【医師監修】妊婦さんは咳止めを飲んでも大丈夫?
妊娠中は、なるべく薬を飲まずに乗り切りたいと考える方が多いものです。特に「咳」が続くと、おなかへの影響が心配になったり、薬を飲んでいいのか迷ってしまったりすることも……。この記事では、主に軽度の感染症によって起こる咳について、妊娠中の対応や注意点、薬の使用について医師監修のもと詳しく解説します。
妊婦さんの咳の原因とは?
咳の原因としては主に以下が考えられます。
◾️感染症(上気道炎・急性気管支炎・インフルエンザなど)
感染の範囲や病原体によって症状や重症度が異なります。感染は、まず上気道炎(いわゆる風邪)として、鼻や喉などの上気道に炎症を起こします。炎症が気管支まで広がると急性気管支炎となり、さらに重症化すると肺炎に至ることもあります。
主な原因となる病原体には以下のようなものがあります。
ウイルス:インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルスなど
細菌:肺炎球菌、マイコプラズマなど
◾️気管支喘息・咳喘息
妊娠中に悪化することがあるため、注意が必要です。
◾️胃酸の逆流(逆流性食道炎)
ホルモンの影響で胃酸が逆流しやすくなり、咳が出ることがあります。
◾️副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎・花粉症
鼻汁が喉に流れる「後鼻漏(こうびろう)」で咳が出ることがあります。
妊娠中は免疫機能が一時的に低下するため、細菌やウイルスへの抵抗力が落ちてしまいます。季節の変わり目や風邪の流行期、職場や同居する家族などから妊婦さんへ感染しやすくなり、その1つとして咳症状が起こることがあるのです。
妊娠中に咳が出る場合はどうしたらいい?
妊娠中に咳が続くことで、肋骨の痛みや全身筋肉痛がでたり、腹圧がかかることで尿漏れやおなかの張りを引き起こしたりすることがあります。
咳が出始めて2~3日間経過しても症状が治らないとき、咳の症状が日常生活や睡眠を妨げるときは、次の妊婦健診を待たずに、早めにかかりつけの産婦人科へ相談・受診しましょう。
周囲でインフルエンザなど感染症が流行っている場合は、他の妊婦さんへの感染を防ぐために、受診前に産婦人科へ電話してから受診することが望ましいでしょう。やむを得ず、他の医療機関を受診するときには、必ず妊娠中であることを伝えてから診察を受けてください。
咳の症状が重篤になると、低酸素から胎児に影響が出る可能性があります。呼吸困難を起こすようなら早急な治療が必要です。
また、もともと喘息がある人は、妊娠中も継続した受診を受ける必要があります
なお、診断や治療方法を決めるために、必要に応じて胸部のエックス線検査(レントゲン検査)がおこなわれることもありますが、母親の胸部に限定して撮影するため、おなかの中の赤ちゃんへの影響はほとんどありません。
妊娠中は咳止めの薬を飲んでもいい?
医療機関で診察を受けて、妊娠中に使用可能な咳止め薬を処方してもらったのであれば、内服が可能です。妊娠経過を把握している産婦人科へ受診して、咳の症状に合わせた薬を処方してもらいましょう。
妊娠中に使用する薬が妊娠経過やおなかの中の赤ちゃんに影響するかどうかは、使用する妊娠週数によって異なります。妊娠中に使用した薬が、妊婦さんと赤ちゃんに対してどの程度影響するのか、障害を与えるのかについては、薬の成分の大きさ(分子量)や血液への混ざりやすさ、体内の移動方法、化学的あるいは物理的な特徴、胎盤を通過して赤ちゃんまで届くのかなど多くの細かい条件が関係しています。
妊娠経過は個々によって異なるため、自己判断で対処すると、母体やおなかの中の赤ちゃんの成長発達に影響を与えてしまう可能性があります。薬局やドラッグストアなどで市販されている咳止め薬を自己判断で使用するのはやめましょう。
一般的に咳止めのために処方される薬は、鎮咳薬と言います。鎮咳薬には、咳の起きる反射そのものを抑える中枢性鎮咳薬と、痰を抑えたり、のどの炎症を鎮めたりと、咳の起こるきっかけを和らげるための末梢性鎮咳薬があります。咳の症状に合わせて処方されますので、薬の効果や副作用について心配なことがあれば医師と相談しながら使用しましょう。
※肺炎など重度の感染症や、喘息や胃酸逆流などは専門的な治療が必要です。
妊娠中に使用可能な薬は下記のとおりです。
【妊娠中に使用可能な薬】
鎮咳薬:デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、ジメモルファンリン酸塩
去痰薬:ブロムヘキシン塩酸塩、アンブロキソール塩酸塩
漢方薬:麦門冬湯(長期連用は不可)
【妊娠中に避けるべき薬】
・コデイン系薬剤(フスコデなど):催奇形性や出産後の退薬徴候(薬の服用を中止した際に現れる身体的・精神的な反応)が現れることがあります。
・麻黄が含有されている漢方薬(葛根湯、麻黄湯、小青竜湯など):子宮収縮から流産や早産のリスクがあります。
※薬の名前は一般名と言われるものですので、処方された薬の製品名と異なる場合があります
また、日頃から風邪や咳予防のために、うがい薬を使用する妊婦さんがいますが、実際は水で十分です。うがい薬には、ポピドンヨードというヨウ素を含む製品があり、普段の食事で摂取できる量よりも多いヨウ素を母体が吸収するきっかけとなってしまう恐れがあります。ヨウ素の大量摂取は、胎児の甲状腺機能の低下を招くことがあるため、うがい薬の使用は避けましょう。
薬に頼らない咳止めの方法はある?
咳の症状に悩まされている状況で、薬に頼らない方法を模索する妊婦さんは多いかもしれません。しかし、咳が出ている原因を特定しない限り、咳そのものを止めるのに時間がかかることがあります。
咳を止める方法とは言えませんが、気道の粘膜を刺激する物質やにおいを避ける、室内の温度や湿度を調整する、飴をなめる、こまめな水分補給などにより、咳の症状を和らげることができます。
また、咳を抑えるために、意識的に咳をこらえることはやめましょう。体外に出せなかった痰などの分泌物が気道内に溜まることで、呼吸しづらくなったり、呼吸するためのエネルギーが必要になったりするため、更なる体力の消耗を招きます。
妊娠中に起こる病気は、妊婦さんのみならずおなかの中の赤ちゃんにも影響することがあります。薬の使用を避けるために受診を拒んだり、何も対処せず時間の経過と共に自然に治ることを期待したり、医療機関を受診しないでも症状が治るかのように説明する民間療法だけに頼ることは避けましょう。
まとめ
妊娠中は抵抗力が弱るため、風邪などを引きやすい状況にあります。妊娠中に使用できる薬はあります。咳の症状が2~3日間様子をみても治まらない場合は、次の妊婦健診を待たずに、早めにかかりつけの産婦人科へ相談しましょう。何事も、早めの対応が必要です。