私が進学を決めたことを伝えると、彼女は鼻で笑って「意気地なし」と吐き捨てました。「夢を追いかける度胸がないだけでしょ。私は絶対に夢を諦めないから」と、私の決断を見下すような言葉を投げつけてきたのです。
高校時代、私と幼なじみは演劇部に所属しており、お芝居に熱中していました。私も一時は役者を夢見たこともありました。しかし、自分の実力を客観的に見つめ直し、進学して別の道を探すという現実的な選択をしたのです。決して簡単な決断ではありませんでしたが、彼女にはそれが「逃げ」にしか見えなかったようなのです。
「役者になれないなら生きてる意味がない」とまで言い放つ彼女の背中を、私はただ見送ることしかできませんでした。
10年ぶりの再会
私は大学を卒業して税理士の資格を取り、小さな会社を経営する夫と結婚しました。仕事の傍ら、昔の夢に少しだけ関わる形で、知人が立ち上げた小さな劇団の裏方として運営を手伝う充実した日々を送っていました。
そんなある日、突然、幼なじみから連絡が。彼女は高校卒業後、ご両親の援助とアルバイトで生計を立てながら、いくつものオーディションを受け、しばらくして小さな事務所に所属しました。そして、最近になってようやく地元の企業PR動画などに少し出演できるようになったところでした。
「久しぶり! 私、すっかり売れっ子でしょ?」
大スターになったかのような調子で連絡してきた彼女は、先日参加したスポンサー企業の交流パーティーで、私の夫と偶然知り合ったと言います。
「あなたって夢を諦めてお堅い仕事をして、親が喜びそうなつまらない人生を送ってるよね。でも、あんなお金持ちの旦那が手に入ったなら悪くないかもね」
昔と変わらず私を見下すような言葉を並べる彼女でしたが、その日の本当の目的は別のマウントでした。なんと、彼女はそのパーティーの主催企業の社長の息子さんに見初められたというのです。
「顔だけならあなたの旦那のほうが好みだけど、結婚するならやっぱりお金よね」
そう言って浮かれる彼女の話を、私は適当に相槌を打ちながら聞いていました。
私を見下していた裏で……
それから半年ほどたったある日の夜、幼なじみから興奮気味なメッセージが届きました。
「ねえ! ついに例の社長の息子からプロポーズされたの〜♡」
「売れっ子女優の私とお似合いよね」
交際5カ月でのスピード婚約だと言い、「私なら彼の高い理想も超えられたのよ」と得意げに語る彼女。
しかし、私はその報告メッセージを冷めた気持ちで見ていました。なぜなら、そのころ私は、夫の不審な行動から浮気を疑い、水面下で探偵を雇って身辺調査を進めていたから。そして、探偵から渡された調査報告書には、夫と幼なじみが密会を重ねる写真がしっかりと収められていたのです。
さらに驚くことに、彼女のSNSの鍵つき裏アカウントには、恐らく事後の2人が密着した写真がいくつもアップされていました。もちろん私はフォローしていませんが、彼女と私の高校の同級生で共通の友人が、私の状況を知り、彼女のSNSの投稿を見せてくれたのです。私は、あまりの危機管理能力の低さにあぜんとしました。
「うちの夫と浮気してるのに?」
「え?」
私からの返信に、明らかに動揺した様子の彼女。しかし、「何を言い出すのかと思ったら、私があなたの旦那と浮気? そんなことするわけないじゃん!」と激しく否定し、「女優として成功してる私が、なんであんたのお古なんて貰わなきゃいけないのよ」と暴言まで吐いてきました。
私は証拠の内容までは伝えませんでしたが、彼女は私の言葉から何かを察したのか「変な言いがかりつけないで」と最後までシラを切っていました。しかし、事態は思わぬ方向から動き出しました。結婚を前に、先方の家族が彼女の交友関係を確認していたようで、その過程で私の夫との関係も把握されたようでした。
数日後、彼女から「あんたの仕業でしょ!」と連絡が。私が情報を流したわけではないと伝えても、彼女はパニック状態。先方の怒りは凄まじく、婚約は破談となり、さらにそれまでの私生活でのトラブルが問題視され、企業PR動画の仕事も外されることになったようでした。
「私の役者生命が懸かってるのよ! あなたが波風立てたせいで私の人生めちゃくちゃよ! 彼の親とか事務所とかに、あなたの勘違いだった説明して謝罪して!」
すべては自分の身勝手な行いのせいだというのに、とんでもなく理不尽な要求をしてきた彼女。私はあきれ果て、冷たく突き放しました。
「どうして私が配慮してあげないといけないの? 私は被害者よ」
その後、私は自分自身の人生を清算し、前を向いて歩き出すために、離婚と夫と彼女への慰謝料請求の手続きを粛々と進めました。
すべてを失った幼なじみの末路
しばらくして、私は弁護士を通して夫と離婚が成立し、無事に慰謝料も受け取り、穏やかなひとり暮らしをスタートさせていました。そんな中、再び幼なじみから連絡が。婚約破棄を含むいくつかのトラブルを問題視された彼女は、所属していた小さな事務所からも見放されてしまい、仕事がゼロに。今は実家に引きこもる生活を送っているそう。
「今までひどい態度をとってきたこと、本当にごめんね。また友だちに戻りたいの」
あんなに私を見下していた彼女からの突然の謝罪。しかし、その裏にはやはり自己中心的な目的が隠されていました。「あなたが手伝ってる劇団に、私を入れてくれない? もう一度、演技がしたいの」と言うのです。あきれて言葉も出ませんでした。私は彼女の要求をきっぱりと断り、連絡も完全に断ちました。
その後、彼女は働くこともなく実家に引きこもり続け、自暴自棄になって暴飲暴食に走り、すっかり容姿も変わってしまったと風の噂で聞きました。
一方、元夫も不倫騒動が地元の取引先の間で広まったことが引き金となって会社の信用が失墜し、業績が悪化。今は女性にうつつを抜かす余裕などないほど、追い込まれ、事業の立て直しに翻弄しているのだとか。
私は税理士としての仕事を続けながら、相変わらず小劇団の運営にも関わっています。最近では脚本の勉強も始めました。自分のペースで、自分で選んだ道を歩む現在の生活に、心からの充実感を感じています。
◇ ◇ ◇
自分の行動には必ず責任が伴い、他人を傷つければいつか自分に返ってくるということを痛感しますね。夢を追いかけることは素晴らしいですが、その過程で周囲を見下したり、倫理に反する行いをしたりすれば、築き上げたものも一瞬で崩れ去ってしまいます。夫にも幼なじみにも裏切られていたと知れば、つい感情的に行動してしまいそうですが、そんなときこそ冷静さが大切ですね。感情的になって相手を責め立てるのではなく、今回のように法的な手段で落ち着いて対処し、自分の新しい人生を切り拓くことにエネルギーを注ぎたいですね。
【取材時期:2026年3月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。