出産が終わり、ホッとしたママさんにとって、次に気になるのは骨盤の歪みによる体の不調ではないでしょうか。骨盤の歪みを治すには骨盤矯正が良いといわれますが、「名前は聞いたことがあるけど、詳しい方法はわからない」という方は多いようです。また、骨盤矯正をおこなう期間や効果についても気になるでしょう。今回はそんな骨盤矯正の疑問についてお答えしましょう。
骨盤が歪むとは?
「出産後は骨盤が歪む」といわれますが、そもそも「骨盤が歪む」とはどういう状態をいうのでしょうか。
1)一般的な骨盤の歪みについて
骨盤は体を支える土台となり、上半身と下半身をつないだり、子宮や卵巣などの臓器を保護したりと重要な役割を果たしています。ところが、骨盤はひとつの骨ではなく、背骨の下方にあたる仙骨や尾骨などの複数の骨でできているので、姿勢のクセや仕事、生活習慣などによって歪みやすいのです。骨盤の歪みは、一般的には左右に開く、捻じれる、左右で高さが違う、また、前後(腹側、背中側)に傾くなどの症状として現れます。ただし、歪みの程度は人それぞれです。
2)出産後の骨盤の歪みについて
出産後の女性では、出産によって骨盤内をつないでいる靱帯(じんたい)が緩んで骨盤が開いている方が多くみられます。靱帯は骨と骨をつなぎ、関節を滑らかに動かしたり、関節の動く範囲を制限したりしている筋のようなもので、靱帯が緩むのは妊娠中に分泌される「リラキシン」と呼ばれるホルモンの作用です。
実は、妊娠中からリラキシンの作用で骨盤周辺の靱帯を緩め、分娩の際に赤ちゃんが通る産道が少しでも広くなるように準備を始めています。靱帯が緩むことによって骨盤の前側にある恥骨結合が広がり、後ろ側の仙腸(せんちょう)関節という関節も動きやすくなるので産道が少し広くなります。
このような骨盤の可動性は、赤ちゃんが産道を通過するためには欠かせないものです。一方で、妊娠中、赤ちゃんが大きくなるにつれて骨盤の上部が開き始めると腰の痛みが現れたり、出産後には骨盤の歪みによるさまざまな不調が現れたりします。
骨盤矯正が必要な理由
産後は、出産によって開いた骨盤を閉じる(締める)ための骨盤矯正が必要といわれています。もし、骨盤矯正をおこなわないと、どのような不調が現れるのでしょうか。
1)体型がもとに戻らず、なかなか痩せない
骨盤が開いたままになると本来、骨盤内に収まるべき位置に臓器が収まらず、下の方に下がってしまいます。すると、おなかがポッコリと出てしまう 、ダイエットをして体重は落ちたのに体型は戻らないといったことが起こりがちです。
2)二人目不妊に陥りやすい
妊娠に関係する子宮や卵巣は、骨盤内に収まるべき臓器のひとつです。そのため、骨盤が開いた状態で子宮や卵巣が正しい位置に収まっていないと臓器に負担がかかり、機能が低下することがあります。その結果、二人目不妊(続発性不妊)につながる可能性も指摘されています。
3)産後の尿もれの原因となる
産後に尿もれに悩む人は少なくありません。骨盤が開き、子宮が下がっていると、膀胱が子宮に圧迫されて尿がもれてしまうことがあります。特に、出産後は骨盤底筋と呼ばれる骨盤の底にある筋肉が出産による疲労で筋力が低下しがちです。すると、尿道を締める括約筋(かつやくきん)という筋肉もうまく働かなくなり、尿もれの原因にもなることがあります。
ほかに、恥骨や尾骨の痛み、冷え性、便秘なども骨盤の開きによって現れやすい症状です。ここで紹介したような問題や症状を予防したり、改善したりするためには、骨盤矯正によって骨盤を締めることが重要といえます。また、気になる症状があると生活を楽しめなかったり、気分が沈んだり、精神的な面にも影響を与えるので骨盤のケアをしっかりとおこないましょう。
骨盤矯正による効果
骨盤矯正をおこなうと、骨盤の歪みによって起こりやすい尿漏れなどの症状改善につながり、さらに、以下のような美容上の効果も期待できます。
1)美しい姿勢を保てる
骨盤が歪むと、骨盤につながっている背骨や股関節などにも影響が及び、姿勢が悪くなりがちです。骨盤矯正をすると猫背などの姿勢が改善して、同時に姿勢をよくする意識づけなどもできるので美しい姿勢を保つのに役立ちます。
2)新陳代謝改善、脂肪燃焼の促進
骨盤矯正により猫背などの姿勢が改善されると、血液やリンパ液の流れがよくなることも多いです。すると、新陳代謝がアップして、脂肪燃焼の促進などが期待できます。
3)肌荒れの改善
骨盤矯正をして骨盤内の臓器が正しい位置に収まると臓器に対する圧迫が軽減し、臓器の働きがよくなります。そのため、直腸の働きがよくなって便秘が解消されたり、卵巣の機能が改善したりすることにより、「肌荒れが改善した」という方もいます。
骨盤矯正の方法は?骨盤矯正するならいつ?
骨盤矯正はいつごろ、どのような方法でおこなったら良いのでしょうか? 骨盤矯正をおこなうタイミングと骨盤矯正に役立つグッズもあわせてご紹介します。
1)骨盤矯正の実施期間
骨盤矯正に適した期間はやや幅がありますが、一般的には「産後1カ月から1年ぐらいまで」です。特に、適しているのは「産後1カ月から6カ月まで」といわれています。産後6カ月ごろまでは、リラキシンによる影響で靱帯が緩んでいるので骨盤の矯正がおこないやすいというのが理由です。
2)骨盤矯正の方法
通常の骨盤矯正と、出産による骨盤の開きを治す骨盤矯正とは目的が違うため、アプローチも異なるといわれています。そのため、骨盤矯正は「産後の骨盤矯正」をおこなっている整骨院や整体などに通い、専門家の施術を受けると良いでしょう。
骨盤矯正の方法は、骨盤の歪み方や歪みの程度などによっても変わります。一般的には、骨盤の歪みや筋肉の状態をチェックしたあと、うつ伏せや横向きなどの状態で骨盤にゆっくり力を加えて矯正し、骨盤を支える筋肉をマッサージでほぐすなどの必要なケアもおこないます。
また、骨盤底筋を鍛える体操の指導をしてくれたり、エクササイズのプログラムを開講していたり、さまざまなところがあるので自分に合ったところを探しましょう。ただし、出産後のママの体はとてもデリケートです。産後の1カ月健診で問題がないことを確認したうえで、無理をせずにおこなってください。
もし、ご自宅で自分でおこなう場合は、産後の歪みを改善する骨盤体操が良いでしょう。たとえば、次のような運動があります。
●膝を倒す運動
・仰向けに寝て両膝を立て、膝そろえたままゆっくり右に倒す
・10秒キープしてからゆっくり起こして、左に倒す(目安は左右3セット)
●おしりを上げる運動
・仰向けで両膝を立てた状態から、ゆっくりおしりを持ち上げる
・5秒キープしたら、ゆっくり戻す(目安は5セット)
※参考:佐々木整骨院「骨盤のゆがみ解消体操」〈 http://www.sasakiseikotsuin.com/taisou.html 〉
3)骨盤矯正に役立つグッズ
骨盤が安定するまでは、矯正してもまた開いてしまうことがあります。また、習慣化した姿勢のクセや開いた骨盤のまま使用してきた筋肉は、矯正前の状態に戻そうとして働くそうです。そのため、良い姿勢を心がけるとともに、骨盤矯正に役立つグッズなどを利用して、できるだけ良い状態をキープしましょう。
(1)骨盤ベルト
骨盤を矯正したあと、骨盤ベルトで固定すると矯正後の状態を保つのに役立ちます。骨盤ベルトは正しい位置に、適切な強さで締めることがポイントです。使い方がわからないときはお店の人や病院の助産師に相談すると良いでしょう。なお、骨盤ベルトの中には妊娠期から産後まで長く使えるタイプもあります。
※参考:ワコール「長く使える産前&産後骨盤ベルト」〈 http://www.wacoal.jp/maternity/recommend/mgy601/ 〉
(2)骨盤サポートショーツ、ガードル
骨盤ベルトに比べるとサポート力は弱くなりますが、骨盤全体を包み込んでくれるショーツやガードルもあります。ショーツやガードルは「ベルトだと締め具合がわからない」という方にもわかりやすいでしょう。ただし、体に合ったサイズを選ぶことが大切です。小さいサイズのものを無理して履くと皮膚に負担をかけたり、臓器の血流が悪くなったりするので注意してください。
(3)骨盤サポートクッション
出産後は、授乳や赤ちゃんの抱っこなど座っている時間が増えます。座っている間も骨盤に負担がかかるので、座っているときの姿勢も重要です。といっても、授乳などをしていると、良い姿勢を保つのは難しいですよね。そこで、役立つのが骨盤サポートクッションです。さまざまなタイプが販売されていますが、たとえばドーナツ形のクッションは360度の座面で骨盤を支え、中央のくぼみによって骨盤が締まるような作りになっています。骨盤サポートクッションを使うと良い姿勢を保つのに役立ち、骨盤への負担が軽くなるといわれています。
まとめ
産後の骨盤矯正は骨盤の開きによる不調の改善や予防、また、美容上の効果なども期待できます。特に、効果が期待できるのは産後1カ月から6カ月ごろまでです。産後の1カ月健診で問題がなければ骨盤矯正を行って歪みを解消しましょう。ただし、産後の体に負担をかけないように、正しい知識を持って適切な方法で実践することが大切です。
監修者:助産師・心理士 Miyumi
国立医療短大助産専攻科を卒業し、大学病院の周産母子部や助産専攻科の助手として働いた後、母性心理を学ぶために大学院で心理学を専攻。大学院修了後は、主に国立大学で精神看護の講師として教育に携わり、妊産褥婦の心理や家族支援などをテーマに研究をしていました。現在はこころとからだの健康相談室を開業し、社会保険労務士の資格も活かして育児と仕事の両立支援なども行っています。