「口頭説明は工数の無駄です」話しかけると即チャットで返信してくる同僚
私の会社には、基幹システムを一手に担うエンジニアの男性がいました。技術力は確かなのですが、それ以上に目立っていたのが、常に最新のノイズキャンセリングイヤホンをつけていること。
話しかけても視線すら上げない。その姿は「選ばれた人間は俗世と交わらない」とでも言いたげでした。
ある日、急ぎで共有したい不具合を見つけた私は、彼の席へ向かいました。
「すみません、少しお時間いいですか?」
そう声をかけた瞬間、イヤホンを外さないままゆっくりとため息。数秒後、私のPCにチャット通知が届きました。
エンジニア:口頭説明は工数の無駄です。要点をテキストで。
私:急ぎなので、直接のほうが早いかと……。あとでテキストでも送りますが、まずお話をさせていただけたらうれしいです。
エンジニア:脳の構造が違うのかな。ログが読めないなら、せめて私の時間を奪わないでください。
一時が万事、コミュニケーションを遮断する彼。誰も何も言えない。彼の機嫌を損ねると面倒なことになる――そんな空気が、オフィスに漂っていたのです。
連休前、張りつめた静寂に響いた"場違いな音声"
事件は連休前の金曜日、締め切りが重なり静まり返った午後に起きました。
彼はいつものようにモニターに向かっています。コードと複数のブラウザタブ。ときおり小さくうなずく姿は、"難解な処理に格闘するエリート"そのものに見えました。
そのとき。
資料を取ろうと席を立った拍子に、イヤホンの接続が突然切れたのです。
PCの設定は、Bluetooth切断時に自動で内蔵スピーカーへ切り替わる仕様。しかも開いたままのブラウザには、音量最大の動画が再生中。
次の瞬間、シーンと静まり返ったオフィスにスピーカーから最大音量で流れたのは、公の場では決して口にできないような過激な音声でした。
突然始まった生々しい女性の嬌声に全員が固まりました。彼自身も、何が起きたのか把握できていない様子。数拍遅れて我に返り、慌ててマウスを握りますが、焦りでカーソルは思うように動きません。
ブラウザを閉じてスピーカーをミュートするまで、体感で10秒ほど。実際は短かったはずなのに、その場にいた全員にとって、異様に長い時間に感じられました。
「……広告が、自動再生で」真っ赤な顔で言い訳するも、再生バーが全てを語っていた
ようやく静寂が戻ると、彼は真っ赤な顔のまま口を開きました。
「……広告が、自動再生で……」
しかし、モニターに一瞬映った再生バーは、動画の"中盤"を示していました。その事実を、何人かは確かに見ていたのです。
普段彼に「システムを理解していない」と罵倒されていた上司が、ゆっくりと彼のデスクへ歩み寄りました。
「それが、君の言う『非エンジニアには理解できない、高度な工数』の中身かね?」
上司の冷徹な一言に、彼は金魚のように口をパクパクさせるだけで、何も言い返せませんでした。
「イヤホンさん」誕生…屈辱のあだ名が、とうとう本人の耳に届いた
その日を境に、彼の権威は完全に失墜しました。
あれほど威張っていた「チャットでの報告」も、今では「動画を見る邪魔をされたくないだけだろ」と冷ややかな目で見られるようになりました。
さらに、彼には屈辱的なあだ名がつきました。誰が言い始めたのか、彼は社内で「イヤホンさん」と呼ばれるようになったのです。
そんなウワサがとうとう彼の耳に届いたのか——翌日から、イヤホンを外して出社するようになりました。
自分で作り上げた"エリートの壁"を、自分で崩してしまうとは。天誅って、こんなふうに訪れるんですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。個人が特定されないよう、固有名詞などに変更を加えて構成しています。