社長とは対照的な“違和感”
先方に到着すると、社長自らが出迎えてくださいました。とても謙虚で、下請けである私にも丁寧に接してくださる姿勢に、ほっと胸をなで下ろしました。ところが、応接室へ案内してくれた女性秘書の態度に、強い違和感を覚えたのです。
彼女は、社長には聞こえない声で「下請けなんですから、あまり出過ぎたことはなさらないでくださいね」と私に言ってきたのです。私は耳を疑いました。応接室へ向かう廊下でも、彼女は終始冷ややかな表情のまま。歓迎されていない空気をひしひしと感じました。
それでも、この日は大切な商談。私は気持ちを切り替え、社長との話し合いに集中しました。
契約内定後の思わぬひと言
結果商談は無事にまとまり、数日後に正式契約を結ぶことが決まりました。肩の力が抜けた帰り際、私は改めて秘書に「このたびはありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」とあいさつをしました。
しかし返ってきたのは、想像もしない言葉でした。
「作業服で営業ですか? もう少し立場をわきまえたほうがいいのでは?」
私はその日、契約後に社長を工場へご案内して実際の設備をご覧いただく予定があったため、作業服を着ていました。事情を説明しましたが、秘書の表情は変わりません。「御社のような規模の会社は、あくまで下請けという立場ですから」という言い方に、悔しさを覚えました。
契約締結日に起きた出来事
正式な契約締結の日。私は製造責任者である兄とともに再訪しました。
すると秘書は、兄の作業着姿を見て、やや軽んじるような口調で「本日はずいぶんカジュアルなのですね」と言ったのです。兄は事前に私から事情を聞いていたため、冷静に対応しました。
会議室に入ると、社長だけでなく複数の役員が席に着いていました。実は先日、当社が開発した新型部品が口コミで話題になり、兄は開発責任者として注目されていたのです。
社長は笑顔で「御社の新製品は非常に注目されています。本日はその部品の納入契約を正式に結びたいと思います」と言いました。
信頼関係を守るためのひと言
契約書に署名する前、兄が静かに口を開きました。
「一点だけ確認させてください。これまでのやりとりの中で、弊社が立場を理由に軽んじられるような発言がありました。対等な信頼関係を築けるかどうか、そこを大切にしたいと考えています」
兄は、その場のやりとりを記録していたメモを示しながら説明しました。社長と役員の皆さまは状況を真摯に受け止め、すぐに「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。社内体制を見直します」と謝意を示してくださったのです。
その誠実な対応に、私たちも安心することができました。
立場ではなく、信頼で結ばれた契約
後日、当該秘書は社内で配置転換となり、社内教育の強化が進められたと聞きました。
私たちも、改めて「会社の規模ではなく、技術と誠意が評価されるのだ」と実感しました。
新部品はその後も多くの問い合わせをいただき、町工場としての技術力に自信を持てるように。家族で力を合わせて積み重ねてきた努力が、ようやく形になった瞬間でした。
--------------
今回のエピソードから感じさせられるのは、企業規模の大小ではなく、技術力や誠実な姿勢こそが最終的に信頼を勝ち取るという事実です。立場にとらわれた先入観は、時に大きな機会損失を生みかねません。
また、長年積み重ねてきた町工場の努力が、確かな実績として評価された点も印象的でした。地道な挑戦を続けてきたからこそ、いざという場面で揺るがない信頼につながったのではないでしょうか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ウーマンカレンダー編集室ではアンチエイジングやダイエットなどオトナ女子の心と体の不調を解決する記事を配信中。ぜひチェックしてハッピーな毎日になりますように!