母は娘と一緒に過ごす時間を楽しみにしてくれて、娘も「おばあちゃんといると安心する」と言うようになりました。私も仕事をしながら母を支え、家族で助け合って暮らす毎日は、思いのほか穏やかなものでした。
ところが、そんな穏やかな生活は、弟夫婦によって崩壊してしまいました。
突然、弟夫婦が実家に現れ信じがたい発言を……
同居し始めて数カ月経ったある日、弟夫婦が子どもを連れて突然実家にやって来ました。どうやら近所の親戚から、私たちが同居していると聞いたようです。普段実家にはほとんど顔を出さない弟は母を気遣うどころか、開口一番「おい姉貴、この家に住みつくつもりなのか?」と私に言ってきたのです。
私が母と同居していることを財産目当てだと勘違いした弟は、「母さんは施設に入ればいい」「この家は、俺たちが住むからさっさと出ていけ!」と言うのです。
以前から弟は「実家は自分が継ぐ」と口にしていました。母の介護をする気は一切ないのに、家のことだけは当然のように自分たちのものだと思っている。その身勝手さに、私は言葉を失いました。
弟夫婦が知らない、私たちの決断
しかし、弟夫婦の期待は外れました。
そのころ私たちは、バリアフリーなマンションへの引っ越し準備を進めていたのです。実家は大変古く、昔ながらの造りのため階段や段差が多く、娘と一緒に暮らすにも安心とは言えず、母がよく考えたうえで手放す決断をしたのです。
弟夫婦に、母のこれからの生活、そして娘との暮らしやすさを考えた上で、住み替えを決めていると伝えると、いつか実家がもらえると思っていた弟夫婦は顔面蒼白になりました。
母が弟夫婦に伝えたこと
そのとき、これまで黙って話を聞いていた母が、静かに口を開きました。
「あなたたちは、私の体のことも生活のことも気にせず、家のことばかりね」
「私たちが困っていたとき、一度も助けてくれなかったのに、自分の都合だけ主張するのは違うでしょう」
さらに母は、「この家をどうするかは私が決めること。私にも介護に関わってくれないまま、口だけ出すのは筋が違う」と、はっきり言いました。
その言葉に、弟夫婦は何も言い返せず、すごすごと家を後にしました。数日後、ようやく自分たちの間違いに気付いたのか弟から連絡があり、母と私に謝罪がありました。
私たちの新しい暮らし
その後、私たちは予定どおり、バリアフリーマンションへ引っ越しました。母にとっても暮らしやすく、娘にとっても安心できる住まいになり、私も通勤しやすくなりました。
新しい家でも、娘と母は相変わらず仲良しです。学校から帰ると娘は母の部屋に顔を出し、その日の出来事を楽しそうに話しています。そんなふたりの姿を見るたびに、この選択は間違っていなかったのだと感じます。
弟夫婦も、あの一件で自分たちの発言が行き過ぎていたとようやく理解したのか、後日、形ばかりではありましたが母と私に謝罪してきました。ただ、心から反省したというよりは、自分たちの立場が悪くなったことを気にした様子にも見えました。
それ以降、以前のように家について口を出してくることはなくなり、こちらも必要以上に関わらず、適度な距離を保ちながら付き合っています。
家族だからといって、支える覚悟もなく権利だけを求めれば、信頼は簡単に失われてしまいます。人を思う気持ちを形にした先にこそ、穏やかであたたかな暮らしは生まれるのだと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。