【医師監修】妊婦さんは咳止めを飲んでも大丈夫?

この記事の監修者
監修者プロファイル

医師天神尚子 先生
産婦人科 | 三鷹レディースクリニック院長

日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。

妊婦さん咳止めのイメージ

 

妊婦さんの多くは、妊娠中になるべく薬を飲まないほうがいい、薬に頼りたくないと考えていることでしょう。今回は、妊娠中に使用する咳止めの薬についてお話しします。

 

 

妊婦さんの咳の原因

妊娠すると、免疫機能が低下し、細菌やウイルスへの抵抗力が落ちてしまいます。季節の変わり目や風邪の流行期、職場や同居する家族などから妊婦さんへ感染しやすくなり、その1つとして咳症状が起こることがあります。

 

妊娠中に咳が出る原因として、下記が挙げられます。

 

■乾性咳嗽(かんせいがいそう):痰がからまない乾いた咳(空咳)
・上気道炎(いわゆる風邪):気道の充血やむくみがきっかけとなり咳が出る。
・温度の刺激(温度差)によるもの
・においの刺激によるもの
・胃酸の逆流によるもの
・緊張によるもの:緊張などの精神的興奮が意識的に咳を起こす。

 

■湿性咳嗽(しっせいがいそう)痰がからんだ湿った咳
・急性気管支炎(いわゆる風邪が悪化した状態)
・インフルエンザ

 

その他、気管支喘息、咳喘息、鼻炎や副鼻腔炎、花粉症などによって、咳の症状が長引くケースがあります。

 

 

妊娠中に咳が出る場合はどうしたらいい?

妊娠中に咳が続くことで、肋骨の痛みや全身筋肉痛が出現したり、腹圧がかかることで尿漏れやおなかの張りを引き起こしたりすることがあります。


咳が出始めて2~3日間経過しても症状が治らないとき、咳の症状が日常生活や睡眠を妨げるときは、次の妊婦健診を待たずに、早めにかかりつけの産婦人科へ相談・受診しましょう。


もともと喘息があり、症状が出た場合は、早めにかかりつけの医療機関へ受診する必要があります。周囲でインフルエンザなど感染症が流行っている場合は、他の妊婦さんへの感染を防ぐために、受診前に産婦人科へ電話してから受診するようにしましょう。やむを得ず、他の医療機関を受診するときには、必ず妊娠中であることを伝えてから診察を受けましょう。


診断や治療方法を決めるために、必要に応じて胸部のエックス線検査(レントゲン検査)がおこなわれることもありますが、母親の胸部に限定して撮影するため、おなかの中の赤ちゃんへの影響はほとんどありません。

 

 

妊娠中は咳止めの薬を飲んでもいい?

医療機関で診察を受けて、妊娠中に使用可能な咳止め薬を処方してもらったのであれば、内服していいです。妊娠経過を把握している産婦人科へ受診して、咳の症状に合わせた薬を処方してもらいましょう。

 

妊娠中に使用する薬が妊娠経過やおなかの中の赤ちゃんに影響するかどうかは、使用する妊娠週数によって異なります。妊娠中に使用した薬が、妊婦さんと赤ちゃんに対してどの程度影響するのか、障害を与えるのかについては、薬の成分の大きさ(分子量)や血液への混ざりやすさ、体内の移動方法、化学的あるいは物理的な特徴、胎盤を通過して赤ちゃんまで届くのかなど多くの細かい条件が関係しています。


妊娠経過は個々によって異なるため、自己判断で対処すると、母体やおなかの中の赤ちゃんの成長発達に影響を与えてしまう可能性があります。薬局やドラッグストアなどで市販されている咳止め薬を自己判断で使用するのはやめましょう。

 

一般的に咳止めのために処方される薬は、鎮咳薬(ちんがいざい)といいます。鎮咳薬には、咳の起きる反射そのものを抑える中枢性鎮咳薬と、痰を抑えたり、のどの炎症を鎮めたりと、咳の起こるきっかけを和らげるための末梢性鎮咳薬があります。咳の症状に合わせて処方されますので、薬の効果や副作用について心配なことがあれば医師と相談しながら使用しましょう。妊娠中に使用可能な薬は下記のとおりです。
※下記の薬の名前は一般名と言われるものですので、処方された薬の製品名と異なる場合があります。

 

【妊娠中に使用可能な薬】
鎮咳薬:デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、ジメモルファンリン酸塩
去痰薬:ブロムヘキシン塩酸塩、アンブロキソール塩酸塩
漢方薬:麦門冬湯、小青竜湯(麻黄含有
※長期不可

 

 

また、日頃から風邪対策のために、あるいは咳予防のために、うがい薬を使用する妊婦さんがいますが、実際は水で十分です。うがい薬には、ポピドンヨードというヨウ素を含むものがあり、普段の食事で摂取できる量よりも多いヨウ素を母体が吸収するきっかけとなってしまいます。ヨウ素の大量摂取は、胎児の甲状腺機能の低下を招くことがあるため、うがい薬の使用は避けましょう。

 

 

薬に頼らない咳止めの方法はある? 

咳の症状に悩まされている状況で、薬に頼らない方法を模索する妊婦さんは多いかもしれません。しかし、咳が出ている原因を特定しない限り、咳そのものを止めるのに時間がかかることがあります。


咳を止める方法とは言えませんが、気道の粘膜を刺激する物質やにおいを避ける、室内の温度や湿度を調整する、飴をなめたり、こまめに水分補給したりすることで、咳の症状を和らげることができます。

 

また、咳を抑えるために、意識的に咳をこらえることはやめましょう。体外に出せなかった痰などの分泌物が気道内に溜まることで、呼吸しづらくなったり、呼吸するためのエネルギーが必要になったりするため、更なる体力の消耗を招きます。


妊娠中に起こる病気は、妊婦さんのみならずおなかの中の赤ちゃんにも影響することがあります。薬の使用を避けるために受診を拒んだり、何も対処せず時間の経過と共に自然に治ることを期待したり、医療機関を受診しないでも症状が治るかのように説明する民間療法だけに頼ることは避けましょう。

 

 

まとめ

妊娠中は抵抗力が弱るため、風邪などを引きやすい状況にあります。妊娠中に使用できる薬はあります。咳の症状が2~3日間様子をみても治まらない場合は、次の妊婦健診を待たずに、早めにかかりつけの産婦人科へ相談しましょう。何事も、早めの対応が必要です。

 

参考:

・産婦人科診療ガイドライン産科編2017

・日本呼吸器学会 咳嗽に関するガイドライン第2版

 

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