不穏な取引の始まり
重厚で無機質なエントランスに足を踏み入れた瞬間、どこか張り詰めた空気を感じました。受付を済ませて応接室に通されると、待っていたのは社長のA山でした。話しぶりから、会長である父親の意向を強く反映した商談であることはすぐにわかりました。
席に着くなり、A山は見積書を見ながら「今後はうち専属でやってほしい。他社との取引はやめてくれ」「この金額は高すぎる。半額じゃないと話にならない」と一方的に言い放ちました。
私はできるだけ冷静に、「専属契約や大幅な価格変更は、現状では難しいです」とお伝えしました。
しかしA山は鼻で笑いながら、
「町工場レベルで偉そうに」
と、現場の技術者たちを見下すような発言までしたのです。
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが切れました。私は毅然と、「それでは今回のお話は見送らせていただきます」と伝え、その場を後にしました。
同じ悩みを抱えていた取引先企業たち
エントランスへ戻る途中、別の取引先企業の担当者数名と鉢合わせしました。金属加工会社のB原さん、品質管理会社のC田さん、電子機器メーカーを率いるD本社長です。話を聞くと、皆さんも同じような無理な値下げ要求や契約条件に悩まされていました。
数日後、情報交換の場として各社で集まることになりました。そこでわかったのは、「他社はこの条件でやってくれている」と比較され、それぞれ無理な値下げや短納期の条件を飲まされていたという実態でした。
お互いの話を持ち寄ったことで、同じ手口で各社が押し込まれていたことが見えてきたのです。
そのとき、B原さんが深くため息をつきながら口を開きました。
「彼らの横暴には、もう耐えられませんね」
するとD本社長も静かにうなずき、「自分たちの技術を守るためにも、あちらとは決別しましょう」ときっぱり言い切りました。その言葉で、会議室の空気が大きく変わったのを今でも覚えています。
各社の連携が流れを変えた
D本社長が提案したのは、各社が得意分野を持ち寄って新しい供給体制をつくることでした。B原さんの加工技術、C田さんの品質管理、私たちの精密部品製造。さらに、それぞれ付き合いのある企業の担当者にも話を持ちかけ、共同で新たな供給体制をつくることにしました。
それぞれ単独では小規模でも、連携すれば大きな強みになります。私たちは複数企業による共同提案として、新たな取引先へ営業をかけることにしました。
その結果、品質面と安定供給体制が高く評価され、複数の新規契約が成立したのです。これまでA山の会社に依存していた状況は、一気に変わりました。
技術を信じる道を選んで
数カ月後、A山の会社は安定した供給先の確保に苦戦していると耳にしました。一方で私たちは、企業同士の信頼関係を築きながら、新しい販路を広げることができています。
あのとき、技術や現場の努力を軽んじる相手に無理に合わせなくて本当によかったと思っています。営業として会社を守ること、そして現場の技術を信じることの大切さを改めて実感しました。
まとめ
今回の出来事を通じて、一つの大きな取引先に依存しすぎることの危うさと、横のつながりの強さを学びました。
ビジネスにおいて、価格交渉は当然のことかもしれません。しかし、そこに相手への敬意や、共に良いものを作ろうとする姿勢がなければ、長期的な関係を築くことは不可能です。
今の自分たちが誇りを持って仕事ができているのは、あのとき勇気を出して「NO」と言えたから。これからも現場の技術を安売りせず、互いに高め合えるパートナーと共に歩んでいきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ウーマンカレンダー編集室ではアンチエイジングやダイエットなどオトナ女子の心と体の不調を解決する記事を配信中。ぜひチェックしてハッピーな毎日になりますように!