修羅場に遭遇
温泉を楽しみ、そろそろ帰ろうとしていたときのことです。女将のA子さんが宿泊客から厳しい口調で詰め寄られている場面に出くわしました。話を聞くと、現料理長が過労で突然休養に入り、その日の料理提供に支障が出てしまっていたのです。
A子さんは必死に頭を下げながら、「近隣の料亭からお料理をお届けする準備を進めています」と説明していました。
しかしお客さまは、「老舗旅館の料理を目当てに来たのに、それでは話が違う!」「夕食を楽しみに来たのにどういうことですか」と怒りをあらわにしていました。
私は両親と顔を見合わせ、常連としてこのまま見過ごすことはできないと感じました。
料理人としてできることを申し出た
私はA子さんに静かに声をかけました。
「もし差し支えなければ、何かお手伝いできることはありませんか。うちは定食屋を営んでいて、全員調理師免許と食品衛生責任者の資格を持っています」
A子さんは一瞬驚いた表情を浮かべましたが、すぐに厨房スタッフのもとへ向かい、状況を確認してくれました。
すると、調理場を任されている副料理長の方が、「人手が足りず本当に困っていました。下ごしらえや盛り付けだけでもお願いできるなら助かります」と頭を下げてきたのです。
私と両親は臨時の応援スタッフとして、必要な衛生確認と簡単な手続きを済ませた上で厨房に入ることになりました。厨房では、副料理長の指示のもと、食材の下ごしらえや盛り付け、配膳準備に徹しました。
休養中の料理長が残していた献立メモをもとに、副料理長が中心となって料理を仕上げ、私たちはそのサポートに回ったのです。
何とか夕食の提供に間に合い、お客さまからは「こういう丁寧な料理、うれしいね」「温泉の後にちょうどいい味だ」と温かい言葉が聞こえてきました。
A子さんも安堵した様子で、何度もお礼を言ってくださいました。
料理が評判を呼び、旅館が息を吹き返した
その後しばらく、私は料理長が戻るまでの間、両親に定食屋を任せ、アルバイトとして旅館の厨房を手伝うことにしました。
そして、定食屋で培った経験を活かして地元食材を使った一品料理を提案したところ、宿泊客の間で評判になっていったのです。口コミやSNSでも「料理が丁寧で心がこもっている」「また来たい旅館」と話題になり、旅館には再びお客さまが増え始めました。
私は改めて、料理は見た目だけでなく、食材の扱い方やおもてなしの心が大切なのだと感じました。
守り抜いた老舗ののれん
やがて料理長も無事に復帰し、私は家業の定食屋へ戻ることになりました。帰る日、女将のA子さんは深く頭を下げながら、こう言ってくださいました。
「今回、本当に助けていただきありがとうございました。おかげで旅館の信用を守ることができました。次にいらした時は、ぜひゆっくりお食事も温泉も楽しんでください」
その温かい言葉に、こちらまで胸がいっぱいになりました。
まとめ
思いがけない出来事から始まった今回のご縁。料理を通じて人を支えられたこと、そして長年通ってきた旅館の力になれたことを、とてもうれしく感じています。これからも、家族でまたこの旅館を訪れたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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