夫がいない時間帯を狙ったように、電話をかけてくる義母。育児について細かく聞き出しては、気になる点を指摘してくるのです。気づけば1時間以上話し続けることもありました。
ただでさえ不安の多い初めての育児。そこに義母から否定的な言葉を重ねられるたびに、胸が苦しくなっていきました。
それでも、夫の母親である以上、無下にすることはできません。私はあいまいに笑ってやり過ごし、時間が過ぎるのを待つしかなかったのです……。
大迷惑な嫁いびりの日々
やがて義母は電話だけでは足りなくなり、連絡もなくわが家に訪れるようになりました。そして家事や育児のあら探しをしては、長時間にわたって口出しをするのです。
しかし、夫が帰ってくると、義母はにこやかに「お手伝いに来ていたの」「孫に会えてうれしいわ」と説明します。
穏やかに「少しは休めた? 母さんが来てくれてよかったね」と笑う夫に、私はただあいまいに笑みを返すしかありませんでした。
古い考えを持つ義母の言葉
ある日、夫が育児用ミルクを作って娘に飲ませていたときのことです。
その様子を見た義母は、突然声を荒らげました。
「男がミルクをあげるなんて気持ち悪い!」
「どうして母乳で育てないの!」
義母にとって、育児用ミルクは「母親が手を抜いている」ように映るらしく、さらにそれを夫に任せることは理解できないようでした。
しかし、私たち夫婦にとって育児用ミルクは大切な選択肢のうちのひとつでした。さらに、夫は娘がミルクを一生懸命飲むのを間近で見られるのが幸せだと言っていたのです。
それを否定され、「気持ち悪い」とまで言われた夫は、娘を私に託し、静かに、しかしはっきりと義母にこう告げました。
「母さんの時代はそれが正解だったかもしれない。でも今は違うんだ」
「誰かのやり方を頭ごなしに否定するほうが、よほど問題だと思う」
夫の一言で、場の空気が一変しました。
過去に囚われていた義母
夫の言葉にたじろぎながらも、義母は感情的に反論してきました。
「私は母乳の出が悪かったのよ! そんななかでどれだけ苦労してあなたを育ててきたことか!」
「ミルクより母乳のほうが栄養があるんだから! あなたたちもそうしなさい!」
夫は落ち着いた口調で、義母にこう返しました。
「たしかに、母さんが母乳だけで俺を育ててくれたのはすごいことだと思う。でも、それを他人に強制していい理由にはならないよね」
「自分が大変だったからって、うちの妻に同じ苦労をさせるつもりなの?」
その言葉に、義母は一瞬言葉を失いました。そしてしばらく沈黙が続いたあと、義母は小さな声で昔のことを話し始めたのです。
「……つらかったのよ。あなたのおばあちゃんから『母乳の出が悪い』『大事な孫がちゃんと育たなかったらどうするんだ』って毎日責められて……」
「お父さんも育児には関わってくれなかったし……。毎日『これで合ってるはず』って自分に言い聞かせながらあなたを育ててきたの」
義母自身も、かつて義祖母から同じように干渉され、責められていたそうです。当時は夫婦で育児を分担する考え方もなく、すべてを1人で抱え込んでいたといいます。その苦しさが、今も心の中に残っていたようでした。
そのはけ口が、私に向けられていたのです。
負の連鎖を断ち切るために
過去のつらい経験があったとしても、それを次の世代に繰り返していい理由にはなりません。
夫は義母に対し、今後は過度な干渉を控えること、困っていることは義父に相談することをはっきりと伝えました。さらに義父にも状況を共有したようでした。
その日を境に、義母からの電話や訪問はぱたりと止まりました。
「……つらかったなら、ちゃんと話してほしかった」
「俺たちは、家族なんだから」
娘が寝たあと、夫が私に向かってぽつりとこう言いました。この言葉を聞いて、私はようやく肩の力が抜けたのです。そして同時に、もっと早く夫を頼るべきだったと反省しました。
育児の価値観は、時代や環境によって大きく変わります。だからこそ、自分の考えを押し付けるのではなく、お互いを尊重する姿勢が大切だと感じました。
過去の苦労を引きずるのではなく、次の世代にはよりよい関係を築いていくこと。その大切さを実感した出来事でした。
◇ ◇ ◇
母乳か育児用ミルクかは、それぞれの親子に合った方法を選ぶものです。育児用ミルクは赤ちゃんに必要な栄養を考えて作られており、国内メーカーの製品であれば成分に大きな差はありません。どれを選んでも、過度に心配しすぎる必要はないでしょう。
もちろん、母乳でも育児用ミルクでも、愛情の大きさが変わることはありません。それぞれの家庭に合った無理のない選択を大切にしながら、周囲の人もまた、その選択を尊重していけるといいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。