【医師監修】多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)妊娠への影響と治療法
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS/たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)は、あまり聞きなれない疾患かもしれません。今回は、多嚢胞性卵巣症候群による妊娠への影響や治療法などについて解説します。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、卵胞(卵子を包み込んでいる袋のようなもの)の発育が抑制され、排卵障害をきたす疾患です。生殖年齢にある女性の約5〜8%にみられ、排卵に関連のある2つの女性ホルモンのアンバランスや卵巣内の男性ホルモンが多いことが原因とされています。治療せずに長期間放置すると、子宮内膜増殖症や子宮内膜がんといった子宮内膜に異常が起こることがあります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では無月経や無排卵周期症(無排卵月経)などの月経異常がみられ、不妊の原因にもなります。その他に、体毛が濃い、ニキビがよくできるといった男性化徴候がある人は多嚢胞性卵巣症候群を疑います。
症状は1つだけの人や、いくつかを発症している人もいます。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の確定診断をするときには、月経異常(無月経・希発月経・無排卵月経など)の症状に加えて、血液検査と卵巣の超音波検査が必要です。超音波で卵巣を見ると、多数の小さな卵胞が見られたり、卵胞の外側に10mm程度の卵胞がぐるりと一周並んでネックレスのようになっています。卵子が十分に成長できないので、排卵されずに卵巣の中で連なっているのです。
血液検査では、血液中の男性ホルモンが基準値よりも高いまたは、黄体化ホルモンの値が卵胞刺激ホルモンよりも高いことで診断することができます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の妊娠への影響は?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は排卵しにくく、月経周期も不順になることが多いので、妊娠のタイミングを計るのも難くなります。20代では、排卵障害もそれほど進んでいないので、自然妊娠も可能ですが、年齢を重ねるごとに生理周期が延長していき、排卵障害が進むので自然妊娠は難しくなります。症状に気づいて早めに治療を受けることができれば、妊娠の可能性は高くなります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、排卵に問題があることが多いため、排卵を誘発させていく治療をしていきます。
(1)排卵誘発剤を使う
クロミフェンという排卵誘発剤を内服することで、約60%に排卵の効果が現れます。排卵誘発剤の内服による効果がない場合は、注射によるゴナドトロピン療法という排卵誘発剤を使います。
卵巣には成長できずにいる卵胞がたくさん待機しているので、排卵誘発剤の注射によってたくさんの卵胞が一度に成長することがあります。そのため、一度に複数の卵子が排卵される可能性があり、多児妊娠のリスクが高くなります。また、たくさんの卵胞が大きくなると、卵巣が大きく腫れておなかに水が溜まる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を引き起こしてしまう恐れがあります。
(2)卵巣に小さな穴をいくつか開ける手術をする(腹腔鏡下卵巣多孔術:ふくくうきょうからんそうたこうじゅつ)
卵巣に穴を開けることで、自然な排卵を促すことになり、排卵誘発剤の効果も得られやすくなります。術後の自然排卵は70~80%と報告されています。腹腔鏡を使った手術なので、傷は小さいです。ただし効果は、半年~1年程度で、手術前の状態に戻ってしまうデメリットがあります。
(3)糖尿病の薬を使う
インスリン分泌に異常がある人には、糖尿病の治療薬のメトフォルミン(メルビン、グリコラン)の併用によって排卵しにくい状態を改善することが期待できると言われており、排卵率75%前後の報告があります。インスリンの分泌量を抑えることで、卵巣内の男性ホルモンの分泌も減少し、排卵しやすくなるのです。
妊娠を希望していて排卵誘発剤や手術の効果があまりない場合には、医師から体外受精の話があるかもしれません。体外受精であれば、卵胞の成長コントロールも排卵誘発剤を使う際のリスクも少なくおこなえます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は予防できる?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は初潮からずっと生理不順である人が多く、はっきりとした原因は不明です。一般的な遺伝性のある疾患とも異なるため、予防策はありません。しかし、肥満である場合は、減量することにより月経不順の改善が認められているので、適度な運動やバランスの良い食事などに気をつけていくとよいでしょう。
まとめ
生理不順など多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状が当てはまるのであれば、早めに産婦人科で検査をしてもらいましょう。妊娠を希望しているなら治療はもちろんですが、治療せずに長期間放置すると、子宮内膜増殖症や子宮内膜がんといった子宮内膜に異常が起こることがあります。生理不順を軽く見ずに、しっかりと治療しましょう。