤の場合は90%の確率で下肢静脈瘤を発症するというデータがあります。同じ生活環境や労働環境でも、下肢静脈瘤を発症する人としない人がいるのは遺伝的な理由が大きいんです。
立ち仕事も下肢静脈瘤の原因の一つです。立っている状態では血液が重力に逆らって下から上へ流れようとします。つまり、逆流防止弁に常に負担がかかっていることになり、働きが悪くなったり壊れてしまったりする可能性があります。
また、出産も原因の一つに挙げられます。妊娠時には女性ホルモンの影響で逆流防止弁が柔らかくなります。さらにおなかが大きくなると足の付け根の静脈が圧迫されて血流が悪くなるため、逆流防止弁に負担がかかりやすくなります。近年の研究によって、出産経験のある女性の2人に1人は下肢静脈瘤を発症すると報告されています。
加齢も原因の一つとされています。年齢を重ねるにつれて、体内の軟部組織(肌や筋肉などの柔らかい部分)の強度が弱くなってくるからです。静脈内の逆流防止弁も軟部組織の一つですから、年齢とともに血液の逆流を防ぐ力が弱まると考えられます。
医学界では40歳以上の約半数が下肢静脈瘤になるといわれており、男女比はほぼ1:2で女性が多い傾向があります。
実際、私がこれまで治療をしてきた約1万人の下肢静脈瘤の患者さんのうち、40代~50代の女性が半数以上を占めます。上記のセルフチェックで当てはまる項目が多い人は、血管外科や下肢静脈瘤クリニックの受診をおすすめします。
※解説内容はすべて、大阪静脈クリニック・佟暁寧先生の見解によるものです。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
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取材・文/熊谷あづさ
ライター。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。著書に『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)。