【医師監修】出産後脱毛症の原因と対策
苦しい出産を終えてようやく愛するわが子を腕に抱き、喜びに満ちた新しい生活が始まります。そんな中、出産後にいままで経験したことがない抜け毛に悩まされる新米ママも多いのではないでしょうか。女性にとって大切な髪の毛が、このまま戻らなかったらどうしようと考えてしまっても不思議ではありません。そこで、この記事では出産後脱毛症の原因と対策について詳しく説明します。
- ・まとめ
産後のママを悩ませる「出産後脱毛症」とは
人間の髪の毛は、一般的に約10万本あるといわれており、健康的な状態ならば抜け落ちる髪の毛と生えてくる髪の毛のバランスが取れています。そのため、急激にまとまった量の髪の毛が抜けたりはしません。
しかし、出産後には急に抜け毛が増える、いわゆる「出産後脱毛症」に悩まされるケースが多くあります。出産後脱毛症は、分娩後脱毛症とも呼ばれ基本的には一時的な現象です。ただし、髪の毛の抜け方や回復力は人によって違います。また、円形脱毛症などを併発してしまうと余計に抜け毛がひどくなってしまうこともあるため、適切な対策を取るようにしましょう。
産後の抜け毛はなぜ起こる?
髪の毛には、もともと「成長期」「退行期」「休止期」という3つのヘアサイクルのステージがあります。成長期は、髪の毛の根元にある毛母細胞での細胞分裂が活発で、髪の毛がどんどん作られる状態です。しかし、永遠に髪の毛が作られ続けるわけではなく、いったん髪の毛を作り出す作業を休む休止期があります。成長期から休止期に至るまでの間は退行期と呼ばれ、細胞分裂の勢いが衰えて髪の毛が成長しなくなる時期です。
通常は成長期が2~6年続き、その後2週間程度の退行期を経て休止期に至り、3~4カ月休止した後はまた成長期に入ります。それぞれの毛穴が健康にヘアサイクルを繰り返していれば、髪の毛の量は一定量を保っていることが可能です。しかし、妊娠・出産の際に変化するホルモンの影響でヘアサイクルは乱れます。
女性は、妊娠していない状態のとき、月経周期に応じて「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という2つのホルモンが周期的に増減します。妊娠するとどちらのホルモンも分泌量が増えるため、髪が伸びやすく、しかも抜けにくくなるのです。一方で、出産が終わるとこれらのホルモンが急激に減少し、特に髪の毛に重要なエストロゲンが減少することにより、今度は多くの髪が一気に退行期や休止期に移ることで抜け毛が増えます。妊娠期間中に本来抜けるべきであった髪が、一度に抜けてしまうのです。
また、出産後は生活環境が変わり、育児も大変です。睡眠不足に悩まされることも多く、自律神経も乱れやすくなります。慣れない育児でストレスを抱えてしまうこともあるでしょう。ストレスや疲労が蓄積すると血液の循環が悪くなり、間接的に髪の毛の発育を妨げることになります。直接抜け毛に作用するような原因ではなくても、生活面での心身の乱れが髪の成長に影響を及ぼすなど、産後の抜け毛は複合的な原因が考えられます。
産後の抜け毛はいつまで続く?
あまりに抜け毛が多いと、いつまで続くのか心配になることもあるでしょう。実際には、産後の抜け毛は出産後2~3カ月がピークだと言われています。髪の毛は、それぞれ成長期を終えると退行期から休止期に進み、しばらく休眠するのが本来のサイクルです。通常は、すべての髪の毛が同じタイミングで休止期に入ることはありません。しかし、妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンの分泌量が増えるために、多くの髪の毛で成長期が長く続きます。その結果、出産が終わってホルモンバランスが変わったタイミングで、一気に休止期に入って抜けてしまう髪の毛が多いのです。
休止期は3~4カ月が一般的な期間ですから、休止期を終えた毛穴からは再び髪の毛が生えてきます。そのため、出産後2~3カ月は抜ける毛のほうが多い状況でも、3カ月くらい経てば、徐々に生え始める毛も増えてくるはずです。ホルモンバランスの回復や髪の生え替わりのタイミング、生活状況などは個人でかなり違いもあります。それでも、通常は半年から1年ほどでホルモンバランスが元の状態に回復し、抜け毛の量も自然と元に戻ることが多いのです。
どのような対策をしたら良い?
抜け毛がひどいと、どうしても心配になるでしょう。ただ、精神的な負担がかかることで髪の毛には悪い影響を与えることもあります。そうならないように、まずはある程度の時間がたてば元に戻ると考え、思いつめすぎないようにしましょう。ひとりで育児をしていると、考えが煮詰まってしまうこともあり得ます。じょうずに周囲の協力を得て、わずかでもリラックスできる時間を持つようにするなど、ストレスをためないようにすることも大切です。
健康的な髪の毛を生えさせるためには、十分な栄養と睡眠をとることも大切になります。栄養バランスの良い食事を心がけ、特に髪にとっての3大栄養素といわれるたんぱく質とビタミン、亜鉛をしっかりとるようにしましょう。数時間おきの授乳や夜泣きなどで睡眠をとりにくい状況も多いかもしれませんが、家族の協力を得て睡眠時間を確保することも大切です。
また、頭皮そのものに注意を払うことも対策になります。日常的に使うシャンプーやトリートメントも頭皮に負担をかけるものは避け、アミノ酸系界面活性剤のように、頭皮や髪にやさしい成分を使っているものを選ぶのも方法の一つです。血流を良くするために頭皮マッサージをするのもいいでしょう。髪の毛や頭皮に負担をかけるパーマやヘアカラーはしばらく控えたほうが安心です。
抜け毛がひどい場合、どこに相談すべき?
さまざまな対策を施しても抜け毛がひどい場合、まずはかかりつけの産婦人科医に相談してみましょう。特に、ほかの原因がなく抜け毛の量が妊娠・出産にともなって起こる抜け毛として通常の範囲内ならば、特別な対策は必要ないこともあります。
しかし、原因がほかにあれば、原因に対処するために内科や皮膚科、精神科などを受診する必要が出てくる場合もあります。また、女性の薄毛や抜け毛を専門にしているクリニックもあるので、相談してみるのも一つの方法です。
まとめ
出産後は、かわいい赤ちゃんに恵まれ、育児に忙しいながらも幸せな時間を過ごせるでしょう。しかし、びっくりするような抜け毛が続くと幸せな気持ちにも水を差され、不安になることもあるはずです。異常がなければ産後の抜け毛は2~3カ月で治まりはじめ、半年から長くても1年経つと元に戻ります。自分でできる抜け毛対策はおこない、手に負えないことがあれば専門家に相談するようにしましょう。