息子が泣くのをしつけのせいにする義父
息子の2歳の誕生日に、義両親から「旅行をプレゼントする」との提案がありました。喜んだ私と夫でしたが、義父が選んだのは、なんと格式高い劇場での歌舞伎鑑賞と、大人向けの渋い大衆温泉ホテルでした。
2歳児に歌舞伎は早すぎると反対しましたが、義父は「英才教育だ」「俺が金を出すんだから」と聞く耳を持ちません。義母も「お父さんは一度言い出したら聞かないから……。私たちがついてるし、なんとかなるわよ」と言うばかり。夫も「親父がせっかく予約してくれたから……」と言い、結局誰も義父を止めてはくれず、行き先は変更されませんでした。
当日、私は少しでも息子が落ち着いていられるよう、お気に入りのお菓子を音の出ないように小さなシリコン容器に入れて持参し、新しいシールブックも用意。息子に英才教育をさせたがっていた義父には申し訳ないですが、上演時間前に息子がお昼寝できるよう、逆算して行動しました。しかし、劇場の独特な緊張感と、幕が開いた瞬間の地響きのような拍子木の音は、2歳の子どもには刺激が強すぎました。
案の定、息子はパニックを起こして大泣き。私は慌ててシールブックを出しましたが、息子はそれどころではありません。周囲の冷ややかな視線に耐えきれず、私と夫は平謝りしながら息子を抱えてロビーへ逃げ出しました。すると、後を追ってきた義父が、「せっかくの席が台無しじゃないか! 母親ならもっと前もってしつけておけ!」と激昂したのです。一緒にいた義母はオロオロしながら「お父さん、そんなに怒らなくても……ほら、〇〇ちゃん(息子)がもっと怖がっちゃうわ」とたしなめようとしましたが、義父は「黙ってろ! お前も甘いんだ!」と一蹴。
上演中なのでロビーには人も少なく、義父の声はロビー中に響きました。私はあまりの言われように涙が溢れそうになり、夫や義母までも義父の剣幕に怯えて黙り込んでしまいました。そのとき、「お静かに」と、凛とした声が背後から響いたのです。
声の主は、客席から出てきた上品な身なりをした80歳くらいの老婦人でした。義父は、その方の品格に委縮し「うるさくしてほんとすみません~、嫁の教育が……」と慌てて媚びるように頭を下げました。しかし、老婦人は真っ直ぐ義父を見据えて「お父様、ここは伝統を楽しむ場で、怒鳴り声を聞く場ではありません。小さなお子さんに、静寂を強いるのはあまりに酷です。お母様は一生懸命あやして、周りに配慮されていましたよ。あなたこそ、お孫さんへの思いやりと、場所を弁えた振る舞いを学ばれてはいかが?」と一喝。義父は顔を真っ赤にして黙り込みました。赤の他人に指摘されて、ようやく夫も「親父、やっぱり無理があったんだよ。俺たちはもうホテルに帰るね」と言ってくれ、義両親を残して、劇場をあとにしたのでした。
結局、旅行は散々な思い出になりましたが、帰宅後、夫もようやく「親父の言いなりになるのは間違いだった」と認めてくれ、「今後は息子の年齢に合わせた場所にしてくれ」と義父に断言。当初は反発した義父も、夫からあの老婦人の指摘を蒸し返されると、恥を自覚したのか黙り込んだそう。後日、義母からも「お父さん、子どもの目線で喜ばせる術を知らなかったみたい」と謝罪LINEが届き、義父もすっかり意気消沈したようでした。
子どもの誕生日なのだから、本人が主役。どれだけ高貴で優れたものをプレゼントしたいと思ったとしても、子どもにとってそれが苦痛になってしまうのであれば、それはただの大人の「自己満足」でしかないと私は思います。親として、子どもの笑顔を第一に考えること、無理してまで誰かの自己満足に付き合う必要はないことを、痛感した出来事でした。
著者:遠山奈津子/30代・会社員。お出かけが大好きな2歳のひとり息子を育てるママ。休日は公園巡りで息子のエネルギーを発散中。
作画:sawako
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年1月)