衝撃の初対面
新しい先生が来る日、私はいつものように病棟を見回っていました。すると後ろから若い男性の声が聞こえました。
「失礼ですが、そのおとしでまだ現場に立っていらっしゃるんですか?」
振り向くと、見慣れない若い医師が立っていました。彼が新しく着任したA田先生でした。私は笑顔で自己紹介をし、「72歳ですが、まだまだ頑張っています」とお伝えしました。
するとA田先生は少し驚いたように、
「もしかして、まだ働かないと生活が厳しいんですか?」
と返したのです。言葉だけ聞けば気づかいにも聞こえますが、その口調にはどこか見下すような冷たさがありました。この時点で、何となく胸騒ぎを覚えていました。
患者より効率を優先する姿勢
A田先生が来てから、病棟の空気は少しずつ変わっていきました。とにかく診察のスピードを重視し、患者さんの話を十分に聞かないまま診察を終えることが増えたのです。患者さんが不安そうに話していても、「それは前回もお話した通りですね」と短く切り上げてしまうこともありました。
その結果、診察後に私たち看護師へ「先生に聞きそびれてしまって……」と相談に来られる患者さんやご家族が増えていったのです。
私たちはできる限りフォローに回りましたが、現場には少しずつ疲れがたまっていきました。
見過ごせなかった患者家族への態度
ある日、高齢の患者さんのご家族が、治療方針について不安そうに質問をされていました。するとA田先生は、少しいら立ったようにこう言ったのです。
「専門的なことを細かく説明しても、おわかりにならないと思いますので」
そのひと言で、ご家族の表情が一気に曇りました。
見かねた私はその場で静かに口を開き、「ご家族が心配されるのは当然です。私から、先生のお話をわかりやすくお伝えしてもよろしいでしょうか」と言いました。そして、今後の治療の流れや生活面での注意点を、できるだけかみ砕いて丁寧にお話ししました。ご家族は安心したように何度も頭を下げてくださいました。
72歳の経験が若手医師を黙らせた瞬間
その日の夕方、A田先生が少し不機嫌そうに「看護師がそこまで説明する必要はありますか?」と私に言いました。
私は穏やかに「じゃあ、少し言わせてもらうわね」と前置きした上で、こう続けました。
「患者さんやご家族が安心して治療を受けられるよう支えることも、私たち医療スタッフの大切な仕事です」
「年齢を重ねた分だけ、患者さんの不安に寄り添う言葉を覚えてきました。現場で積み重ねた経験は、決して無駄にはなりません」
すると、そのやりとりを聞いていた若い看護師たちや、普段から患者さんのフォローに追われていた看護師長が静かにうなずきました。さらに、その場にいた先輩医師も「診察だけが医療じゃない。信頼されることも仕事のうちだよ」と続けました。
一斉に周囲の視線がA田先生へ向きました。それまで強気だったA田先生も、自分だけが浮いている空気を察したのか、口を開きかけたものの、結局何も言い返せず黙り込んでしまいました。
ようやく戻った穏やかな病棟
その後、患者さんやご家族から病院へ相談が相次ぎ、院長も状況を把握することになりました。面談を重ねた結果、A田先生はしばらくして病院を去ることになりました。
病棟には再び穏やかな空気が戻り、若い看護師たちからも「いてくださって本当によかったです」と声をかけてもらいました。
年齢を重ねても、患者さんに寄り添う気持ちは変わりません。これからも自分にできる形で、この現場を支えていきたいと思っています。
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医療の現場では、知識やスピードだけでなく、患者さんやご家族に寄り添う姿勢も欠かせません。年齢を重ねることは決してマイナスではなく、むしろ人を支える力になる――そんなことを改めて感じさせてくれる体験談でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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