こんにちは!助産師のREIKOです。TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』第5話のラストには、ペルソナ総合医療センターに心停止の状態の妊婦さんが搬送されてきたシーンがありました。ほかの産院から搬送されてきたこの妊婦さんのことを松岡茉優さん演じる下屋先生は知っている様子。妊婦さん、そしておなかの中の赤ちゃんはどうなったのでしょうか?さっそく第6話を振り返っていきたいと思います
ヘルプ先の産院で出会った妊婦さん
下屋先生はヘルプ先のこはる産婦人科で、名前も年齢も一緒という一人の妊婦さんに出会います。福田麻由子さん演じる神谷カエは、こはる産婦人科に入院している切迫早産の妊婦さんでした。こはる産婦人科でたった一人の入院患者であるカエと下屋先生は意気投合し、患者さんと医師という関係を超えてなかよくなっていきます。
患者さんと医師という間柄とはいえ、やはり人同士ですから接する機会が多かったり、共通項があったりすると思い入れが強くなることもあると思います。どこまでがOKでこれ以上はNGといったボーダーラインを引くことはなかなか難しいですが、やはりそれも必要なことだとも思います。
そして、当直明けの朝、下屋先生は、こはる産婦人科の院長にカエの手の震えと少しの息苦しさが気になること、もしかしたら甲状腺になにかあるのではないかということを伝えます。すると院長に週明けに検査すると告げられ、下屋先生はこはる産婦人科をあとにするのでした。
心停止で搬送されてきたカエ
ある日、ペルソナ総合医療センターにこはる産婦人科から妊婦さんが搬送されてくるという連絡が入ります。そして搬送されてきたのはカエ。動揺する下屋先生に対し、綾野 剛さん演じるサクラは言います。「お母さんも赤ちゃんも助けるよ!」。緊急帝王切開がおこなわれ、おなかの中の赤ちゃんは一命をとりとめたものの、カエが目を覚ますことはありませんでした。
その後におこなわれた産科・新生児科・救命科の医師たちによるカンファレンスで、カエの死因は「甲状腺クリーゼ」であったことが報告されます。それに対し、古舘寛治さん演じる救命科の部長、仙道先生がどうして気付かなかったのかと指摘しますが、星野 源さん演じる四宮先生は正常範囲内だと判断したのではと答えています。
甲状腺の病気は妊娠が可能な年齢の女性に多く、妊娠前に発症しているケースも少なくありません。また、発症していなくても妊娠・出産が引き金となることもあります。その一方で、妊娠にともない、甲状腺機能は一時的に亢進しますし、カエの切迫早産の治療に使われていた子宮収縮抑制剤の副作用に頻脈や手の震えなどもあるため、甲状腺機能の異常との鑑別が難しいという側面もあります。
「ぶっちゃけ見逃しじゃないの?」
救命科部長、仙道が甲状腺の異常を見逃したのではないか、スクリーニングをすれば防げるのではないかと指摘しました。
妊娠中に甲状腺機能亢進症を合併する頻度は0.2~0.3%といわれています。そして甲状腺機能亢進症を持つすべての人の1~2%に甲状腺クリーゼがみられるといわれています。しかも、甲状腺クリーゼは、甲状腺機能亢進症の治療がおこなわれていなかったり、治療が不十分なケースに多く見られるとのことです。
妊娠中に起こり得る状況を想定してさまざまな検査をおこなえば、いろいろなリスクを避けることは可能ですが、それでは時間も費用もかかります。妊娠が確定し、最初の妊婦健診で血液検査をおこなうことが多いですが、産院によって検査項目が少しずつ異なっていることもあります。
妊娠・出産は病気ではないとよく言われますが、妊娠にともないママのからだにはさまざまな変化が生じます。それが生理的なものなのか、病的なものなのか、医師をはじめ妊婦さんにかかわるスタッフはしっかり見極めていかないといけないとあらためて思いました。
このあと、神谷カエの死をきっかけに下屋先生に転機が訪れます。このつづきは、後半でお話ししたいと思います。
著者:助産師 REIKO
医療短期大学専攻科卒業後、大学附属病院NICU・産婦人科病棟勤務、私立大学看護学部母性看護学助教を経て、現在ベビーカレンダーで医療系の記事執筆・監修に携わる。