嫌な予感
電話を切ったあと、私は時計を見て急いでお迎えへ向かいました。最近の娘は「もうすぐ小学生!」と落ち着かない様子。楽しそうな娘を見るたび、私も娘の小学校入学を待ち遠しく感じていました。
帰り道、私が「さっき、おばあちゃんから電話があってね。日曜日に入学のお祝いをしたいんだって」と伝えました。すると娘の目が輝き「え!お祝いしてくれるの? ケーキある!?」と大喜び! 娘の無邪気な反応に思わず笑ってしまいながら、私は「しかもね、娘と同い年で、同じ学年になる義兄の息子くんと一緒にお祝いするんだって」と伝えました。すると娘は「へえー!」と笑顔でうなずきました。娘の嬉しそうな顔を見ながら、私はどうしても胸のざわつきが消えませんでした。義母はこれまで何度も、義兄の息子を持ち上げながら娘を下げるような言い方をしてきたのです。だから「一緒にお祝い」という言葉が、どうしても引っかかりました。 それでも娘は楽しそうに「ケーキあるならいいかも! みんなでパーティーだね!」と言うのです。その無邪気な顔を見て、私は少しだけ迷いました。
もしまた嫌なことを言われたら――。
そう思いながらも、その日の夜、夫と話し合い約束をしました。嫌なことがあったら我慢しないこと。帰りたいと思ったらすぐに帰ること。娘の気持ちを1番に考えること。その一線だけは、家族で共有しておくことにしたのです。
露骨な差別
日曜日、義実家のリビングに入ると、義兄の息子はソファに寝転び、お菓子を食べながらテレビを見ていました。義母はその姿を見ながら頬をゆるめ「男の子はどっしりしていて頼もしいわ」「将来が楽しみだわぁ」 と言い、頭を撫でながら褒め続けていました。
すると、娘へ視線を移した義母が「それに比べて……娘ちゃんは相変わらず細いわねぇ。ちゃんと食べさせてるの?」とチクリと一言。続けて「男の子とは違うわよね〜。やっぱ男の子が1番よね♡」と言い放ったのです。娘は何も言わず、私の隣に静かに座りました。心配になり娘を見ると、小さな手をぎゅっと握りしめていました。 すると義母は満足げに立ち上がり「そうだ、お祝いを渡さなきゃね」と言い奥の部屋へ向かいました。戻って来た義母の手に祝儀袋が2つあり「入学祝いよ」と、 義兄の息子と娘、それぞれに手渡されました。 見た目は同じ祝儀袋。厚みもほとんど変わりません。
――よかった。平等なのかもしれない。
そう思ったのも束の間でした。義兄の息子が袋を開けると「うわっ!すげー!」と目を輝かせました。中には、新品の一万円札が何枚も! 義母は誇らしげに「男の子はこれからお金がかかるからね」と一言。その様子を横目に、娘もそっと祝儀袋を開きました。中に入っていたのは―― 企業名入りのポケットティッシュ。街で配られている、無料のものでした。
私は一瞬、状況を理解できずにいました。そして次の瞬間、別の違和感が胸に広がりました。 ――祝儀袋のほうが高いんじゃない? ここまでして差をつけるなんて。 娘は何も言わず、袋の中を見つめています。胸の奥に広がる冷たい予感を、もう否定できませんでした。義母のひいきは、なくなってなどいなかったのです。
静かな逆転
室内に重たい沈黙が落ちました。すると義母は娘の手元を見て満足げに「実用的でしょ? お友達にサッと差し出せるしね」「女の子は、そういう気づかいができないと」と言い放ったのです。
私は怒りを飲み込みました。ここで言い争えば、傷つくのは娘……。私は「ありがとうございます」と、自分でも驚くほど穏やかな声でお礼を伝えました。娘は袋を閉じ、私を見上げ「ママ、帰ろう」とポツリ。夫も「じゃあ、帰ろうか」と言い、私たちは玄関へ向かいました。
その瞬間、「待て」と低い声が背後から響きました。振り返ると、ずっと黙ってお茶をすすっていた義父が、ついに堪忍袋の緒が切れたように立ち上がったのです。部屋を見回し、祝儀袋とティッシュを確認すると顔色が変わりました。そして、義父が「今まで我慢していたが酷すぎる!」と義母に向かって怒鳴りつけたのです。義母は慌てて「ちょっとした冗談よ!」と言い訳を探し始めました。しかし義父はゆっくりと私たちの前に歩み寄り、深く頭を下げ「申し訳なかった」と謝罪してくれたのです。続けて「孫を傷つける行為をしてしまった。初めは冗談かもしれないと思っていたが……ここまで酷いとは思っていなかった……」と呟きました。そして、義母を睨みつけ「ほら! お前も頭を下げろ!」と声を荒げるのでした。その言葉に夫は「父さん、ありがとう。でも、俺は家族を守る。もうこの家には帰らない」と告げ、私たちはそのまま家を後にしました。
背後で義母の声が響いていましたが、もう振り返りませんでした。その後、義父は別居を決断し、私たちも義母と距離を置くことになりました。 娘は以前と変わらず明るく過ごし、私たちの生活には穏やかな時間が戻っています。
◇ ◇ ◇
家族という関係であっても、誰かを傷つける価値観に無理に合わせ続ける必要はありません。 大切な人を守るために境界線を引くことも、家族を守る選択のひとつなのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。