【医師監修】妊婦さんに「馬刺し」はNGとその理由は?

この記事の監修者
監修者プロファイル

医師太田 篤之 先生
産婦人科 | おおたレディースクリニック院長

順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。

馬刺し

 

妊娠中に控えたほうがよい食べ物の1つに生ものが挙げられますが、馬刺しも例外ではありません。そこで、妊婦さんが馬刺しを食べてはいけない理由について解説します。

 

 

妊婦さんは厳禁? なぜ妊婦さんは馬刺しを食べてはいけないのか

妊娠中は、特にさまざまな食べ物からバランス良く栄養を摂取することが大切です。ただし、おなかの赤ちゃんに悪い影響を与える食べ物の摂取については控えなければいけません。そして、馬刺しも食べてはいけない食品の1つです。馬刺しが妊婦さんにとって食べてはいけない食べ物である理由は、馬刺しにトキソプラズマやリステリア菌といった有害な微生物が含まれている可能性があるからです。

 

トキソプラズマとは、人や動物などに寄生する原虫で、ニワトリ、ブタやヤギといった家畜などのほか、ペットとして飼われている動物などにも見られます。200種類以上の哺乳類や鳥類などに感染し、特にネコへの寄生が多い傾向です。日本国内では、およそ1~2割以上の人が感染していますが、ほとんどの場合、感染に気付かないことが通常です。

 

一方、リステリア菌は、正式には「リステリア・モノサイトゲネス」といい、動物の小腸や大腸などの消化管や河川水などに分布している細菌です。食べ物から感染した症例は年間で100万人あたり0.1~10人ほどとなっていて、把握されている範囲ではそれほど多い数ではありません。

 

ただし、妊娠中にトキソプラズマやリステリア菌の感染で、トキソプラズマ症やリステリア症を発症すると、胎盤やおなかの赤ちゃんにも感染して母子の健康に重篤な影響を与えることもあります。このため、赤ちゃんの感染リスクを回避するためにも、妊婦さんは馬刺しを食べてはいけないとされているのです。
 

 

馬刺しを食べてしまった場合のお母さんや赤ちゃんへの影響とは

細菌や寄生虫による感染症のリスクを持つ馬刺しですが、健康な成人であればほとんどの場合、感染症を発症することはありません。感染初期に弱い発熱や倦怠感を覚えるなど軽度の風邪のような症状が見られることはあります。しかし、特に危険を感じるような症状は現れず、本人が気付かないままに日が過ぎてしまうことが一般的です。トキソプラズマ症であれば発症しても数週間ほどで回復します。多くの場合、成人は感染経験があり、細菌などに負けない抗体を持っているからです。

 

しかし、妊娠中は免疫機能が低下しているため感染のリスクは高まります。特に、妊娠中の女性にとって初めての感染である場合には、胎児への感染リスクが高まるため注意が必要です。トキソプラズマやリステリア菌は体内に入った量が少ない場合であっても胎児に重篤な症状が出ることは少なくありません。

 

具体的な症状としては、たとえばお母さんが感染すると38~39度ほどの熱が出たり、頭痛や嘔吐などの症状が現れたりすることがあります。また、ひどい場合には、意識障害やけいれんが起こる可能性もあるので要注意です。さらに、流産してしまうこともあります。加えて、出産後、赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症や精神発達障害、視覚障害を発症してしまうリスクもあるのです。先天性トキソプラズマ症になると、水頭や小眼球、網脈絡膜炎、肝臓肥大といった症状が見られるようになります。生まれてすぐに症状が見られない場合でも、遅発型であれば成人までに網脈絡膜炎や精神神経・運動障害などを起こす可能性もあるのです。
 

 

リスクを抑えたい! 病院でできる感染症対策

妊婦さんの健康にさまざまなリスクがある馬刺しは食べないようにすすめられています。トキソプラズマ感染症においては妊娠中の初感染だと3割に胎児感染が発症するという報告もあります。そのようななかで慎重を期して、感染の可能性を把握し、感染リスクへの対策を取りたいなら、妊娠初期に抗体検査をしておくのも1つの方法です。

 

お母さんの血液の抗体を測定し、陰性の結果が出れば感染のリスクは高いことになるため、妊娠中、生ものの摂取に注意を払うことができます。また、すでに感染が疑わしいと判断された場合であれば、分娩まで抗菌薬を投与したり、超音波検査を通して胎児の発育状態などを注意深くチェックしたりすることも可能です。さらに、出生後にも抗体測定などを続け、症状に合わせて早期の対応をとれるようにもなります。

 

加えて、誤って生のものや加熱が十分でない馬刺しを食べてしまった場合にも、きちんと検査しておくと安心です。体内の抗体が増えてくるのが食べてから2週間程度であるため、さらに個人差のあることを考慮し、1カ月程度してから検査すると感染の有無の判別がより確実となります。

 

 

加熱すれば安心! 馬肉の栄養を妊婦さんが摂るための調理法

妊娠中は、おなかの赤ちゃんに鉄分を取られるため貧血になりやすく注意が必要です。貧血になると、めまいや息切れなどを起こしやすくなるため、妊娠中には特に気を付けなければいけません。さらに、重篤な貧血の発症は、血液に含まれている酸素が十分に赤ちゃんに届かなくなってしまう可能性があるので、おなかの赤ちゃんにも影響が出る可能性があります。妊婦さんのおよそ4分の1が発症する貧血を防ぐためには鉄分補給が必要です。

 

馬刺しには鉄分が豊富に含まれています。また、牛肉などのほかの肉類に比べて栄養価が高く、カロリーが低いうえ、低脂肪であるなど妊婦さんにとって魅力的な食品でもあるのです。馬刺しは妊婦さんにとって感染のリスクがある注意すべき食べ物ですが、食べ方によっては出産などに向けた栄養補助として活用できます。

 

馬刺しに含まれているトキソプラズマやリステリアは一定の低温や高温の環境に置かれると死滅するため、冷凍したり加熱したりすることで食べることは可能です。たとえば、肉に含まれているトキソプラズマはマイナス20度で8時間以上冷凍すると死滅します。

 

一方、トキソプラズマの場合は、67度以上をキープしながら1~2分加熱することです。また、リステリアについても肉の中心部の温度が75度以上となるように1分以上加熱すると死滅させられます。ただし、冷凍でも加熱でも食べられるようにはなりますが、冷凍処理は一般の家庭だと中心部まで十分に低温化させられない可能性があるため要注意です。一般的には、十分な加熱をおこなうほうが安心できる調理法となっています。

 

また、調理法だけではなく、調理時の馬刺しの取り扱いについても注意が必要となります。トキソプラズマなどが含まれている馬刺しを切る際に使用した包丁やまな板などで、ほかの食材も切ったりすると、その食材にも感染してしまう可能性があります。特に、同じ包丁やまな板を使って切った野菜などを生のままで食べてしまうと感染リスクは高まるため、馬刺しなどの生肉を調理する際には、使用する器具をほかの食材と分けて使用し、できるだけ頻繁に洗うようにして感染予防に努めるようにしましょう。

 

 

まとめ

馬刺しはトキソプラズマやリステリア菌など、妊婦さんが感染するとおなかの赤ちゃんにも悪影響を及ぼす恐れのある微生物が付着していることがあるため、妊娠中、生での摂取は避けたほうがよいとされています。その一方で、馬刺しには鉄分が多く含まれ、低カロリー、低脂肪な食材でもあります。妊婦さんが馬刺しを食べるときには、十分加熱することや感染予防に努めることが大切です。


■参考■

「トキソプラズマ妊娠管理マニュアル」(2018年10月1日(第 3 版))東京大学医学部産科婦人科学教室サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等、母子感染の予防と診療に関する研究班

「トキソプラズマ症とは」国立感染症研究所

「リステリア・モノサイトゲネス感染症とは」国立感染症研究所

「リステリアによる食中毒」厚生労働省

「トキソプラズマ、よくある質問編 先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」

・「食品安全関係情報ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)、トキソプラズマ症予防に関する消費者向けリーフレットを公表」食品安全委員会

「これからママになるあなたへ」厚生労働省

 

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