葬儀の少し前、こともあろうにインフルエンザにかかってしまった私。やむをえず外出自粛期間だった通夜を欠席しました。幸い症状も落ち着き、外出自粛期間が明ける告別式から参列するつもりでいたのです。
告別式の日、式場に出向くと見知らぬ女性が受付や案内を積極的に仕切っていました。式場の方かと思いきや、そうではなさそう……。親戚に聞いてみると、お通夜から手伝いをしてくれていた夫の職場の部下だというのです。
葬儀にいた女性の正体
部下の女性に紹介してほしいと夫に声をかけると「こんなときにインフルエンザなんて、たるんでるとしか思えない。今日も受付や案内は彼女に頼むから」と冷たい態度……。私だってかかりたくてかかったわけではありません。それなのにあんまりです。
私は部下の女性に声をかけ、受付を代わると申し出ました。しかし彼女は「大丈夫です、頼まれているので」と丁寧に断りつつも、立ち位置を変えようとしませんでした。
親戚からも冷たい目が向けられているように感じ、とても肩身の狭い思いで葬儀を終えました。
親戚を見送り、残ったのは私と夫、部下の女性の3人です。部下の女性にお礼を述べ、夫と帰ろうとすると、突然夫は言いました。
「正直に言うけど、俺、彼女と付き合ってる。もう隠す気もない。嫌なら離婚してくれて構わない」女性もその横で、にこにこと微笑んでいました。
私は気が動転しましたが、1つずつ夫に質問しやっと状況を飲み込むことができました。
夫曰く、彼女とは1年前から関係を持っていたとのこと。義父が亡くなって介護がいらなくなった今、隠す必要がなくなったと言います。離婚するか、彼女の存在を受け入れて夫婦を続けるのか──二択を迫られる形になったのです。
さらに夫は自分の立場を守るために「最近うまくいっていない」「向こうが先に浮気をした」などと親戚に話したそうです。そのひと言が、私への冷たい視線につながっていたと知り、がくぜんとしました。
結局私は、義父の介護をさせるためにキープされていただけだったのです。
遺産の使い道
もちろん私は離婚を選びました。義父の四十九日を終えたのち、家を出たのです。
夫と彼女には、不倫の責任として慰謝料の支払いを求めました。夫は「遺産が入るから問題ない」とどこか余裕の態度。義父が残した大切なお金をそんなふうに使おうとしていることに、思わず言葉を失いました。
しかも、義父が亡くなってからの手続きはすべて私がやりました。夫に任せるという選択肢もありましたが、義父へのけじめとして私がおこなうことにしたのです。
カードの解約やお墓の手配など、離婚準備と合わせておこなうのは大変でしたが、葬儀ではほとんど役に立たなかったので、これでけじめがついたような気がしました。
義父からのプレゼント
しばらくして弁護士さんから電話が入りました。慰謝料の支払いの件かと思って電話に出ると、義父の遺産の件だと言います。
話を聞くと、義父の遺言書には、私にも遺産を残すと書かれていたそう。その額は、夫と同等だったのです。そんな気配を見せたことは一度もなく、私はしばらく言葉が出ませんでした。
また、義父から私への手紙も残されていたとのこと。そこには私への感謝の気持ちが丁寧に綴られていました。「嫁にお世話をされて当たり前」という価値観があるのだろうと思っていたので意外でした。
亡くなった今になって義父の本当の姿を見られた気がして、胸がいっぱいになりました。
夫の末路
しかし、そこで納得していなかったのは元夫でした。「遺産をもらったんだから慰謝料の請求は取り下げろ」と一方的に言ってきましたが、応じる理由はどこにもありません。弁護士の力を借りて、きっちりといただきました。
しばらくして、義父のお墓参りに行ったら親戚にばったり! 葬儀の日、私に冷たく当たった叔母です。彼女は一瞬気まずそうな顔をした後、私に向かって深々と頭を下げました。
叔母曰く、現在元夫は親戚中から避けられているそう。葬儀の日の嘘がバレたこと、そして新しい奥さんとなった浮気相手が本性を表し始めたことで、親戚の間で元夫の評判が一気に変わったのだとか。義父の遺産を当てにしてマンションも契約したようで、支払いに追われていると言います。
義父のお墓の前に立った瞬間、これまで張りつめていた気持ちがようやく解けていくのを感じました。介護も手続きも、必死にこなしてきた日々は決して無駄ではなかった──義父の遺言と手紙が、そう思わせてくれたからです。
これからは、自分の人生を丁寧に歩いていくと義父に誓いました。
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介護は想像以上に心身の負担が大きく、本来なら夫婦や親族で支え合って乗り越えたいものです。誰かひとりの努力に甘える関係は続きません。
任せきりにした結果、元夫のように大切な人や信用を失うこともあるでしょう。一方で、誠実に向き合った想いは、きちんと届いているのだと実感しました。
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。